第285話・こっそりと移民
Side:ヒルデ
「第十八宇宙港、重力圏往還船専用ドックの地球硫黄島行き航宙輸送艦は予定通りの出航になります」
「第七宇宙港には太陽系外から資源輸送の次元航宙艦群が到着します。受け入れ準備をお願いします」
ここシルバーンの中央司令室には太陽系のみならず、近隣星系の情報が集まってくるわ。
この世界にきて一年と数か月。領有したとまでは言えないけど、警戒網は太陽系を遥かに超えていて、太陽系は最終防衛ラインになっている。
各地には小惑星なんかを利用した簡易要塞を配置して警戒は怠ってない。敵なんかいないし、少しむなしいけど。でもやらないよりはね? いざ、敵が現れたときに慌てて準備を始めるなど愚行でしかない。
それと私たちの保有艦隊の大半は無人艦で、現在はロボット兵と共に外宇宙の調査に行っている。
資源採掘も未来の人類のために太陽系内は極力残す方針で進めている。
存在する可能性は限りなく低いけど、私たちの世界から別の同胞が流れてきてないかの捜索や敵性生命体の警戒も一応してるのよ。
「小笠原基地より定時報告。移民事業を開始」
「了解。サポートは任せて。司令室は暇なのよねぇ」
アンドロイド各体はほとんど地球だ。シルバーンは快適だけど暇なのよね。氷漬けのマンモスでも再生しちゃおうかしら。
地上ではいよいよ移民事業が始まった。この時代の日本では戦や飢饉で飢え死にする人や捨て子が多い。
そんな放置すれば死ぬ命をこちらで確保して移民として南方に送る計画よ。
どのみちこの時代の食糧事情では日本国内で全ての人口を賄うことはできない。これは偽善というべきかしらね? それとも非道と
一部は記憶を改ざんして小笠原諸島の住民にするわ。来年あたりには佐治水軍が小笠原諸島まで来そうだし。あ〜、そろそろ小笠原諸島って呼ぶの止めた方がいいかしら、この世界で今後もし小笠原何某が島に来ても、命名できるはずもないし。住民や来訪者のことを考えると頃合いよね。まあとにかく住民の記憶だけど、司令への忠誠心は埋め込ませてもらうわ。ここは久遠家に救われた者が暮らす島ということで。
野垂れ死ぬよりはいい生活を保障する。
方法は潜入させた偽装ロボット兵による保護と空挺艦による回収と移送。記憶の改ざんが前提だけど、正当な方法での移民は織田家が統一政権を樹立するまで無理なのよね。
ウチがやっても端から見たら、史実の海外への奴隷売買のように見えてしまうもの。
まあ偽善でも救える命を救い、久遠家の領民になるんだから悪くないはずよ。
Side:久遠一馬
「こういうの芋づる式って言うんだろうね」
太田さんの結婚式から一週間が過ぎていた。暦は師走に突入していたが、太田家乗っ取り事件は坂井大膳の腰巾着たちを一掃することになった。
強盗に見せかけた一家殺害に腰巾着たちが加わっていたらしい。
「おそらくは真次郎たちは頼りにされておらなかったのでございましょうな」
太田さんの叔父の証言では坂井大膳に命じられて加わった者らしく、資清さんは真次郎たちが怖気づいた時のために子飼いの者を遣わしたのだろうと推測している。
情報漏れを懸念して部外者や自身の家中の者を使わない、ずる賢さもあるんだろうな。
事の非道さに信秀さんは当初の打ち首から叔父と実行犯の全員を
今回の顛末は当然ながらすぐに紙芝居として織田領内に知らせた結果、旧大和守家の者は益々肩身の狭い思いをしているようだ。
当然ながら連座で追放される者も増えることになり、信秀さんや信長さんと相談し、太田さんの心情にも配慮して、処罰は決められた。島流しだ。
「南の島でございますか」
「南蛮人が出没しているからね。処罰の対象者は島流しにして、懲役の開拓をさせて、いずれはウチにとって有益な領地にしたいんだ」
話し合いの結果、追放される者は島流しつまり無人島に送り込むことになった。提案したのはオレなんだけどね。南方への移民事業が始まるし。
無人島で働かせてはどうだと提案したんだ。
追放処分でも構わないが、大量に追放して織田家やウチの悪口言われても困るし、よそで悪さをして尾張の評判を下げられたらさらに困るしね。
故郷からの追放処分は行き場がなく、どこに行ってもよそ者は歓迎されない。定住できる土地を見つけることができずに殺されたり野たれ死にや奴隷に落ちたり、逆に野盗となるしかないとか。
以前ウチでも忍び衆を追放にしようとしたけど、あの時は故郷が別にあったからね。まだよかったはずなんだけど。
結果としてウチで領有してる無人島ならば、問題は起こせないだろうということになった。
具体的な方法はエルにお任せだけど。
「決して楽ではありませんよ。私たちも早期の開拓を断念していたところですから。一から開拓しなくてはなりませんし、よそ者を排他する土着の者がいる場所もあります。働けば餓死せぬ程度の援助はしますが、卑劣な真似をした自身の親族を呪い、その卑劣さからの利を享受した自身たちの罪を生涯後悔するでしょう」
資清さんや太田さんはあまり想像できないらしくエルが説明をするが、口調も内容も厳しいものになる。
島流しは過去の歴史にもある。古くは流罪と呼ばれる刑罰の中の一種だったはず。だからこの時代の人たちにも理解が得られる。
そうそう東海屋は主人が磔で、ほかの親族は男が打ち首で、女子供と番頭・手代など上位の奉公人が追放処分となり、こちらはウチで受け入れることはしない。あらかじめ今川方面へ行くように追い立てる。
今川の間者も今回は東海屋だけを処分した。罪状は太田家乗っ取りに加担したことと織田家への謀反だ。
表向き今川の名前はない。ここで今川の間者だと発表すると対立から本当に戦になりそうだし。
三河は西部がかなり織田寄りになっているし北条とも親交を持ったが、今川自体が弱体化したわけではない。
もし今川と一向衆が手を組めば泥沼になる。史実を見ると武田なんかも介入しそうだしね。終わりまで見通せない戦なんてごめんだ。
「そういえば、又助殿の領地はどうなの?」
「殿、そのことでございますが。領地は辞退しようかと考えております」
気が滅入る話は終わって太田さんの領地の話に移ろうとしたが、ここで太田さんがとんでもないことを言い出してオレや資清さんやエルは驚いてしまう。
「わしらに遠慮することはないぞ。大殿も問題ないと仰せだ」
「それもありまするが、けじめは必要だと思うのです」
資清さんはすぐに太田さんに遠慮はいらないと言うが、太田さんは悩みながらも気持ちを打ち明け始める。
「叔父と従兄弟は許せませんが、武士である以上は父や兄に油断があったのも事実。それに殿がお進めになる織田家による統治に某が従わぬわけには参りませぬ」
太田さんはウチが織田家による中央集権を進めていること知ってるからな。それも気にしたのか。
「そこは気にしなくていいよ。八郎殿や出雲守殿も納得している。先のことはわからないけど、
ただ中央集権は先の長い話だからな。いずれ土地と武士は切り離したいが、すべて奪う気もない。きちんと法律の下で領有するなら構わないとも思う。
せっかく資清さんが根回ししてくれたんだしさ。受け取っていいと思うんだ。
「しかし……」
「ウチには若い者が多いし、領地の差配などしたことがない者がほとんどだ。又助殿の領地を若い者の実地研修の場として活用させてもらいたい。そういう訳で領地は受け取ってもらいたいんだ」
やっぱり迷いがあるみたいだね。家が代々治めた
太田さんの領地は代官が必要だが太田家にはそこまで人がいない。エルとも相談してウチの若い衆を交代で代官にして勉強してもらうことを考えてたんだ。
この時代だと与力という家臣に対して人を付ける仕組みがあるし。与力の禄はウチで出すから太田家に負担はないしね。
結局、太田さんはオレたちで説得した。資清さんやエルに理屈で勝つのは無理だよ。
それに旧大和守家の領地もそろそろ改革がしたかったんだよね。
大和守家の時代の問題が色々残っているから、太田さんの領地からどこまでやれるか見極めないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます