第421話・戦国式空爆?
Side:柳生宗厳
「血気に逸っておりますなぁ」
慶次郎殿が先陣の様子を見ておりながら、呑気に団子を食っておるわ。ここ対本證寺の前線は三河と美濃の国人衆たちで殺気立っておる。
山門攻めの大将は三郎五郎信広様だ。三河を今後も任されるであろうお方だけに、大殿も武功を立てさせてやりたいのだろう。
拙者はジュリア様やすず様、チェリー様と共にそんな三郎五郎様の陣におる。
「しかし今巴の方様。抱え大筒隊を下げてよろしかったのですかな?」
「門の向こうは建物を壊して、
戦が始まり小競り合いが起こる中、声をかけてきたのは三郎五郎様の家臣だ。
本来ならば抱え大筒で門を破壊して突撃するはずであったが、忍び衆の物見により門が使えぬようにされておることが、昨夜のうちに判明しておる。
恐らくは金色砲の対策であろうが。さすがに無策ではないということか。
しかし三郎五郎様はお若いながら落ち着いておられるな。ジュリア様のことも侮ることなく、策を自ら問うておられたほどだ。
まあジュリア様もそれを知ってここに来られたのだが。ここの陣の者も本證寺内の様子は詳しく知らぬようで、中の様子を知るジュリア様の言葉に驚いておる。
「じゃんけん、ぽん。あっち向いてホイ!」
「うわぁ。負けたのです!!」
「ふふん。拙者の勝ちでござる!!」
ああ、気負いがなく緊張の
じゃんけんと言うたか。すず様たちが広めた遊びに
最前線の戦陣でこのようなことをするなど、古今東西でもほかにはおるまい。
とは言えこのおふたり、武芸の腕は拙者よりも上だ。身分もあって三郎五郎様がなにも言わぬ以上、誰も文句は言えぬ。
「久遠家では面白き遊びがあるのだな」
「そうなのでござる!」
「戦の前の肩慣らしなのです!」
「これはこれは頼もしき、ではあるが、わしにも手柄を残しておいてくれよ」
もっともここ前線の陣では、おふたりが武芸の腕が立つのを知る者も多い。余裕のある者はおふたりと談笑しておるほどだからな。
あれは小豆坂の七本槍の佐々殿の兄弟か。
「始まったよ。さて、本證寺はいつまで冷静でいられるかねぇ」
先手はやはり殿だったか。焙烙玉を投石機で中に撃ち込むとは、ほかでは真似が出来ぬことを致される。
堀が二重にあり堅固な城郭で、織田でも今川でも落とせぬと自慢しておったと聞くが。ジュリア様のおっしゃる通り、いつまで落ち着いておれるのやら。
中から慌てる声が一気にここまで聞こえてくる。
さて、こちらから攻めるのが先か、我慢出来ずに敵が出てくるのが先か。
Side:本證寺の僧
「ふん! 織田がどれほどのものだというのだ。大軍でなくば攻めてこられなかった臆病者だ。あの数では遠くないうちに兵糧がなくなる」
「自慢の金色砲が鉄砲の類であることなどすでに承知なのだ。門は封鎖した。いくら撃ってきても無駄だ」
味方の士気は高い。織田の臆病者がのろのろとしか来られなかったせいで、臆病風に吹かれた者は逃げるか処分出来た。
織田とて春になれば退くであろう。
寺内町の商人たちが早々に逃げだしたことが痛かったな。伊勢の商人も兵糧を売って寄越さなかった。今川家の山田殿が口利きをしてくれた駿河の商人が兵糧を調達しおったので、足りぬとはならぬはずなのだが。
とはいえ織田がもたもたしておるうちに、寺の守りの
門はすべて土や建物を壊した木材で固めておいたし、塀も叶う限りの補いはしたのだ。
一度使ったものが我らに通じると思うなよ!
「それで玄海上人は?」
「だめだな。勝手にしろとしか言わん。のんきなものだ」
味方の懸念は玄海上人だろう。
一声かけてくれればさらに士気が上がるというのに、未だに我らの言うことを聞かん。誰のお陰で今の地位におると思うておるのだ。
まあいい。最悪は責を負ってくれるお人なのだ。今までも玄海上人の名で下知を出しておる。万が一降伏する際は、玄海上人と畿内から来た学僧どもの首で終わらせればいい。
「申し上げます! 織田がなにかを撃ち込んできました!!」
「なんだ? 金色砲か?」
「わかりません!! ただ
始まったか。やはり金色砲で攻めてきたな。進軍が遅かったのはそれも理由であろう。あれは持ち運ぶのが
いくら撃っても無駄だ。堀を二つも越えたここには届くまい。
「ぐわっ!!」
「ここも危ないぞ!!」
「おっ、
なんだと!? どうなっておるのだ?
本堂で集まって采配を振っておった我らの周囲が騒がしくなったのは、最初の報告からしばらく経った頃だった。
先は長いが勝ち戦だと、酒を飲んでおった者も顔色が悪くなった。
敵陣からここまではかなり離れておるし、途中には塀や建物など障害となるものが多数あるのだぞ?
あれはそう遠くまでは撃てぬと言ったのは誰だ!!
「ええい、直ぐにやめさせろ!!」
「金色砲を撃っておる連中を先に始末しろ!」
「すでに試みておりますが、猛烈な反撃を受けております! 弓、鉄砲、共に数が違い過ぎて相手になりません!!」
「ならば弓を全てそこに集めろ!! ほかは石で防戦しておればいい」
いかん。上から落ちてくる武器など、我らにはどうしようもないではないか!
どうせ久遠であろう。ほかはどうでもいい。まず連中を始末せねば、我らが危ういではないか!!
何故我らが命を懸けねばならぬのだ! 命を懸けるのは無知で身分の低い連中の役目ぞ!
Side:久遠一馬
「これの欠点は、どこに着弾しているか見えないことだよね」
「中心部を目標に攻撃中ですので問題はありません。特定の目標を破壊する必要はありませんので、着弾観測は不要です。反撃がこちらに集中しているのは恐れている証です」
辺りには火薬の匂いが立ち込めている。
エルは焙烙玉の発射方向を本證寺の中心部に設定したが、着弾観測が出来ず、成果が見えないのがもどかしい。ピンポイント爆撃をしているわけではないから、中心部付近に着弾すれば問題はないんだろうけど。それに、どこに落ちるのかが分からないのが砲撃の怖さだしね。
次から次へと撃ち込んでいく焙烙玉に、敵も反撃を試みているようで弓や石が飛んでくる。
鉄砲も僅かにあるらしいが、多分数丁だ。脅威ではない。
「太田殿。やはりここが一番の狙いどころですな!!」
「そこに気が付いた大島殿もさすがですな」
ああ、うちの陣でいつの間にか弓を射って敵を次から次へと倒しているのは、大島光義さんだ。
美濃の国人衆で織田に臣従している人だ。史実の戦国時代でも有数の弓の名手で、第一回武芸大会では弓の部門で優勝した人だ。
史実では戦国時代を生き抜き、大名にまでなったのに、弓の名手としての資料がわずかに残った程度でなぜか無名に近いマイナーな人だ。
いつの間にか太田さんと親交を深めていたらしく、急遽ウチの陣で弓を射たせてほしいと、太田さんを伝手に、頼んできたから許可を出したんだけど。
鉄砲の弾幕と太田さんや大島さんに加えて、セレスもさっきから弓で攻撃しているので反撃がほとんど来なくなってきた。
大島さんは投石機のことを知って、ここに一番の反撃が来るだろうと予測して来たみたいだ。
あんまり用兵が得意そうではないけど、戦の勘所はちゃんと押さえるし、敵の偉そうな人から狙って倒せる弓の腕前は凄いね。
「籠城殺しだよね。投石機って」
「元々そういう兵器ですので」
投石機の威力というか、この時代の日ノ本で三次元の立体攻撃をしているなんて、ほんの少しだけど本證寺の坊主に同情したくもなる。
投石機を使うように提案してきたのはエルだ。
費用対効果で考えて、ここでは金色野砲よりも良いらしいし、多様な武器を使うことで、今後、敵を惑わせる効果もあるらしい。流石に榴散弾を使用するのはやりすぎだしね。
まあ投石機なんて紀元前からあった武器だ。敵が知っていてもおかしくはない。
ただ、これで焙烙玉を撃ち放題なのはウチだけだろうね。
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