第173話・その頃、宇宙は……
side:太原雪斎
「花火とは……、それほどの物か?」
「はっ。夜空を一瞬明るく照らす物でございまする。文字通り夜空に花が咲いたような有り様でございました」
また尾張か。
津島天王祭に行ってきた商人から聞いた話に思わず耳を疑うてしまった。
信じられぬが、そんな嘘をつくような男ではない。
「さすがに現物は手に入りませんでしたが、線香花火という土産品は買えました。中身は鉄砲の玉薬だとか」
危険かもしれぬので小者にやらせてみたが、線香花火とやらは確かに美しい。尾張ではこれの大きな物を空に打ち上げたとは。
「花火の中身も玉薬か?」
「花火は久遠家の持ち込んだ物。詳しくは分かりませぬが、恐らくそうではないかと」
高価な硝石をこのような物に使うとは。名を売るために無理をしたのか?
いや、信秀はそんな安易な男ではない。費用に見合う理由があるはずだ。
「全て数えたわけではありませぬが、四百以上は花火を打ち上げておりました。さすがは南蛮から直接硝石を買い付けておる久遠家でございますな」
「海の向こうは安いか?」
「少なくとも日ノ本よりは安いと思われます。されど、いきなり我らが船で行っても安くは買えますまい」
安いと言うても莫大な銭が掛かりしはず。それを祭りの一夜で使うてしまうとは。
元凶は分かっておる。久遠家だ。
「駿府に明や南蛮の船を呼ぶのは難しいか?」
「はっ。南蛮商人と明の商人を駿府に招こうとしたのですが。尾張ならば興味があるようでしたが駿府は……」
今川家は硝石は堺から買わねばならぬ。
尾張では久遠家が海の向こうから買い付けて伊勢の商人にも少し売っておるようだが、今川には売らぬ約束があるようだからな。
堺まで行けばもちろん買えるが、堺では硝石の値が高すぎて話にならぬ。
織田に対抗するためにも、明や南蛮の船を直接駿府に呼びたいのだが。
堺の商人の手前あからさまに呼ぶこともできぬので、商人に駿府まで招くように命じたが上手くいかぬか。
無理もないな。わざわざ駿府まで来るには堺より高う買うか、駿府でなくば買えぬ物が必要なのは子供でも分かること。
だが、いずれも無理な話だ。
さて御屋形様にいかに報告するか。
織田の勢いは依然として強い。だが織田もすぐに三河に来る気がないのはこちらにとっても悪くはない。
西の織田に東の北条。そして北には武田か。
過去など全く考慮に入れねば、東の北条を叩くのが一番いい気もするが。北条は周りを敵に囲まれておるのだ。疲弊しておるしやりやすい。
織田とは対立を避けた方がいいのであろうな。織田からの荷が止まるばかりか、下手をすれば伊勢や堺からの荷までもが織田に止められかねない。
しかし今川家ではそれを理解しておらぬ者も多く、長年の対立から織田を憎む者や見下す者も多い。
いかがするべきか。
side:アンドロイド 宇宙要塞
「太陽系及び近隣の宙域・星系に生命体の痕跡なし」
「警戒網及び簡易基地の建設は完了してるわ」
宇宙は暇ね。敵対勢力どころか宇宙空間に生命体は存在しないんだもの。
一応太陽系を最終防衛ラインとして設定して、早期警戒網と簡易基地を幾つか作ったけど要らない気がするわ。
鉱物資源なんかは太陽系の外から採掘している。司令から太陽系の資源は将来の為に残したいって指示があったから。
まぁ、私たちにはワープ航法があるから距離はあんまり関係ないけどね。
要塞シルバーンは開店休業状態で火縄銃や青銅砲に砂糖とか蜂蜜とか作ってるだけだし。ああ、絹織物も作ってるわね。
宝の持ち腐れよね。
「小笠原諸島の各島に久遠家が領有するとの石碑を設置しました。なお沖ノ鳥島などの一部の島は有人島にするための造成工事も進んでます」
「父島と母島と硫黄島の各種施設の建設は終了してますね」
本当、地上の方が面白そうよね。
小笠原諸島の硫黄島を宇宙港にして、オーバーテクノロジーはほとんどそこに纏めてる。
父島と母島が基本的に久遠家の本領になるのよね。表向きには。
農業は果物やコーヒー豆に野菜や芋も植えてる。ほとんど史実と同じ物ね。
小型の高炉と反射炉とか工業施設も少しだけある。あと船を修理する
ガレオン船の建造は木材調達の問題から小さな島だと無理だし、別の拠点で作ったことにするしかないけれど。
「ウチのガレオン船が南蛮人の間で話題になってますよ。極東に所属不明の黒いガレオン船があると」
「そりゃ、あれだけ派手に使えばね」
この時代ではまだ使われてないコールタールを腐食防止のために塗ったから、久遠家の船は黒いのよね。
コールタールは石炭からコークスを精製する際にできる物だから、理屈的にはウチが使ってもおかしくはない。
ただこの時代のガレオン船は戦略兵器なのよね。それが自分たちとは違う黒い色をして何隻も未開の地だと思ってた場所にあるんだから騒ぐはずよ。
「白鯨型無人潜水艦とクラーケン型無人潜水艦も順調です。海の魔物と恐れられてます」
「一部では早くも宣教師が乗ると船が事故に遭うと噂も流れてますから」
無論こちらも対策はしてある。
史実でも実在が確認された白鯨とダイオウイカに似せた無人潜水艦で悪質な宣教師が乗る船を沈めている。
早速、史実よりも南蛮人の動きが鈍くなり始めたし、このまま自然な形で南蛮人を追い払いたいわね。
「薩摩の島津家と接触に成功しました。今のところ久遠家の名は伏せてますが、絹や硝石など売れそうですよ」
「南蛮人と宣教師の噂は流してね。宗教の押し売りは後始末が面倒になるわ」
一応、全ての情報は要塞シルバーンの中央指令室に集まるから、会議を開いてるけど。要らないわよね? 重要事項は地上の司令たちが決めるし。
「それにしてもパリは汚いですね。夢が壊れました」
「ヨーロッパでも特に不潔な街なのよ」
地球の軌道上には偵察衛星を配備したから、要塞でも地上の様子が見られる。
中世ヨーロッパの華やかなイメージを期待して見ると幻滅するけど。
窓から汚物を投げ捨てるなんてこと、本当にやってるんだもの。そりゃ病気も流行るわよ。
面白そうだからヨーロッパの黒歴史を記した書物をあちこちに残してやろうかしら。
他にもいろいろあるのよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます