魔石
第13話 魔石は食べ物?
東門から入り口までの距離50m×幅3mにレンガの絨毯を設置する。両側には花壇(花はまだ)を並べる予定だ。玄関ドアは、木製(チャイルド・トレントの張り合わせ合板)、の両開きだ。
中に入ると、玄関ホールに、真っ赤な絨毯。これはレッド・ボス・ウルフの剥製を広げたものだ。正面には二階にあがる階段。左手(南側)には食堂と厨房、厨房の火力は、薪の釜土三連式にした。一つはいずれ、炭焼きにしたいな。
食堂は八人掛けのツルツル石製のテーブル。両側の四人掛けの長椅子も石製だ。座布団代わりにレッド・ウルフの毛皮を敷いた。掘炬燵式にして、足を下せるようにした。壁には食器棚を設置した。冷蔵庫はいつか氷が手から出れば作ろうかと思う。北側には薪の暖炉を作った。
一階の北側には、8人程度が入れる大きなツルツルの石製の風呂部屋を作った。大理石っぽい石があったので、床面と壁は大理石っぽい白い石。ツルツルなので、滑ってこけない様にしなければいけない。慣れるまではウルフ皮の敷物を敷いておくつもりだ。
浴槽は、五右衛門風呂タイプで、床下から鉄板を温め、その熱でヒノキっぽい木製浴槽内の湯を沸かす方式だ。排水は、床下を流し、下の畑に流れるようにした。そのうち、雨の日以外でも手から湯が出ることを期待している。ヌルくなったら、浴槽内に、リアにファイア・ボールを打ち込んでくれと頼んだ。彼女は、呆けて乾いた笑いをくれた。
二階は五部屋作った。南側が一番広く、ダブルベッドを二つ並べた大きさのベッドだ。これは木製(チャイルド・トレントの接合)で枠取りして、板を敷き詰め、敷布団代わりに、フォレスト・ウルフの毛皮を重ねた。赤より深緑の方が落ち着くだろう。
窓枠を東、南面に取ったが、ガラスが、この世界にあるかどうか分からないので、木製の扉で開閉できるようにもしている。西面には、大きな鉄の鏡面を置いた。おかげで部屋が更に広く見える。北側の奥に入口、手前側に暖炉を置いた。簡単なハンガ―ラックを作っておき、そこに製作済みの服をかけた。
その隣の四部屋は、空き部屋だ。西側に廊下を作り東側に並ぶ。まだ暖炉以外は何も置いていない。希望を聞いてから準備する予定だ。東側にも窓枠をつけ、今のところ木の開閉式の扉を取り付けている。西側の廊下から各部屋に入るところには、簡易の木製のドアをつけた。
「どうだろう、今夜から一緒にベッドインできるぞ」
「お、おう・・・」
「・・・ふぅ」
「ん・・・」
三者三様の反応だ。
「畑や庭には、森から採ってきた種を、みんなで相談して植えよう、あとは玄関か、外門に『カノッサの星屑』のエンブレムを掲げようぜ」
「アレックスに任せた」
「任せた」
「うん」
◇
ベッドに、大の字になって天井を見上げている四人。
「なあ、アレックス」
「ん?」
「お前はこんな家に以前、住んでいたのか?」
「いや、違うな。こんな家に住みたいと思っていただけだ」
リアの問いに、かつての記憶の無い俺は、そう答えるしかなかった。
「ねえ、アレックス」
「うん?」
「これも魔女様のお陰なの?」
「全くその通りだ。魔女様には感謝しかない。だけど、素材を集めたのは、間違いなく俺たち四人の力だ」
レナの問いに、そのまま返事をした。
「パーティメンバーが増えたらどうするの?」
「考えてなかったな、その時は相談して決めよう」
何故か俺の上で、馬乗りになっているクリスティと言葉を交わした。彼女の手を引き、抱きしめて、髪を撫でながら答えた。
「なんだか、家から出るのが、億劫になりそう」
レナが、頬杖をついて、片手で俺の鼻を指で挟む。
「窓からでも弓は打てるからな、ははは、外に練習場も作ろう」
「それなら、外も楽しくなるかもね」
「私はファイア・ボールの練習をしたい」
「風呂場か練習場限定にしてくれ、精度が上がったら、厨房の火つけ役だな」
リアに諭すように顔を向けて伝えた。
「私は、何もしたくない」
クリスティが俺の胸のあたりに顔を埋める。レッド・ボス・ウルフとの戦いの後、少しクリスティの様子がおかしい。子どもっぽくなった。
「クリスティは、バトルで疲れたかのか」
「命を懸けてまで、戦うのは嫌」
「ああ、雨だったからな、晴れの日は奴らとは戦わない、安全第一だ」
「本当に?」
「ああ、クリスティを抱くまでは死ねない、手を失ったら抱き締めることができなくなるからな」
「本当に?」
「抱いても死なないよ」
「・・・許す、レベルが10も離れている魔獣と戦わない」
「そうだな、頼んだぞ、リーダーのリア」
「お、おう、任せておけ」
「でもリアは、強い敵にファイア・ボールをぶちかましたいと思っている」
「う」
「ほら、図星」
クリスティの口攻撃が、リアにクリティカル・ヒットしたようだ。今まで、三人の時に、死地というか、危険な目には合わなかったのか?魔獣相手には、ないらしい、先日の俺と会う前日の8人の盗賊との戦いがそうだったという。
俺は悪意と善意の区別はつくが、悪党と一般の区別がつかないかもしれない。
だから、殺すときは、「殺せ」、制圧するときは「制圧」ときちんと指示をくれと、ボス・リアに念を押した。三人を守るためには全力を尽くすよ、と約束した。テンプレ通りの荒くれ冒険者、物乞い、ただの盗人、詐欺師、強姦魔、盗賊、果たして、「殺す/殺さない」その線引きが良くわからないのだ。足を打ち抜くだけでいいのか。頭を吹き飛ばすのか。
ただし、三人に手を出したら、きちんと報復はする。いや、本来、手を出される前にヤラないと「手遅れ」を後悔するはず。自分に言い聞かせるように繰り返した。
警告と狙撃、これでいいか。
「大丈夫だ、私たちもソコソコ、強くなった」
「上には上がいる」
「話の通じない奴もいる、たくさん」
「まあ、三人以外は、基本、俺の敵だよ」
「だいたい合っている」
この三人以外に、まだ誰にも会っていないのだ。果たして、どんな世界に生きている村人たちなのだろう。斧でマンモスを狩る人々。モヒカンの男たちの群れ。砂漠の道を、火を吹くトレーラーで走る世界観。どれであっても、いずれにしても、碌なものじゃないな。原始の世界など、旧人類は敵、異民族は敵、異教徒も皆殺し、隣村も敵。敵だらけじゃないか。
◇
遠征用と自宅用の完成済みの品を分け、自家消費用と販売用にも仕訳けた。
「素材は、商人に売るのか?」
「解体が必要なものは冒険者ギルド、素材類は商業ギルドにも売れる。そこから、建築ギルドや、錬金屋、鍛冶屋、防具屋、靴屋、革細工屋に流れる。食品は商業ギルドから、宿屋や飲食店、露店に流れる。商人は高価な物か日持ちする物、あとは壊れにくい物だな」
想像していたよりも、街では、はるかに機能的に、細分化しているのだな。もっと原始的なものを想定していた。
「商人は、馬車を持っているのか」
「馬車?」
「荷車を馬が牽く奴だ、ないのか」
「馬というのは知らない、重い荷車は五本足が牽く、人は移動用に三本足に乗る」
「・・・三本足?」
「ああ、三本足だ」
「いや、何だ、三本足って、なんだ」
「二人乗りの高速移動用の草食魔獣だ、街に行けばそこら中に走っている」
五本足も三本足も想像できないな。まあ、足の本数なのだろうが、なぜ奇数なのだろう。
「学校はあるのか」
「なんだ、それは」
「読み書きの文字を習う、学び舎みたいなもの」
「ギルドに頼めば、師匠を紹介してくれるぞ、剣や弓、鍛冶や錬金、読み書きはあまり人気がないな」
「職ごとに分かれているのか」
「そうだな」
知っておきたい街の情報は、リアに聞いたが、そういえばと思い、いまだ俺の上で寝そべっているクリスティにも尋ねた。
「ああ、そうだ、クリスティ、魔石は、何に使われるんだ、魔道具か」
「食わせる」
「ん?」
「スキルが食べる、スキルレベルが上がる」
「は?」
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