第17話 【火弾】と【土弾】の練習風景

 一週間ほど、自宅裏の訓練場で、リアの【火弾】、レナの【土弾】の練習風景を眺めながら、ツマミに透明な小粒の魔石をピーナツ代わりに食べていた。隣ではクリスティが俺の膝を枕替わりにして、同じくムシャムシャしている。のどに詰まらないか?と尋ねたが大丈夫だと云う。すっかりと末妹の甘えん坊キャラとなってしまったクリスティ。不満はないのだが、他の二人が不満そうだ。


 リアとレナのスキルレベルがⅡに上がるか、手持ちの魔石を食い尽くすか、どちらかがそうなったら森に向かうことになっている。意外と小さな魔石は10個どころか、あっという間に減っていく。ここ一か月、オーク肉や魔石など、栄養価が高いのか、カロリーがどうなっているかさっぱりわからないが、ガリガリだったクリスティも肉付きが良くなってきたのがわかる。なにせ鑑定Ⅲ持ちだからな。寝そべる先の太ももも、健康的になってきた。良きかな。


「何が?」

「ああ、クリスティが俺好みに肉がついてきたという話」


 俺は肩越しから見下ろす胸や、寝っ転がった三人を頭から足先にかけて観る風景がお好みなのだ。なんでかわからない、説明もできない、性癖の一部なのだろうか。


 どうでもいい話なのだが、この世界では寝るときに、頭の高さを合わせるのではなく、足の先を揃えるのだ。そうすると、みんなの頭(枕)が20㎝ほど下がる。最初は凄い違和感で、不思議だった。

 そこから見る風景が、鼻、胸のトップ、立膝と太もも。こんな風に見えるので、その風景が好きなのだ。好きだから敢えて頭(枕)を揃えることを提案していないだけ。


「うふふ、そろそろ抱いてあげようか?」

「あはは、言い方」


 唐突に、クリスティが俺を抱いてあげると宣言する。実際、いつもイチャイチャしているが、別にその先に進んだわけではない。ためらう理由はないが、実は生活魔法の浄化とクリーンを覚えてからにしようと思っている。避妊効果100%なのだという。彼女たちは其れを知らなかったが、魔女様に教えてもらったのだ。今、練習中だ。


【浄化】は、普段の生活で、怪我をしたときにバイ菌を殺し、食事前の殺菌効果もある。それが一般的な使い方。避妊にも使えるとのこと。


【クリーン】は、掃除用の生活魔法、埃や汚れを拭きとるのではなく、この世界から消すのだと云う。汗や汚れ、臭いも消し去るので女性に人気の生活魔法とのこと。


 意外と失伝していたようで、この二つを彼女たちに教えたところ、喜んで覚えた。ちなみに、三人は使えるようになったが、俺はまだなのだ。なんというか、イメージがわかないのだ。殺菌を殺すイメージも、埃を消し去るイメージも。視覚的ではなく、概念的な問題なのだろうか。


 それとは別に、生活魔法を使うと、魔力が枯渇するのがわかる。体内魔力を消費するからだ。鑑定Ⅲを覚えて調べてみると、体内魔力が35だった。生活魔法はどれも消費が1だ。なので、単純に35回使えるのだが、半分くらい使うと気分が悪くなる。いわゆる貧血のような感じで。


 とてもではないが、枯渇するまで使い切ろうとは思わない。


 ただ、体内魔力も上げておいた方が、体外魔力であるスキルの発動を早めたり、コントロールが上手くなったり、その効果はなかなか馬鹿にできないらしいので、目下、取り組んでいるというわけだ。


 ◇

 リアの【火弾】は、レベル10くらいの魔獣なら倒せそうだが、レベル20だと効果は全くなさそうだ。その程度の火力しかまだない。これがスキルレベルⅡになると、飛距離も威力も倍、複数発動もできるようになる。レナの【土弾】も同じことがいえる。スライム、一角ウサギなら倒せるが、ゴブリンには目つぶし程度の効果だと思う。彼女たちは本当に頑張っている。初回練習では射程距離が10mだったが、今は20m位になっている。


 楽しみだ。


 楽しみといえば、最近、『モチの実』という畑に植えていた実が生った。これをスープに入れると、餅とシューマイの中間くらいの歯ごたえと味がする。炭水化物を食べた気がする実だ。これが今のお気に入りだ。こういった炭水化物系統の実を、次回の遠征では探そうと思っている。小麦の実がないかな。パンの実でもいいけれど。ラーメンが食べたい。せっかく豚骨や鳥ガラスープもどきは作れるようになったのに。


 作れるようになった、といえば、薬草の組み合わせで、液体ポーションが作れるようになった。当初は葉っぱを木製のジョッキに水と混ぜて煮だしていたが、ある日、採取規定回数が越えたという理由で、【錬金】が回収手帳に新たなページとして誕生した。初日以来、誰も怪我をしていないので、この効果は確かめてはいない。が、鑑定結果を見る限り、効果には期待している。使う場面がない方が良いに越したことは無い。


 今日の彼女たちのトレーニングが終わった。体外魔力とは言え、集中力も精神力も使い切ったのだろう。二人が大の字になってしまった。スタミナポーションをいつか作ってあげたいものだ。リアに馬乗りになり、全身をマッサージする、【クリーン】で汗を飛ばす。まだ、部分、部分しか効果がない。首、髪の生え際、脇、横腹、腹回り、尻の谷間。汗をかいたところへ【クリーン】。勿論、リア自身が自分にかけられるのだが、という話は横に置いておこう。触りながら鑑定をして【火弾】のスキルアップを確認するが、まだのようだ。ぐったりしたリアの両胸を揉んでマッサージは終了だ。

 レナにも同じように、マッサージをする。首、肩、背骨、腰、尻に太もも、ふくらはぎに足の裏まで。体を入れ替えて、足首から膝、太もも上部、足の付け根、へその下に胸。ここ一週間で、レナもクリスティに張り合い、甘え始めるようになった。それ自体は楽しくて嬉しいことなのだが。【浄化】が追い付かない、かわりに【サイレンス】で自分を鎮めるのが上手くなってしまった。あらら。


 ◇

 翌日、リアが好調だった。レッド・ボス・ウルフの大剣で【ファイア・ボール】を打ち出し、【スラッシュ】そして追撃の【ファイア・ボールW】でついに、連撃が出るようになった。【火弾Ⅱ】だ。


「おお、おめでとうリア」

「よっしゃー!」


 叫んで、バック転をして喜びを爆発させた。【剣技Ⅲ】を手に入れた時よりも嬉しそうだ。ははは、だらしなく胸が揺れているぞ、げらげら。クリスティもそうだが、リアも最近成長が止まらない。訓練で腹が減るのか食欲が凄いのだ。


「飯が上手くなったら、デブになった!」


 あくまでも俺のせいらしい。ダイエット食に戻してやろうか、といえば、それはダメだと全力で断って来る。食った分、動けば大丈夫派らしい。いよいよ明日は、久しぶりの森だ。

 一方、リアに先行を許し、悔しそうにしているレナを慰める。


「トレーニングは楽しくやらないと、スナイプⅡを使ってストーン・バレットを曲げてみなよ、きっと楽しいぞ」

「うん、やってみる」


 弓技Ⅲほどの速度も精度も全くでない土弾だが、地面に近いところで発動した方が、強力だな、と何気に俺が呟いたところ、色々試したようだ。手から発射される土弾だけでなく、地面の石も巻き上げながらドライブして、的に突き刺さる様にして石礫が飛んでいく。お、いい感じだな、開花宣言も近いな。


「気分転換に、川原にでも行ってみるか、砂利も石もたくさんあるだろう」

「うん。行く」


 レナと北門から出かけて、西にある川に向かう。勿論道中にもゴロゴロと石は転がっている。その石ころを操るがごとく巻き上げ石礫が舞い上がる。砂も巻き上げて威力を増していく。訓練場での練習よりも遥かに威力の高い土弾だ。土モグラも、大ネズミも一緒に巻き込んで塵に変えていく。川岸についたころには、右手からストーン・ランス。左手からストーン・バレットを放てるようになっていた。


「おめでとう、レナ、頑張ったな」

「やった!」


 レナが振り返ると、俺にストーン・ランスが降り注いだ。危ない!


【スラッシュⅡ】


 ひゅーん。撃ち落とせなかった。おかげでハリネズミになるところだったぞ。


【水弾Ⅲ】ウォータ・ドライブ 

 水がうねり、ストーン・ランスを包んで撃ち落とした。やれやれ。


「私に串刺しにされたら、男冥利に尽きるでしょ」

 レナがいたずらっぽく笑っていた。


「俺がレナを突き刺してやろうか」

 彼女の尻を掴んで指でちょんちょんした。本当にいい尻だな。突き刺したい、あ、口に出た。

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