チートスキルの説明が理解できないバカ転生者 vs 必死に説明する女神

ヽ(`Д´)ノぴゃー

序章(完)


「あれ!?俺死んだはずでは…!!?」


男の名は山田 鹿場ろくじょう

彼は確かに先ほど自動車事故に巻き込まれ死んだはずだった


だが潰れたはずの体にはなんの傷跡もなく

神殿のような場所にたたずんでいた


鹿場「ここはどこなんだ…?」



――「よく来てくれました

   異世界の勇者よ 」


鹿場が振り返ると女が一人立っていた


薄布のドレスや神々しい雰囲気は

まるで古代ギリシャの女神像が命を持って

動き出したかのようだったが

鹿場の語彙で表現するとこうなった


鹿場「なんかエロい恰好の人がいる!!」




――「私の名は女神セツ=メィ」


セツ=メィと名乗った女神の説明によると

この世界は『黎明の魔王』と呼ばれる存在により

危機に陥りその魔王を倒すために

鹿場が召喚されたという



女神「異世界から転生した人間は

   『スキル』と呼ばれる特殊能力が

   与えられます」


女神「スキルの力を用いて黎明の魔王から

   この世界の人々を救ってください…!!」



鹿場「…」


  「…」


  「…」


鹿場「俺バカだから…

   何が何だかさっぱり

   解かんねーんですけど…


今まで生きてきた世界の常識を超える

情報の洪水にしばし沈黙した鹿場だったが…



鹿場「困ってる人は放ってはおけないんで

   任せてください!!」



女神「まあ、なんと頼もしい転生者でしょう…!!!」



女神が召喚した人間は鹿場が最初の一人ではない

『魔王を倒す』という使命の性質上

子どもにさせるわけにもいかなかった


過去の転生者は大人故の打算やずる賢さで

・世界を救う事を放棄して自らの欲望を優先させる

・スキルを悪用し新たな世界の脅威となる

・願いを聞く代わりに無茶な対価を要求する

等の厄介な転生者が多かった


そんな中、鹿場の幼稚とも言える素直な正義感に

女神は思わず感動してしまった



女神「………」


女神が手をかざし小声で何かつぶやくと

鹿場の前に文字が描かれた

空中ウィンドウのような物が現れた



女神「…!!??」

  

  「この人、Sランクスキルを

   2つも持っているわ……!!」



女神「私ですらSランクスキル

   1つしか持ってないのに…

   凄い……!!」


------女神セツ=メィ スキル①----------------

S『スキル付与』

異世界から人間を転生させ

その者にスキルを与えられる

ただし与えられるスキルはランダム

----------------------------------------------------



女神「これなら本当にあの黎明の魔王を

   倒せるかもしれない…


   いったいどんなスキル…」



女神が手を動かすと空中ウィンドウのような物は

次のページに切り替わった


------転生者山田 鹿場 スキル①----------------

S『時の分配』

右手で触れた物から時間を奪い

それを別の物に与える事が出来る能力

ただし結果は残る

----------------------------------------------------



鹿場「これはどういう能力なんですか…?」


女神「説明しましょう……」





…30分後


鹿場「…?」






…1時間後


鹿場「………???」






…2時間後



鹿場「……」


――鹿場は既に話を聞いているのかも定かではない




女神「…ぐぁあおきおあおぉ……っっ!!!!!!」



女神「この人

   説明を全然理解

   してくれない…!!!!」



鹿場「あの、俺バカだからよく

   わかんないんですけど…


   その悪い魔王って奴を

   この右手でぶん殴ってくれば

   いいって事ですよね…!」



女神「それは絶対だめ…!!!!」



鹿場「なぜですか?」



女神「いいですか…?


   例えばスキルを

   発動しつつ魔王を殴って

   5ハン(※)奪うとしましょう…」


※異世界における時間の単位 1ハン=0.87秒



鹿場「あ、なるほど!

   わかりました…!


   お腹が空いて戦えなくさせる

   作戦ですね…!!」



女神「ご飯を奪うわけじゃない…!!!」



鹿場「ああ、すいません」



女神「いえ、今のは私の説明も

   悪かったですね…


   〝ハン〟というのは

   あなたの世界の秒に相当する単位で

   1ハンが0.87秒くらいです」



鹿場「じゃあ5ハンって事は…


   0.87×5秒は…えっと…」


 …


 …


 …




鹿場「4分35秒…!!!」


女神「全然違う…!!!!!!」



女神「分どっから出て来た…???」



鹿場「すいません

   俺バカなんで計算は

   苦手なんですよ」


女神「…」


女神「…大丈夫…

   大丈夫大丈夫……


  「私がそっちに合わせるから…

   大丈夫……」



女神「あなたが『時の分配』を

   発動しつつ右手で魔王を殴って

   5秒奪うとしましょう…」


  「この能力は時間を奪っても

   結果は残るので魔王から5秒

   時間を奪えますが…」


  「あなたは即座に殺されてしまいます!!」



鹿場「…??」



女神「いいですか?

   奪えるのは時間だけで

   結果は残るんです」


鹿場「???」



女神「じゃ、じゃあ例え話をしましょう」


  

女神「ヤキウって知ってます?」



鹿場「野球…?」



女神「そうヤキウのピッチャーと

   キャッチャーが居るとして……」



鹿場「ちょっと待ってください!!」


  「野球がなんで異世界に

   あるんですか!?」



女神「いいだろ今はそれ!!」


鹿場の疑問は真っ当と言える物だが

一向に説明を理解しない上に

本筋と関係のない枝葉に食いついてくる鹿場に

女神も最初の神々しい雰囲気は鳴りを潜め

段々と荒っぽい口調になっていた



女神「色々あったんだよ

   過去の転生者との間で!!



鹿場「え、でも…


   俺バカだから

   よく解かんないん

   ですけど…」


強引に話を進めようとする女神に対して

なおも食い下がる鹿場



鹿場「俺の思い描く野球と

   この世界のヤキュウで

   違う部分があったら

   話が噛み合わなくて

   余計に混乱しないですか…?」


  「言葉の定義の擦り合わせは

   最初にちゃんとしといた方が

   いいと思うんですよね」


  「さっきだって5ハンと

   ご飯で行き違いが

   あったわけじゃないですか?」


  「俺バカだか

   変な事言ってたら

   すみません」



女神「うぐっ…!!」


鹿場の予想外の筋の通った反論に

口ごもってしまう女神



女神「バカキャラが

   たまに賢くなって

   真理を突く発言する奴……!!!!!」


   なんでその賢さを

   説明理解する時には

   発揮してくれないの…!!??」



※※※※※※ここは読まなくていいです※※※※※※※


女神「ヤキウは球形の”ボール”と木や金属で出来た棒”バット”を使って攻守を交代り合うゲームです。人数は10人対10人が基本ですが集まった人数により臨機応変にポジションを増やしたり減らしたりします。まず守備側はピッチャーとキャッチャす。ピッチャーはボールをキャッチャーに向かって投げます。攻撃側は一人だけバチャーがボールをキャッチする前にボールを前方に打ち返します。この選手をバッ3回失敗すると1アウトとなりバッターは攻撃側の他の選手に交代します。3回アウ攻守交替になります。バッターは打席に立つ時にデッキからカードを一枚ドローしされし者の右足』の5枚が揃った時にデュエルに勝利することができます。バッタボールを打ち返した場合守備側はボールが一度地面に落ちる前にキャッチすれば

場合でもバッターが一塁に辿り着く前にボールを一塁に送球すればアウトになり

(以下略)


※※※※※※ここは読まなくていいです※※※※※※※



鹿場「うんうん…

   大体わかりました」


女神「はぁはぁ…」


長々とヤキウのルールを説明させられて

少し息が上がる女神



鹿場「じゃあ次は

   インフィールド

   フライについて…」


女神「インフィールドフライの話は

   関係ないしややこしいから

   別にしなくていいよ…!!!」


鹿場「え、でも…」


女神「そもそもインフィールドフライを

   理解出来るのになんでこっちの

   能力の説明は理解してくれないん

   だよぉぉお!!!」



鹿場「それはですね…

   我々の世界では

   バカでもかしこでも」


  「男子はインフィールドフライと

   オフサイドのルールは全員

   完全に理解してるんですよ」


  「この異世界では違うんですか?」



女神「インフィールドフライで

   話を広げようとするな!!!!!!」





女神「では能力の説明の話に戻りましょう」


  「ピッチャーとキャッチャーが

   居るとします…」


  「ピッチャーがボールを

   投げながら”時の分配”を

   発動させて」


  「ボールから5秒奪う」


  「時間を奪われて

   結果だけ残るから」


  「0秒でキャッチャーミットに

   到達するんです」



鹿場「ふむふむ…」



女神「そして次に奪った5秒を

   付与しながら投げると

   本来は一瞬で起る

   『ボールがキャッチャーの

    ミットに辿り着く』

   という結果がプラス5秒されて

   ゆっくりと起るわけです…」


鹿場「ハハハ

   さっきのヤキウと野球の

   ルールの擦り合わせは

   全く必要なかったですね」


女神「お前がさせたんだよ全部!!!!!!!!」



女神(スキルの説明…

   まだ1個目なのに…

   …これ……?)


女神「…」


女神「…」


女神「…」



鹿場「?」



女神「えぇ…では…

   2つめのスキルは…」



鹿場「あれ、俺バカだから

   よくわかんねーんですけど…」


  「説明諦めて次に行こうと

   してません?」



女神「うう…だってもう…

   私には理解させるの無理……!!」



鹿場「この能力使いこなせないと

   魔王倒せないんですよね?」



女神「いやだって

   ほら…!!


  「解けない問題は

   とばして解ける問題から

   やりなさいって」


  「あなたの世界の学校の

   先生はそう教えてくれなかった!?」



鹿場「ああ…中学の先生が

   それ言ってました…!!」



女神「じゃあ次行きましょう!

   次!!!」


女神(説明は理解しないが

   説得は容易いな…!!)




女神「えーっと…

   じゃあもう一つの

   スキルは…」


女神が手を動かすと

鹿場の前に現れた空中ウィンドウは

次のページに移った


------転生者山田 鹿場 スキル②----------------

S『智の授与』

左手で触れたものを賢く出来る

----------------------------------------------------


女神「……!!!!!」


鹿場「どうしたんですか?」


女神は無言で鹿場の左手を持ち

鹿場の頭を掴ませた


そして鹿場の左手は発光を始めた…



鹿場「ふむ…なるほど」


  「原理が面倒なだけで

   この『時の分配』という

   能力は実質的には単に…」


  「早送り(スキップ)と

   スローが出来るの能力って事だね…」



賢くなった鹿場は2つのSランクスキルを

十二分に活かして5分で魔王を倒した

そして異世界には平和が訪れたのだった

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