ギルド
第29話 冒険者ギルドと商業ギルド
第五拠点での生活を始めて一か月が経った。夏から秋に季節は向かう。38キロ地点の川の北西側で、『果実の実』を見つけたと教えてもらった。やはり、かつてリアが云った通り、夏を過ぎてから果実がなるのだ。なんという非現実感。認めざるを得ない。前世の常識が邪魔をした一例だ。
先週、怜奈と話をした、森の18キロ地点から自宅までの沿道開通は、その翌日にあっさりできたのだが、「そろそろ果物の実が獲れるはず、あと一週間はここに残って採取しよう」、というリアの案が全員賛成で可決され、今に至る。
本当に様々な果物があった。俺が知る果物から未知の物まで。そして、明らかにおかしいことも多々あった。バナナの実の横にリンゴの実があったり、ブドウの実があったりと。同じ木に、数種類の果物の実が熟しているのだ。考えない方が健康にはいい。
この一週間で悉く集められたということで、ようやく自宅へ帰ることになった。と言っても沿道整備のお陰で、27キロの距離を30分程度で走ることができる三本足のお陰だ。
◇
久しぶりの我が家に帰った。(俺は三人の土地に家を建て、それを間借りしている立場だ)
外側から見ると特に変化はない。鉄の門扉を空け、庭に入ると、鏃の無い矢が数10本単位で打ち込まれている。矢には手紙が付いている。門の外にポストをつけた方がいいのか。
四人で拾い集めた。読むのは任せ後から話を聞こう。俺は先に部屋の中の様子を見てくると云って、一階と二階を見回した。問題なし。
寝室と廊下、階段にクリーンⅡで、土埃のような汚れを綺麗にして、一階に降りた。一か月も放置すると土埃が5mmくらい積っている。それらもクリーンⅡで綺麗にしてから、風呂の浴室内も掃除をしてから水を張った。裏に回って薪になる木材を回収手帳から取り出し並べた。適量一回分をスパイダー・シルクの紐で束ねている。
玄関から外に出て、東門までの50mの花壇に土地を盛り、果物の実の苗を植えた。勿論、実は採っている。その花壇に水を入れた。15mの物見やぐらに登り、城壁上部の異常がないか、見てみた。ところ処に血痕が残っている。乗り越えようとした侵入者の痕跡だ。屋敷内には長期不在中は、原則、何も残していない。その血痕を鑑定して、血の持ち主、つまり侵入者の鑑定が行える。情報は集まるが、顔写真はないため、すぐに使える情報ではない。だが、いずれ役に立つだろう。
「アレックス、来て」
ティアラに呼ばれ、リビング兼食堂に入った。テーブルの上には、手紙と果物、魔石がトコロ狭し、と広がっている。四人分の飲み物は俺が用意した。果物の実のミックスジュースだ。これは女性の好感度ポイントが上がる。(ステータス上のパラメータはない)
さて、用意が出来たところで俺も席に座った。
リアが、手紙の内容を要約してくれた。大きく3つ。
;一つ目は、パーティ勧誘。
:二つ目は面談希望、冒険者ギルドと商業ギルドが差出人のようだ。
:三つ目は。パーティに参加したい。だいたいこんな種別だと云う。あとは個人的なお誘いだったり、決闘の申し込みだったり、合同探索のお誘いだと云う。
冒険者ギルドからは、登録から半年間、クエストを受けていない、生存確認も兼ねて窓口へ出頭せよ。窓口担当:ミートソース。だいたいこんな理解でいいようだ。
商業ギルドからは、この壁材について、素材、製作方法、建築方法、施工者を紹介して欲しい。窓口担当:ナポリターノ。
「お風呂に入って、食事を済ませてから出発しましょうか」
◇
風呂と食事を済ませた。時間はまだ正午あたりか。街行きの恰好ということで、四人が着替えた。なかなか奇抜だ。時代錯誤じゃないかな。
何故か、ツートン竹熊製のブラトップに、三毛猫ジャンバー七分丈(ミケミケ・竹熊製)を、三人とも気に入った。足元はパンプス。ボトムスにはそれぞれ好みの色のジーンズ調にした。
三角足に乗り降りするにはちょうどいいと云う。
俺はツートン縦ラインのTシャツにクロコダイル・ベストにした。ベルトもクロコダイル製だ。ズボンは、スパイダー・シルクを青く染めた。まあ俺のファッションセンスの無さは置いといて、彼女たちのコーディネートだ。
冒険者ギルドは、見た目はどうでもいいが、商業ギルドは外見で値踏みされると云う。ああ、商人だからな。わかる気もする。
交渉はリアに任せるので、何の心配もいらないな。四人はピエロとクロエにまたがり、街に向かう。俺は騎手を怜奈に任せて、後ろ座席でのんびりしている。というか、5キロの距離だと、あっという間に到着した。周りの景色を楽しむ余裕もない、門番もいない。見えたのは道路がずっと土だったことくらいか。
冒険者ギルド横の三角足用の場所に二頭を置いて、冒険者ギルドの扉からリアの後をついて行く。建物は木造だが二階建て、古い駅舎を思わせる風情だ。いや、カウボーイの世界観か。
「ミートソースから手紙を受け取ったので、来たわ」
リアが窓口の受付嬢に要件を告げている。俺は田舎から出てきた田舎者のように、中を見渡している。窓口は3つある。登録窓口、依頼受付窓口、素材買取窓口だ。冒険者ギルドの中に酒場か飯屋があるかと思ったが、アルコールの無い世界。そういうものは一切なかった。
入口右手に、依頼書だろうか、何枚か貼り出してあるが、そもそも識字率はどうなっている、という話だ。近づいてみると、案の定、依頼掲示板だった。掃除、人探し、家修理の依頼。討伐依頼はない。こっちは募集掲示板か、パーティ募集に、合同パーティでの森での狩猟。ふむ、冒険者ギルドあるあるだな。
目ぼしいものも貼っていなかったので、視線を受付に戻した。受付は三人。おじさん、おばさん、おばさんである。冒険者ギルドの受付嬢が若くて美人でヤリ手だというのは、物語の中での話のようだ。奥にも数名のギルド職員なのだろうか、座って談笑している。暇そうだ。
「おい、アレックス、ランク上げの手続きをするぞ、腕輪を出せ」
「おう」
何やら鑑定機みたいなモノに腕輪を乗せる。
「あれ、アレックスさんは、死亡届が半年前に出ていますね」
「誰が届け出をだしたか、わかるかい」
俺はある意味予想通りの展開に冷静に返した。お待ちくださいねと言ってミートソースらしき淑女が当時の届け出書類を探して持って来る。勿論心当たりはゼロだが、犯人の足取りがつかめるかもしれない。
彼女は、その頁を開いて俺に見せた。
▼死亡届の記録
当該冒険者 アレックス・フォン・ツヴァイ
ランク:F
死亡場所:森入口10キロ付近
死亡原因:谷底への滑落
確認者:ロッシ・フォン・ツヴァイ、パーティ名:アルカンジェリの剣
確認者住所:一番街東通り3
「生きているわけだが、再登録をしたほうがいいのか、それとも死亡届を取り消すか」
「誤報なら取り下げておきますよ、審査のためこの道具に腕輪をのせてください」
この感じだと、誤報など日常茶飯事なのだろう。
「わかった、ついでに前のパーティ脱退と、カノッサの星屑のパーティ登録をしてくれるか」
「ええ、お聞きしていますよ、良かったですね、こんな綺麗処三人のパーティに入れるなんて」
「ああ」
「彼女たちは今までずっと断ってきたのに不思議です、追加募集はないかと煩いのですよ」
「へえ」
ミートソースは、他人事のように手続きを進めた。俺の他人事のように適当な会話をした。腕輪から情報のやり取りができるようだ。未来の原始時代なのだろうか。疑問は尽きない。
「素材を売却したいのだが」
「それなら、隣の窓口が担当ですが、ここで私が預かってもいいですよ」
「結構な量がある。竹籠に入れているが、どこに置けばいい」
「解体済みですか?」
「ああ、解体は終わっている」
「では預かりましょうか」
俺は籠を10個ほど置いたところで、ストップがかかった。
「あと幾つくらいありますか?」
「半年分だからな、200ほどだ」
「・・・精算に時間がかかりますので、一時預かり扱いでよろしいですか?」
「構わない、精算は急がない」
「裏の解体所の倉庫にでも並べてもらいましょうか、人を呼ぶので裏に回ってくださいな」
「了解」
さすがプロだな。その10個は、ギルド職員が裏に運んだ。
俺は、精算後の金をパーティ共通のギルドカードのようなものに預かってもらえるのかリアと怜奈に尋ねた。そういう仕組みはないぞと云われた。ニコニコ現金払いだと云う。まあ、いいか。場所だけ聞いて、無遠慮に200個の籠を積み上げた。腐るものはない。
「おお、綺麗に解体しとるのう」
解体担当のお爺さんに褒めてもらった。
「褒めてくれて嬉しいよ、アレックスだ、時々大量に持ち込むから査定を頼むよ、色は付けなくていいからな」
「ふおほっほ、そりゃありがたい。三日後に尋ねてくれ、それまでにはやっておく。明細書は必要か」
「いや、面倒は省いてくれていい、三日後に来るよ」
「任せておけ」
リアはDランク、ティアラと俺と怜奈は、Eランクに成った。まあ、入会当時説明を受けたはず(回収手帳談)なので、さほど驚きも喜びもない。精算後、金で貰ってその使い道を考える方が憂鬱だ。街に土地を買おうかな。
「商業ギルドは、三軒隣りにある、歩いていくぞ」
リアの後を、ついて行った。商業ギルドは、思いのほか建物が大きかった。冒険者ギルドと違い、こちらは各種ギルドが建物に入っているからだと云う。なるほど。此方は、打って変わって受付嬢が若い。人気職なのだろうか。
「ナポリターノの呼び出し状だ、カノッサのリアが来た、取り次いでくれ」
「あちらでお掛けになってお待ちください」
◇
「なあ、リア、どこまで話せばいい」
「商品を納品するか、設置まで請け負うか、どこまでお前がやるか決めておけばいい、奴らは際限がないからな、一番面倒がないのは、商業ギルドに代理人を立てておけばいい」
「マネージャーみたいなものか」
「秘書に近いわね」
俺の疑問に怜奈が応えてくれた。秘書だって?
「お待たせしました。ナポリターノです」
これは拙いな、搦め手で来たか商業ギルド。こんな美人を宛てがいやがって。
ああ、なんてこった口に出た。痛恨の自殺点だ。
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