第19話 ロンバルディの誓

 19km地点


 前回と明らかに、レアスキルのドロップ率が違う。毎日、魔石饅頭を食べて幸運値が上がったせいなのか。それは大いにあると思う。と、隣を歩くティアラも同意した。

 森の様子には異変を感じない。おかしな動きをしていると云えば、リアがガシガシ俺にぶつかってきていることくらいか。


「俺を相手に、ショルダ・チャージをするなよ、痛いんだぞ」

「雑魚相手だと与ダメージが貯まらないのかな」

「雑魚、いうな、確かにレベルはお前より下だが」


 まもなく、20km地点に到達する。前回は、谷底を歩いたため、この付近は初見だ。20キロ地点の手前に、小屋があると聞いていたが、どう見てもテントだ。柱とそれを覆う布しか見えない。キャンプを張った痕跡がある。


「近くに同業者がいるかもしれない、一応、注意な」

「絡まれるなよ、新参者」

「新参者か、確かにそうだな、ちょっと腕が立つレベルの奴が鬱陶しいんだよな」



 21km地点


「10時の方向、フォレスト・ベアだ、三匹。200m」


【火弾】

【土弾】


 フォレスト・ベアに当たるが、突進が止まらない。随分と外装の毛皮が固いな。魔法を跳ね返すフォレスト・ベアの毛皮。リアがレッド・ボス・ウルフの大剣を背中の鞘から抜き、構える。リアに対して、頭を伏せ、正面から突撃してくるフォレスト・ベア。


「爪か、牙で攻撃するなら奴らは腹を見せるはずだ。軟らかい手のひらか、のど、腹を狙え!」

「おう!」


「俺は後ろ脚を狙って足を止める」


【水弾】ウオータ・スピア


 ぎゅおぉぉぉ!言葉にならない雄叫びとともに、フォレスト・ベアが仁王立ちした。その足に、水の槍が行く手を阻み、一本が片足の甲を貫いた。


【スナイプⅡ】鉄の矢

【風刃Ⅲ】

【ショルダ・チャージ】【スラッシュ】


 先頭のフォレスト・ベアの振り上げた右の手のひらに鉄の矢が刺さり、後列右のフォレスト・ベアの耳を風刃がそぎ落とす。

 先頭のフォレスト・ベアの腹にリアの肩でその巨体を徒上げ、喉元へのスラッシュで血飛沫が舞う。

 そこへ三匹目のフォレスト・ベアが、先頭のフォレスト・ベアの背中に乗りかかるように、リアを押しつぶそうとした。リアは咄嗟に剣を立てる。

 

【スナイプⅡ】鉄の矢

【風刃Ⅲ】


 二匹目のフォレスト・ベアの削いだ耳に押さえた手を、鉄の矢が弧を描いて突き刺した。その矢は手の甲、耳を貫き、反対側の耳まで届いた。


【ファイア・ボール】

【水弾】ジェット


 三匹目のフォレスト・ベアが右手で、リアの剣を弾き飛ばしそのまま食いつこうとした。その一瞬で、のどに風刃が届き、開いた口に【火弾Ⅱ】が撃ち込まれ、仰け反った腹に【水弾Ⅲ】の高圧水流で後ろに下がらせた。リアは、先頭のフォレスト・ベアの死体に乗られ、両腕以外を自由に動かせない。【水弾Ⅲ】で後ろに下がらせながら、リアの飛ばされた剣を拾いリアの手に持たせた。


【スナイプⅡ】鉄の矢

【風刃Ⅲ】


 みたび、鉄の矢が水流の死角から、三匹目のフォレスト・ベアの腹に刺さり、のたうちまわる奴の両目をティアラの風刃が切り裂いた。背後から、足首の腱を短剣で切りつける。が、固い。後ろ脚を跳ねるように、俺の腹にめり込んだ。


【水弾】スピア


 吹き飛ばされながら、奴の足の裏に水の槍を突き刺した。奴は盲目状態で片膝をついた。


【風刃Ⅲ】


【ヒール】


 ティアラが俺の腹に【ヒール】をかけてくれた。その背後には、風刃で吹き飛ばされた三匹目のフォレスト・ベアの首が地に落ちた。


「クソ、やけにタフで強かったな」


 リアが、ベアの死体から体を引き摺る様に這い出てきた。剣を弾かれた左腕が肩から肘にかけて出血している。


▼魔獣図鑑―――――――――――

 ディープ・フォレスト・ベア レベル27 EX81

 毛皮は魔法耐性(中)


「こいつの毛皮で、ナックルと、アームのガードが作れそうだ。見た目はモッサリしそうだが」


 肉弾戦が好きな前衛のリアに、回収手帳の錬金でナックル・ガード、肘当、膝当を作ってみた。リアは、オープンフィンガー型の手袋をつけるかのように指先、手の甲を通し、肘と、膝にそれぞれ装着した。なかなか様になっている。裏地は鞣した熊革なので、滑り止めになっている。リアが腕と脚の感覚を確かめているようだ。ティアラが彼女に【ヒール】をあて、俺の水で血を洗い流した。裂傷だったが、表面の止血はできたようだが、結構深かったのかいつ血が噴き出してもおかしくない状態だ。


「男前の傷がついてしまったな」

「ああ、死角から打ち払われてしまった」


「休憩を入れよう、谷底の第二拠点に移動しよう」

「遅くなったが、昼飯は熊鍋か」

「熊肉は固い」

「だな」


 三匹のディープ・フォレスト・ベアを回収手帳へ収納して、東に歩を向けた。谷底までの2キロの道中で、数匹のブルー・オーク単体に遭遇したが、それらは難なく倒すことが出来た。ところどころ草むらに血痕があった。


 5mの谷底は飛び降りるには高い。壁際の崖を2mほど掘り下げ、高さ50㎝の狭い階段を四段つくり、そこまで降りて、3mをジャンプして降りた。半月ほど前につくった第二拠点があった。第三拠点ほど広くはないが、休憩をとるなら四畳半の広さで十分だ。


「ん、先客がいるのか」


 拠点まで血痕が続いている。随分と深手を負っているようにもみえる。


「あんたたち、薬草を持っていないか、手持ちの薬草を使い切ってしまったのだ」


 第二拠点の中には、二人の男女、男は横になり腹を押さえている。押さえている手も血で真っ赤だ。女は薬草を求めた。俺は薬草(癒し草)と取り出しながら話を女に聞いた。


「どいつにやられたんだ」

「フォレスト・ベアより二回り大きな奴だ」


「色がディープ・グリーンの奴か」

「ああ、そいつだ」


「血が、止まらないな、ポーションは持っていないのか」

「ない」


 傷口が開いている時は、薬草を患部に当てるが、ポーションを振りかけた方、止血効果は高いはずだ。


「ポーションを持っている、使うか?」

「いいのか、ありがたい、支払いはどうしたらいい」


「先に使うぞ、効果を見てから支払いの値付けはアンタが決めろ」

「すまない」


 俺は錬金で作ったポーションを二本、傷口に振りかけた。ジュウっという音とともに傷口は塞がった。だいぶ血を流したのだろう。顔面が蒼白で手が震えている。


▼【魔女鑑定】――――――――――――

 名前;ダニエル

 年齢:18歳

 種族:混合種 成人

 所属:パーティ「ロンバルディの誓」

 レベル:23

 パッシブスキル:【剣技Ⅱ】

 アクティブスキル:【盾Ⅰ】、シールド・バッシュ

 状態:失血中、昏睡。要血止め、要増血

 外見;身長178㎝、緑髪・緑目


「血を流しすぎているな、クソ拙いが、魔獣の血があるぞ、飲ませるか、ハーブと混ぜているから、少しはマシだと思うが」


 俺は懐から数種類の魔獣の血とハーブをブレンドした液体ブラッド茶を取り出した。赤ワインをドロドロにしたような不気味な色だ。目の前の女は、それを手に取り、目の前で不思議なものを見るように確認している。


「これの効果は?」

「増血剤。流れた血の代用品だ、血抜きしていない肉を食わせてもいいが、食える状態じゃないだろう」


「わかった、使わせてもらう」

「ああ」


 女が、ダニエルという名の男に、ゆっくりと飲ませている。口元から血が少量零れる。珍しそうにリアも見ている。あれはなんだ。貧血や血が足りない時の液薬だ。うまそうには見えないな。クソ拙い。吐くレベルだ。うぇ。怪我をした左腕を抱えるように右手の濃緑ナックル・ガード越しに自分で抱きしめたリア。ダニエルの顔も少しは血色が戻りつつある。峠は越えたようだ。


「顔色が良くなってきたな」

「ああ、助かった、礼がしたい」


「あんたの言い値でいい、そいつが起きたら二人で相談しろ」

「わかった」


「おい、治療が終わったなら、飯を食おうぜ、腹が減った」

「おう」


 怜奈が、土魔法で簡単な釜土を作り、そこに俺が適当に薪を放り込んだ。リアがファイア・ボールで着火した。一気に火が付いた。手際よく、ティアラがフライパンでオーク肉を焼き始めた。怜奈が、壁際の岩で、テーブルと椅子を削り出した。表面もツルツルに出来るようになったようだ。便利なものだな。俺はテーブルの上に、食材、食器、木彫りのコップを置いた。


「アンタも食えよ、その男は目を醒ましてからだな」

「あ、ああ、あんた達は、随分と手際がいいのだな、自己紹介させてくれ」


 女は、ジャスミンデステファネリと名乗り、覚え辛いなら、ジャスミンと呼んでくれといい、一人一人と握手した。男はダニエル、義弟だと云う。


 ▼【魔女鑑定】――――――――――――

 名前;ジャスミンデステファネリ

 年齢:20最

 種族;クォータエルフ(1/4エルフ・3/4混血種)

 所属:パーティ「ロンバルディの誓」

 レベル:25

 パッシブスキル:【槍技Ⅱ】

 アクティブスキル:【使用人Ⅱ】

 状態: 正常


 ▼使用人Ⅱスキル

 生活魔法特化、体外魔力を用い生活魔法を実行できる。浄化Ⅱ、クリーンⅡ、簡易収納Ⅱ、調理Ⅱ、裁縫Ⅱ、礼儀作法Ⅱ、読み書き計算Ⅱ、解析Ⅱなどの日常生活基盤を支える複合式レアスキル。


 ◇


「スキルレベルが上がったら、野宿が楽しくなってきたな。」

「うん」


「私にも、手伝わせてくれ、調理は得意なのだ」

「わかった」


 ティアラも、ジャスミンの鑑定結果を見て驚いたようだ。俺に目配せをした。


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