第12話 建築はレンガブロックを置くだけ

 俺たちは降りしきる雨の中、拠点に無事戻ってきた。相変わらずクリスティが、無言のまま俺にべったりと腕にしがみついている。泣きはらした顔もようやく涙が途切れ、雨水の雫に変わったようだ。

 湿気のせいで、風呂桶を沸かす火が点火しない。


「リア、その大剣で火をつけてくれよ」

「お、おう、どうやったらファイア・ボールが出るのだ」

「さあ、その剣に魔力を流したら、どうだ」


 ぶうん、と肉体強化をすると、大剣も輝いた。リアが振り抜くと、薪が燃え、大量の水を溜めたばかりの風呂桶がひっくり返った。俺と手をつないでいたクリスティの頭上に冷水が降り注ぐ。


「加減をするか、練習をするか、いずれにしてもリーダーとしては、その判断力は如何なものか」

「す、すまん、加減が・・・大丈夫か、クリスティ」


 俺とクリスティが無言で睨み、目で抗議する。俺は濡れた服を脱ぎ、クリスティも脱がせ、先ほど作成したばかりの、レッド・ウルフで作ったブラトップをクリスティに着せた。季節柄、肌が冷えるというわけではないが、濡れた服がくっつくと気持ちが悪い。


「赤い服も似合うな」

「ん、本当?」

「ああ」


 俺はひっくり返った風呂桶を燃え盛る薪の上に設置しなおして、湯を張った。雨のせいなのか、【水弾】を使うと、水が唸るように手のひらから湯が出る。雨の日限定なのか、スキルレベルが上がったのか、手から湯が出るなど、便利以外の何物でもない。

 着せたばかりのクリスティの服をもう一度脱がして、裸の二人で風呂桶に入った。お湯を肌に浴びて気持ちよさそうな顔のクリスティ。本当に可愛いな。あっと声が出た。

 クリスティが裸のまま俺に抱き着いてきた。彼女の頭からお湯を注ぐ。カップラーメンを思い出した。ああ、前世の記憶か、くだらないことばかり思い出す。左手は背中からお湯、右手は頭上からお湯。全く便利なスキルだ。魔女様、ありがとう。彼女への感謝は忘れたことがない。そのうち、銅像というか、木彫りの魔女様を作る予定だ。あの美しさは鮮明で今でも忘れていない。


「アレックスが、他の女の事を考えている」

「はあ、失礼な男だな」

「誰を思い浮かべたのだ」

「魔女様への感謝だよ、お湯の恵みに感謝だ」


 クリスティに突っ込まれ、リアとレナに相乗りされた。二人もいつの間にか裸でお湯をいただく腹積もりなのだろう。なんだか、一か月近く一緒にいると、性欲よりも家族愛に近づいたのだろうか。モヤモヤはするが、ムラムラすることが減った。これは一体、何耐性を得たのだ。

 リアにも、レナにもお湯を注ぐ。そのうち、俺の口からもお湯が出ないかな。手が二本しかない。手のひらではなく、指先から出せれば、四人で温められるな。試してみた。指先からお湯と願った。出た、出た。雨に日限定でも嬉しい限りだ。


「アレックスは器用」

「まったくだ」

「同意する」

「雨の日限定だぞ、おそらく」


 四人は狭いな。俺は、クリスティを膝に抱えて座った。リアも同じようにレナを膝に抱えて座った。これなら四人では入れる。


「冬には、肩まで浸かれる湯船が欲しいな」


 三人も同じ気分なのだろう。無言で肯いてくれた。


「みんながレベル20を超えた。一度、街の冒険者ギルドへ行ってみるか、ランクアップすれば、報酬も上がるぞ」


 街には、イカレタ男しかいないのではなかったのか、と俺が訊ねたところ、今ならその男どもも、力で排除できそうだとリアが云う。正直、街に興味はあるが、バイオレンスな世界を想像してしまった俺。換金したとして、何か買うものがあるか?と再度尋ねた。


「特にないな、武器も防具も、そのうちアレックスが揃えてくれるだろう」

「食材も困っていないものね」

「街に用事は、特にない」


 三人の回答だ。飯が特別、街に美味しいものがあるわけではない。宿屋も雑魚寝。服も巻頭着のようなものしかない。どんな街かは気になるが、せめてレベル50近くなってからでもいいかな。それよりも、家を建て、壁の強化をしたいな。畑にも蒔く種を集めたからな。風呂も四人で入れるように作りたい、もちろん、ベッドも。

 あの六枚の畑は、三人の家のものかと尋ねるとそうだと云う。今は何にも使っていないと云うので、一番北側の最上段の畑に、家を建てていいかの了承をとった。一つが100m×70mの広さの畑だ。


「ベッドというのは何だ」

「ああ、なんというか、床で寝るのではなく、一段高い場所にふかふかのマットを敷いて寝る場所かな」


「何人が寝られるのだ」

「四人でも寝られるサイズを作るぞ」


 それは、いいな。一度、カノッサ村の家に帰るか。裏庭でも、畑でもスキルレベルを上げる練習もみんなできるからな。とリアも乗り気だ。


 ◇

 翌日朝、カノッサ村


 一段階目の計画は、この一番北の西側に家を造ろうと思う。水は俺の水魔法で流して、生活排水を畑に流す。汚れた水は下水道という別の水路を作っておく。一面の畑、100m×70mをまず、第一城壁として壁を作り、その中に家を置く。

 

 二段階目の計画は、次に全部の畑と家を囲うように第二の城壁を作る計画だと伝えた。街から登って来る野盗や山賊は、第一城壁内から打ち下ろしになるので、弓矢、水魔法、風魔法でぶっとばす。北側から降りてくる魔獣は、二つの壁で防ぐ、という計画だと話をした。

 

 まあ、完成図は予想できないだろうから、と前置きして、回収手帳の中の『▼建築設備一式』で作成された杭を畑の四隅に刺した。それを大型ハンマーで高さ2mになる様に土に打ち込む。


 足場は1m四方のレンガブロックだ。


 その四隅の間に、杭を3m間隔で打ち下ろし、そこに長さ5m×高さ2mのレンガブロックを回収手帳から取り出し設置していく。東西に20枚、南北に14枚のL字を二つ作った。これで第一城壁の完成だ。わずか、10分ほどで設置が完了した。取り出して置くだけだからな。入口は東側中央と北側中央からやや西よりに鉄の門を一つずつ設置済みだ。


「は?」

「試しに、スラッシュや、風刃や弓矢で、この壁を攻撃してみてくれ」


【スラッシュ】キン!

【ウィンドカッター】カン!

【スナイプ】コツン!


「という感じで、これが壁というものだ。夜や外出時は、この鉄の門というのを閉じれば、外から侵入は出来ない。よじ登ってくる奴には、壁の上にウルフの牙の罠を仕掛けておく、手が血まみれになるはずだ。罠にかかった奴がいれば、楽しみだ」


 家は、こんな感じだ。と言いつつ、既に並べるだけの状態のレンガブロックをひたすら並べていく。イメージは2階建てのレンガ造りの洋館だ。屋根はフラット。

 

 幅が南北に10m東西に7m。敷地面積に対して、1/10サイズだ。縦横は90度違うが。土地の中央から西側に置いた。玄関部分は東側手前に出し、長方形の二階建ての洋館、レンガブロックをただ置いていく。そして目玉は高台。第一城壁内の南東部分に、高さ15mの高台(物見矢倉的なもの)を設置。

 

 階段は、レンガブロックの内側に鉄製で螺旋状に設置した。中は三メートル四方あるので、四人が上に登っても大丈夫な広さにした。俺が登るとみんなが手すりにつかまって恐る恐るついてきて登った。最上階まで登ると、海が見えその手前に街らしき平屋の集落がうっすらと見える。


「凄い景色、海が見える」

「・・・」

「・・・」


 クリスティが感想を述べたが、レナとリアは放心状態だ。


「ここからなら、あの三軒の家の向こうまで魔法も、弓矢も届くだろう、では最後に家の中を紹介しよう」

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