第955話・大評定の前に

Side:久遠一馬


 今年の新年最初の仕事は織田家の家臣が一同に集まる大評定になる。これまでやったりやらなかったりしていたが、今年から年始に固定する案が出ている。


 今年は報告することが多い。まずは待望の度量衡の統一だ。升や物差しを同じ大きさに統一する。これ今までバラバラだったんだよね。もらう時は大きめの升で、与える時は小さめの升を使うなんてよくあることだった。


 金貨と銀貨のお披露目。金貨と銀貨は現状では貨幣ではなく褒美として配る工芸品として扱う。まあ織田家で認めた価格での買い取りもするけど。詭弁だろうと一応筋は通っている。


 それと織田手形、そろそろデザインの変更と運用の見直しをすることになり、デザインが心機一転変わる。新しい織田手形は今までの一貫と十貫に加えて、五百文と五貫の計四種類に増やす。


 これ問題になるレベルの偽造が今のところほぼないんだよね。技術的に難しいこともあるが、最初に偽造を企んだ土岐頼芸と堺の町の結末と現状もあるんだろう。商人などからは流通量を増やしてほしいという嘆願が随分前からあった。


 ちなみに使用を認めているのは伊勢の自治都市では大湊だけなんだが、宇治山田など他の自治都市でも事実上流通している。取り扱いを認めている商人には、偽造手形を持ってきても換金はしないと最初から説明しているので、信用出来ない相手の手形は受け取るなとは言ってあるが。


 ああ、この金貨と銀貨と新しい織田手形に合わせて、織田家では金貨と銀貨と織田手形の換金業務を正式に始める。形式としては織田家でそれらを買い取る形になる。それと今まであまり表沙汰にしていない家臣への金の貸し付けを正式に行うことにして、新たに銭の預かり業務もする。


 そう、これ事実上の銀行業務になる。一応家臣統制の一環であり、武士以外には金貨と銀貨と織田手形の買い取りしかしない予定だが。


 これも寺社を刺激するので随分揉めたんだけどね。そろそろ必要があるのが実情になる。


 寺社への配慮は医療の末端として領民の診察と、学問を教えることで一定の俸禄を出すことを正式に決める。今までも個別に出していたんだけどね。きちんと分国法で法制化する。


 まあその代わり守護使不入の撤廃や勝手な関所の禁止も明文化するが。総じて収入は減ることはほぼないはずだ。


 次に図書寮の件を正式に発表する。一応許可は出ているんだ。こっちは先に準備を進める。公家を特別扱いしないことや、領内に書物の写本の提出を求める。礼金はもちろんある。


 領内のことに関して、織田一族と尾張の国人の領地整理をする。これ以前からしていて徐々に進んでいたんだけどね。信光さんの成功例から織田一族も実現した。さすがに自分の生まれた城は維持したいとのことで、村ひとつというわけにはいかない領地は残すことにしたが。


 三河と美濃は現在でも交渉中だが、概ね本領と言える場所以外の俸禄への変更は大きな反対もないので正式に始める。これ実は問題だったのが大垣周辺の国人衆で、オレが来る前からや道三さんの臣従以前に臣従した人たちだった。彼らには領地安堵を一回だしているからね。


 ただまあ、利点と統治体制の変革を見てきている人たちなので、俸禄が大丈夫だと理解してからはそこまで反対はされてないが。


 あと織田領全域で山林地域は、これに合わせて基本的に直轄領として、山林所有の領主は俸禄に切り替える。それと炭焼きの技の解禁。それもこれに合わせて教えることになった。


 山林もね。禿山になるほど木を切るか放置しているかのどっちかだ。管理体制に移行しなくてはならない。まあ山間部の国人衆からすると安定的な俸禄のほうがありがたいだろう。


 これ大部分が織田に慣れていない北美濃と東美濃なだけに、国人衆への説明に苦労したが。彼らには知多半島と山の村の視察をして理解してもらった。


 まあ現状では山林の管理は地元の彼らに委託することになるので、俸禄が領地分で役職分が増えることも承諾した一因だろう。信秀さんには勝てないという理由も多分にあるのだろうが。


 次に軍事に関しては、水軍の完全俸禄化を分国法で定める。それと沿岸水軍と海軍の分離も始めることにする。というかウチの船を海軍扱いにすることになった。海軍には織田家の南蛮船も含まれるが。


 水軍を俸禄化することへの対処でもあるが、沿岸での警備と輸送が主な任務の水軍と遠洋での活動が目的の海軍はいずれ分離が必要になることもあり、今から体制上は分けて扱うことになる。


 あと常備兵となる黒鍬隊の編成もいよいよ試験的に始める。これもまあ議論があった。警備兵との違いから理解していない人も多かったし、そもそも領民すべてが戦に行く時代だ。専業の常備兵をと言ってもピンとこない人が多かった。


 平時は土木工事などで働き、月に何度か訓練をすることで黒鍬隊としての禄を出す。戦時には迅速に出動するというわけだ。これ賦役の民と変わらないのではと言われるとそうなんだけど。


 現状では完全な職業軍人は武官だけで十分なんだ。工兵としてのスキルを持つ黒鍬隊のほうが使い勝手はいい。賦役の民や領民から募集する。正直、警備兵も人手がまだ足りてないのでこの形でないと常備兵の創設が難しいんだよ。


 あと砦は前線を除き破却する。あれ放置も出来ないんだよね。賊とか入り込むから。なので解体してしまわないといけない。これは人手不足が原因だ。


 それと伝馬、伝船の創設。伝書鳩は便利だが、まだ織田家で使うのは早い。むしろ伝馬と伝船のための整備が必要だ。各所に駅を設けて馬や船を常に用意しておいて情報伝達スピードの迅速化と安定化を図る。


 そうそう、これは野分の反省からのことだが、非常事態宣言を分国法に定める。織田家当主が非常事態と認め宣言した場合には、超法規的措置を実行すると予め決めることにした。


 各国人や寺社に対して非常事態宣言時は、織田家で定めた者の命令がすべてにおいて優先すると正式に決めた。これで三河の時のように、ここはオレの領地だから従わないとかなくなるはずだ。


 あとは病院内に救急隊、雷鳥部隊という名称になっているが、それを創設する。これも医療知識のある人が少なくて救えなかった命があった教訓から創設を決めた。


 あと各地にある城、これは緊急時のために必要な整備と蔵の増築をすることになった。もともとこの時代では戦の際には城に逃げ込むこともあるので、防災拠点としてはちょうどいい。


 それと村単位での避難所として寺社の修繕の補助も決めた。寺社が一番安全な場所にあったりするのと、真面目な寺社ほどお金がない時代なので織田家として支援が必要だ。


 尾張だと雨漏りするような寺は減りつつあるんだけどね。オレも気付いたら寄進しているし。ただ、美濃や三河ではまだまだあると思うからさ。


 大きな発表はこのくらいかなぁ。織田家の体制も少し変えるのでそっちの発表もあるが。




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