第1470話・御前海水浴

Side:久遠一馬


 海水浴当日は快晴だ。砂浜は気持ちいい海風が吹いていて、多くの人々が思い思いに散っていく。こういう光景を見ていると、みんな慣れたんだなと思う。


 上皇陛下が砂浜に来られたのは、そんな人たちより少し遅れてだった。相も変わらず行列で公卿と公家衆を引き連れている。


 あと、北畠と六角、北条、三好、朝倉が残っていたので同行している。説明段階では若干戸惑っていたところもあるけど、ウチの遊びだと説明すると是非参加したいというので。


 ちなみに、オレは上皇陛下たちとは別行動だ。いつものように楽しんでいいということになっている。これは上皇陛下の配慮っぽいね。公卿や公家衆と尾張、微妙に嚙み合っていないのをご理解されている節がある。


 上皇陛下の傍には姉小路さんや京極さんがいる。信秀さんと義統さんも別行動だからなぁ。基本、家族とか家臣と一緒に座る場所を用意してある。


 皆さんのところには直射日光を避けるために、ゲルを中心にして風通しがいい天幕を周りに張ってあり、尾張の皆さんはリラックスしているようだ。


「やはり院と公家衆がおられると気になりまするな。良いのかと思うてしまいまする」


「だろうね。人を集めて良かったよ」


 資清さんはやはり上皇陛下のおられる方角が気になる様子だ。みんなそうなんだろうね。そういうことも理解して人を増やした。


 一番元気なのは、やはり子供たちだ。学校の学徒と孤児院の子供たちなんかは、早くも一緒に体操をしている。元の世界のラジオ体操に近いものだ。尾張だと、アーシャが教えているんだよね。


「オレが一番だ!」


 最初に海に入ったあの子、前田又左衛門君じゃないか? 信長さんが連れてきたんだろう。天幕とかの支度を終えたらしく、海に駆けていったんだ。


「よし、みんなもいいわよ!」


「わーい!」


 続いて体操が終わった子供たちも、アーシャの許可を得て海に駆けていく。


「細かいこと気にせず楽しめばいいんだよ。そんな姿をお見せすることがなによりさ」


 オレたちにそう囁いたジュリアは、いつもと同じく元の世界のビキニタイプの水着を着ていて、セレスとか侍女さんたちとかを連れて海に行った。


 産休中のメンバーも来ているけど、妊娠中の人は特に激しい運動はしないようにする。ケティみたいに産後なら、本来はそこまで気にしないんだけどね。ただ、あまり動くと今後産休を取る女性が休めなくなるので、ケティも今回は大人しくしているようだ。


「とのさま! エルさま! あのね、かいをひろったの!」


 オレは資清さんやエルやケティたちと一緒に、全体の様子を見ていたんだけど、子供たちがさっそく貝を拾ったからと見せに来てくれた。これも遊びの一環になっているんだよね。


「凄いな! よくやったね!」


 ちょっとオーバーアクションで驚いてあげると、子供たちは嬉しそうにはしゃぐんだ。


「おおたけまるさま! かいとれました!」


 子供たちは、まだ弟や妹たちと一緒にゲルの中にいた大武丸にも見せていて、大武丸が行きたそうな顔をした。


「じゃあ、みんなで貝を探しに行こうか?」


「ええ」


「かい!」


「かい!」


 オレの実子たちはまだ歩けない子も多いからな。孤児院にもそんな幼子がいる。人手はあるので、そんな子供たちをみんなで抱っこして一緒に水際に行こう。


 エルがほほ笑み頷くと、大武丸と希美は嬉しそうに声をあげ、あきらなんかはさっそく歩き出している。


 もちろん、ロボ一家も一緒だ。ああ、今日は里子に出した子たちも来ている。向こうでは織田家と斯波家に出した子たちがすでに遊んでいるのが見えるね。


 エルたちの水着姿もあまり騒がれなくなった。あっちでは土田御前が同じくビキニタイプの水着を着てくつろいでいる。スタイルもいい人で美人なんで、よく似合っているね。


 ただ、土田御前なんかはウチへの配慮もあって水着を着ている可能性もあるけど。いろいろな水着の中でどれを選ぶかと思ったけど、本人がビキニタイプを選んだらしい。


「一馬殿! エル殿!」


 子供たちと一緒に貝を拾っているメンバーにお市ちゃんもいた。彼女はワンピースタイプの水着姿でこちらに手を振っている。何度も海に来ているからな。水着も着慣れている感じがある。


 ちなみに乳母の冬さんも水着だ。彼女はお市ちゃんと一緒にウチによく出入りするから、ウチの習慣にほんと慣れているね。


 女衆とか泳がない人も潮湯治の要領で海に浸かることを試すこともあるようだ。着物を着たままの人と水着を着た人が半々くらいだろうか。いや、水着が多いかもしれない。身分のある人は水着が多い。これ水着が手に入らないだけかも?


 照りつける太陽は暑い。でもね。海の水は心地よいくらいだ。


 まだ小さい子は記憶にも残らないかもしれない。でもね。こうしてひとつひとつ思い出と絆を深めていくのが家族なのかなと思う。実の子と孤児たち。いけないね、あの子達はオレの猶子達だ。信秀さんと土田御前がオレに与えてくれたあたたかさを伝えるのが、オレに出来る一番の恩返しに違いない。子沢山で大家族も真っ青な人数になっているけど。


「みんな、沖に出過ぎたら駄目だよ」


「はーい!」


 子供たちは素直だ。今日は沖合に船があって警備と流される人が出ないか、常に監視をしてもらっている。


「あれ? 雷鳥水隊、もう実働しているんだ……」


 ただ、オレも驚いたのは、ライフセーバーのように一定間隔で監視をしている人たちだった。褌姿に雷鳥隊の半被を着ていて、竹筒製の浮きを片手に、子供とか女衆に気を付けるようにと注意している。


「ふふふ、驚いたかい?」


 うわっ、背後に黒いビキニを着たジャクリーヌがいたのに気づかなかった。雷鳥隊に驚かせたかったのか、それとも気配もなく近寄ったのを驚かせたかったのか。どっちだ?


「雷鳥水隊。もう使えるの?」


「ああ、数は多くないけどね。水軍で泳ぎの達者な奴を集めて鍛えたのさ」


 ライフセーバーを作るつもりじゃなかったんだけどね。今後増えるだろう水難事故や海難事故を考慮して、海や川で活動を得意とする雷鳥隊の水場担当を計画してジャクリーヌに頼んでいたんだ。


 ちなみに雷鳥水隊というのはオレの付けた仮称だ。


 港や川でおぼれただけでも救助って難しいんだよね。蟹江にはそろそろ必要かと思ってさ。それにしても仕事が早いわ。


 こうして見守ってくれると助かるなぁ。みんな顔見知りだから、何かあった時はそれぞれが助ける人になるけどね。きちんと役目として決まっている人もいると、さらに安心だ。


 さあ、小さい子たちも海に触らせてあげよう。


「じーじ、うみつめたい!」


「そうじゃの、御家は海を渡る。皆も、この海に乗り出してお役に立つのじゃぞ」


 キャッキャッと喜ぶ子供たちを微笑まし気に見つつ、オレも水に触らせてあげていると、少し足の悪い年配のおじいさんが子供たちに囲まれて幸せそうにしているのが見えた。


 あの人、確か最初の年の流行り風邪で捨てられた人だったな。今でも孤児院で働いてくれている。孤児院の呼び名もいずれは変えないとね。リリーには子守りも大変なら、ゆっくりさせてもいいと言っているんだが、当人が子供たちの世話に生きがいを感じているそうで任せているそうだ。


「わん! わん!」


「わん! わん!」


 おっ、ロボ一家も元気だ。ほんと来て良かったなぁ。



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