第21話 ディープ・フォレスト・ウルフの波に呑まれる
結局、怜奈と目が合ったまま、オークやウルフ、ベアたちが互いの縄張りを主張するかのような声で、あまり十分な睡眠は取れなかった。朝、目を醒ますと三人は既に出発の準備を整えていた。朝飯も魔石魔獣だったようだ。そういえば、昨日も鑑定したが、魔石とカロリー、栄養素の関係は分からなかった。鑑定レベルが上がれば、また理解できるかもしれない。不毛な知識かもしれないが。
「今日は、北へ向かおう。建物はこのまま施錠とやらをして、夜はここに帰って来よう」
「おう」
今回の遠征の目的の一つは、20キロ地点から30キロ地点での適正レベルの魔獣を倒し、レベルを上げること、スキルレベルを上げること、レアスキルを手に入れることだ。あとはまだ見ぬ素材収集。ザ・炭水化物を探せ。
入口を施錠して、北東へ進路をとる。現在地は、森の入り口から21km地点。獣道と西の川の中間点よりやや西寄りの場所だ。ここを第四拠点とした。
この場所はマッピング済みなので迷うことは無い。
縞模様とか、ヒョウ柄、トラ柄とかの魔獣はいないかな。声に出ていたようだ。いるぞ、パンサー系の魔獣が、そういうランダムな模様の奴がいる。ウルフよりスピードが速く、牙が鋭く、身が軽い厄介な奴らだ。へえ。
奴らは群れを組まず、ひっそりと忍び寄るので、森の殺し屋とか、サイレント・パンサーとか、キラー・パンサーと言われている。自然に溶け込むような模様なので見つけにくいらしい。迷彩服のようなものか。あるいは、カメレオンのような色彩効果か。
レベルは30を越えているのでもっと北だと云う。まあ、レベル30前後になれば出会えるかな。今はちょっと遠慮したい。先日のレッド・ボス・ウルフでさえ、相当危険だった。
俺自身は戦闘狂という自覚はない。むしろその座は、リアこそふさわしい。ただ、相応の力は手に入れたいので、俺らしさとか要らないので、正攻法でも搦め手でも、嵌め手でも、その攻撃のバリエーションは増やしておきたい。さらに逃走ルートも、回避方法も同じ数だけ持っておきたい。死ねば終わりのデスマッチルールだからな。
◇
さて、21キロ地点から出発して、25キロ地点まで魔獣と遭遇しない。気合が空回りというよりも、森の静けさを不気味に思う。昨夜、あれ程夜空に唸り声が鳴り響いていたのだ。昼寝しているとも思えない。こういう時は、どういう時なのだ、待ち伏せされているのかとリアに尋ねた。
「十分有りうる、集団化に対応できるようにアレックス、探知を切らすなよ」
と真顔で言われた。この25キロ前後は、俺にとっての未踏の地、マップも空白なのだ。
「北から来る。距離、600。この速さはディープ・フォレスト・ウルフか、10,15、いや20はいるな、拙いな、下がるか、それとも谷底まで走るか」
「迎え撃つぞ、谷間で一キロしかないが、追い付かれる、壁を出せるかアレックス」
一瞬の判断をリアが瞬時に下した。森が深く、5m先も樹々に邪魔をされ見えない。これはとてもじゃないが、一キロを駆け抜けることなどできない。回収手帳から、レンガブロックを左前、右前、背後の三か所に置く。侵入経路を絞らせる作成だ。背後のブロックは高さ1m、2m、3mの縦三段、横3mだ。
「視界確保、前方の木だけ、クリスティ刈り取れ、レナはブロック上段から、障害用の土を盛れ、見つけ次第、弓で射ろ、アレックス、お前も上からだ」
【風刃Ⅲ】
【土弾Ⅱ】
【水弾Ⅲ】
正面、幅1m、距離50mの樹々を、ティアラの風刃が一気に左右に伐採していく。怜奈の土魔法が、数m間隔で土の障害物で作りだし土地を隆起させる。俺は周囲2mほどの樹々を刈り取り、視界を確保した。そして、進入路を邪魔するように樹々を折り重ねるように倒した。
「距離200、真っすぐ来るぞ、弾幕を正面に張れ!」
「雪崩れ込んでくるぞ、リア、上にあがれ!」
【火弾】ランス×2
【土弾】石礫
【水弾】ランス×5
【風刃Ⅲ】ウィンドカッター×5
【W・スラッシュ】
【スナイプ】×3
わずか、3秒で先頭が50mの人工の獣道にその姿を現した、左右に逃げ場はない。そこにファイア・ランスが二本降り注ぐ、五匹目あたりから後列に石礫が飛び、ウルフの頭上、顔、足元に飛んでいく、追撃の水槍が、五匹の頭を打ち抜くが、全体の勢いは止まらない。
ヒットするたびに『ギャウ』という悲鳴に似た声は届くが、乱戦必至だ。ティアラのウィンドカッターで血飛沫が舞い、リアの振りきるスラッシュで倒れるが、次々と最終ラインを越えて、1mの高さの台にいる前列のリア目掛けて飛び交ってくる。
早打ちゲームのように怜奈が三匹のウルフの眉間を打ち抜く。が、それでも押し込まれて、眼下のレアの姿がウルフの毛皮の中に呑み込まれていく。
【水弾Ⅲ】ウオータ・レーザー×10
【風刃Ⅲ】ウィンド・ストーム
【スナイプ】×5
【短剣Ⅱ】
リアに揉みくちゃに乗り上げたウルフの背に、細いウオータ・レーザーを10本の指から順に、打ち込んだ。背に当たったウルフが飛び跳ねるように呻き声を上げるが、致命傷に至っていない。それでも敵意剝き出しで、眼下から俺を睨むような目が一つ二つと増えていく。
ティアラのウィンド・ストームでウルフたちを上空に巻き上げる。宙に舞うように飛び交う五匹のウルフ眉間を、怜奈のスナイプ×鉄の矢が、確実にウルフの息の根を止めていく。『ギャウガウ』断末魔を叫んでいやがる。
リアに乗っているのは、あと三匹だ。彼女の右手に噛みついている大きな個体の奴の首に目掛けて、2mの台から飛び降り短剣をウナジに突き刺す。短剣の突き刺さったウルフごと、俺は地面に落下した。後頭部と背中を強く打ち付けた。その俺の頭の上に、突き刺したウルフが落ちてきた。ドン、その重量を体感している途中に意識が暗闇に反転した。
バシュン、ズバン。
最期のウルフが倒された音を、俺は聞いていない。
◇
【ヒール】
【ショルダ・チャージ】
【ヒール】
ゲシゲシと腹に、リアの肩がめり込み、吐き気で目を醒ました。
「痛いぞ、リア、腕はくっついているか」
「ああ、お前のお陰だ。このボスが私の右腕を食いちぎろうとしていた」
周りには22匹のディープ・フォレスト・ウルフの死骸。二回りほどでかいウルフが、俺の頭上に横たわっている。右腕が血塗れのリアがひときわデカイウルフの体を足蹴にする
俺の頭上で泣きじゃくっているティアラは、リアの怪我を治し、俺が目覚めるまでヒールをかけてくれたようだ。痛みはあるがケガはない。
安堵して、緊張から解放された怜奈が、目の前で座り込んだ。
「ティアラも怜奈もただいま、大丈夫だ」
「本当?」
「ああ、ちょっと肝が冷えたけど、みんな生き残れてよかった」
俺は、ティアラと怜奈の頭を撫でてから、リアの右手の血を水で流して落とす。傷口は塞がったようだが、牙の跡が残っている。
「英雄の傷跡だな」
「ああ」
俺はリアとハイタッチしてから、ウルフの残骸を回収していく。ひときわデカイ奴を鑑定した。
▼魔獣図鑑―――――――――――
ディープ・フォレスト・ウルフ・ファイター レベル32 EX128
ドロップ品『迅速の腕輪(レア)』
▼詳細鑑定
迅速の腕輪:装備時 20%の効果
「迅速の腕輪、装備時に20%向上の効果だ、誰が着ける?」
「一番火力の高い奴がいいだろう、アレックス、お前がつけておけ、皆もいいだろう」
「いい」
「賛成」
ティアラも怜奈も俺が装備することに異存はないようだ。
「ああ、ありがとう、これをつけると、夜も早打ちできるかな」
「役立たず」
「・・・死ねばいいのに」
▼【魔女鑑定】――――――――――――
リアナ レベル24(+2UP)、
怜奈 レベル23(+2UP)
ティアラ レベル23(+2UP)
アレックス レベル22(+2UP)ドロップ品 :迅速の腕輪(装備時20%向上)
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