第28話 三本足のステータス
35キロ地点を過ぎると、樹々の様子も、採取する実も、散発的に会う魔獣もこれまでとは一変した。特に魔獣。パンダのような白黒ツートンカラーもいれば、三毛猫模様のような三色の熊がいる。この毛皮は是非とも欲しい。私も。と俺の独り言に怜奈が追随。
怜奈の矢で倒した熊を鑑定する
▼魔獣図鑑
ツートン・バンブー・ベア レベル36 EX144
ミケミケ・バンブー・ベア レベル37 EX148
オークとの違いは、体躯は似たようなものだが、武器を持つのがオーク、突進して爪と噛みつきをするのがベアだ。スキルレベルがⅡだったころは、固い表面に魔法も矢も弾かれていたが、威圧するかのようなスタンディング・ポジションをとると、それ自体が腹を出す行為だ。魔獣のサイズは、森の入り口から距離に比例するかのように、体躯が大きくなる。大きい魔獣は油がのっており、食料としては最高グレードだ。
ティアラいわく、この辺りは『ワサビの実』『蕨の実』『薇の実』『各種キノコ』と山菜尽くし、香辛料尽くしだという。山菜好きなティアラには溜飲のようだ。リアは山菜には不満顔だが、てんぷらは大好きだ。
バンブー素材に山菜を大量に集め、37キロ地点に差し掛かった。
道の傾斜もきつくなってきた。小高い丘のような傾斜だ。丘の頂上まで登った。
目の前右手奥には、高さ30mほどから落下する滝、中央に滝壷、その滝つぼから左の小川に流れこんでいる。西の川の源流なのだろう。綺麗な水だ。
滝に落ちる水しぶきが霧のように降りかかる。暑い夏の肌を癒してくれる。滝つぼに飛び込んでみたいが、魔獣がいるぞ、との声に辛うじて踏みとどまった。水源近くにはリザード系、フロッグ系、スライム上位種がいると云う。そしてここが谷底の切れ間の北限となる。
ちなみに、河川沿いにいるリザード系やフロッグ系は耐水特化しており、俺の【水弾】も効果は高まるが、相手の耐水性も向上するという。インフレ対決か。探知をするが、集団化している魔獣はいない。分散するかのように、単発で佇んでいるようだ。フロッグ系で水着製作は決定済みだ。リザード系は鎧や胸当てに良いらしい。
突然、思い出したように云うが、クロエとピエロ、この草食魔獣が近隣の魔獣を恐れないので不思議に思い鑑定した。
▼魔獣図鑑
ピエロ 種族三本足(草食) レベル88、スキル【防御耐性】【俊足Ⅲ】【荷重軽減Ⅱ】
クロエ 種族三本足(草食) レベル92、スキル【防御耐性】【俊足Ⅲ】【荷重軽減Ⅱ】
は?何だ、この高レベル、このステータス。
「三本足のレベルが異常に高いのだが」
「こいつ等は歩けば歩くほどレベルがあがる種族だ」
「レベル30くらいのオークに追われていたよな」
「あれは、ただの遊びだ、誘き寄せて逃げる、アレックス、お前でも本気の三本足を捕まえられないだろう」
「・・・無理だな、無理ゲーだ」
「こいつらは、肉は食わないが、身の危険を感じれば、逃げるか、蹴る」
「蹴られたら死ぬ、仲間は襲わない、お尻側に回ってはダメ」
「そ、そうか、気を付ける」
危ない、新情報だ。
◇
俺が知っている蛙の100倍デカかった。手のひらに乗せるどころか、俺が奴の手のひらに乗りそうだ。それくらいデカイ。
あっさりと怜奈の矢が奴の頭を撃ち抜いた。
▼魔獣図鑑
リバー・フロッグ レベル38 EX152
舌でゴブリンを一飲みする。体長4m。
耐水性 食用可・生食不可 肉は淡泊、上品質。
なんで熊より蛙がデカくて、レベルが高いんだよ!思わず自分基準で突っ込んでしまう。
蛙って鶏肉に似た食感だっけ。なんか、ストライプで蛙っぽくない。イボガエルとかだとドン引きだが、この見た目の彩りだとなんというか収集意欲をそそる。
そしてリザード系の魔獣、竜人っぽさは全くない。二足歩行の鰐だ。俺の知っているリザード系はこれじゃない。いやどうでもいいか、ひどく困惑している。
▼魔獣図鑑
リバー・クロコダイル レベル38 EX152
体長5m。顎でウルフの背骨を砕く。尻尾はオークの背骨を砕く。動きは緩慢。
これヤバいな。というか
外皮は耐水性 食用可・生食不可 肉は淡泊、上品質
リアの快心の一撃で、首を落とした。スパっと。
この子たち凄いわ。
◇
さて、37キロ地点まで道を切り開いたが、この先をどうしよう。この滝以東は、エルフの縄張りなのか。滝つぼを左周りに迂回して、橋を架けようか。橋を架けると、北から魔獣が南下して村に降りてくるようになるのかな。
この川の向こう側、視界に映るのは大量のバンブー・トレント、その奥にこげ茶色の壁のように聳える太い樹々がある。あれがブラザー・トレントかと尋ねると、リアはそうだと云う。
伝聞では、あのブラザー・トレントの向こう側が、大森林の北限で、奥には大草原が広がっているのだと云う。大草原地帯は、草食魔獣の縄張りが3キロ程度あり、鹿、羊、牛、の特徴を持つ魔獣がいるらしい。牛と云っても四つ足ではなく、五本足らしい。どうも話を聞くと、ミノタウルスらしさはない、あいつらは肉食だよな、絶対。バッファロー系なのだろうか。見たこともない魔獣の特徴を聞いても、想像が追い付かない。
結局、俺たちのレベルが30台半ばになれば、目の前のブラザー・トレントを伐採して、拠点をその時に作ろうと云うことになった、今日はバンブー・トレントを大量に伐採して引き返すことにした。バンブー素材の竹かごを大中小とたくさん作った、背負い籠のようなものを作ると、これが意外に、山菜や実を入れるのに最適で、採取移動時間が減り便利だと好評だった。俺としては竹馬を褒めてもらいたかったのだが。
ちなみに竹槍もたくさん作った。第五拠点の外壁に沿って、返しとして使う予定だ。塹壕の中に入れてもいい。この後数匹のフロッグとリザード、ミケミケ・バンブー・ベアを狩って27キロ地点の第五拠点に戻った。三本足のお陰で、南北の移動が物凄く楽になった。
◇
それから二週間ほど、毎日のように三本足に乗り、気ままに狩をする。38キロ以南の、実の場所や東側の魔獣情報も集まってきた東と西で若干個体差が違うこと、25キロ辺りは緑色、30キロ辺りだと黄色。35キロ辺りは水色、それより北側は多種多様フルカラーといったざっとしたものだ。
そして、20キロ付近で摂れていた魔石は、一食、五個とか食べていたが、北に行くほど魔石が大きく、一個食べると腹が膨れる。これ絶対に炭水化物だよな。俺の疑惑が、真実に一歩近づいている。
そういえば、怜奈が、私も「そろそろ弓のスキルレベルが上がりそう」だと、何故か結合試験の時に云われた。最近、女性会議で、実験のローテーションを決めたようだ。他の二人が、覗くことも途中参戦もなくなった。どちらが良かったのかはサテオキ。二人だけの会話も楽しいものだ。
弓技のⅣってどんな破壊力なのだろう。想像がつかない。魔法と違って出力の加減とかできないよな。「どれほど強くなったとしても、個人が世界を壊すことなどできないわ」、とこともなげに怜奈は云う。まあ、確かにそうだな。夏も半分が過ぎた。そろそろ街に降りるか、カノッサ村の堤防建築を始めたいな。三本足の餌場の確保に不毛な畑ではなく、森の一部を組み入れたいと思っている。そういう意味では、この第五拠点は最高なのだ。
「街に城壁を作ってあげるの?」と云われたが、街に対して、何の義理も思い入れもないのだ。俺はこの原始の森を気に入っている。まあ、春や夏だから言えるのだろうが。冬の雪山で同じセリフを言えるとは思えない。
「街乗りの件は、リア達のも相談しましょう」
「そうだな、先に18キロから南の村まで沿道を繋ごう」
「人さえ巻き込まなければ、一日でできるわよ」
「まあ、そうかも」
当初こそ、スキルレベルⅣの威力に振り回されていたが、二週間毎日使うことで、制御というか加減を体が完全に理解した。状況に応じの適量の加減を指先が理解した。ブラインド・タッチというやつか。ちょっと違うな。ただ、魔石を食べ、結合試験がうまくいった翌日は、思わぬ副産物の上昇率に戸惑うことも多々ある。誤差の範囲だが。
▼【魔女鑑定】――――――――――――
リアナ レベル30(+3)
(New)レア魔石による基礎攻撃力15%上昇+力の腕輪による攻撃力15%上昇、自己再生
クリスティアラ レベル29(+3)
(New)装備:知恵の杖(New)、効果回復量15%増
怜奈 レベル29(+3)
(New)レア魔石による基礎攻撃力15%上昇、基礎射程範囲10%上昇
アレックス レベル28(+3)
スキル:【水弾Ⅳ】(+1)【短剣Ⅲ】(+1)
(New)レア魔石による自己再生
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます