第11話 家が欲しい レッド・ボスの口の中
食料もたくさん集まったので、次は木材を集めたいと彼女たちに話した。何に使うのだと訊かれたので、家の内装だと応えておいた。「松、杉、桧、竹」とかはあるかと聞いたところ、現地語翻訳がうまくいかないのか、知らないと云われた。
このあたりの木は、チルドレン・トレントか、ベイビー・トレントが多いのだという。それで家を作るのかと聞けば、そうだと云う。どう見ても、角材や柱材は作れるが、合板は作れそうにない。希望を伝えると、もっと奥に、ブラザー・トレントという大きな木があるが、レベル40はないと死ぬと云われ、諦めた。
彼女たちにレベル40になるのにどれくらい必要かと尋ねた。
普通なら、10年以上はかかるかな、という返事だった。それほどなのか。ただ、先日のオーク100匹狩りとかを毎日すれば、5年くらいかな、と云われたが、5年も毎日毎食オークを食べたいと思うか、偶には違う肉も食べたくなるよな。
◇
カノッサ村の、秋や冬のような季節感を尋ねてみた。雨は多いか、雪は積もるか、風は強いのかなど、雪は、カノッサ村から50km以上離れた森なら積雪があるが、麓は海が近いので積もらないと云われた。雨は、見ての通りだと云われた、谷底に水が流れていないのが不思議に思っていたが、降水量が少ないようだ。確かに西側の川も小川だったからな。まあ水のスキルがあるから大丈夫か。冬は流石に北からの吹き降ろしの風が強いようだ。北壁をしっかり抑えておくようにしよう。
谷底での生活も三週目になった。森では毎日、50~80匹ほどのフォレスト・オーク、15~25匹程度のディープ・フォレスト・ウルフ、そして稀に遭遇する、スパイダーシルクを倒し続けた。肉一年分くらいは、貯まったのではないだろうか。そして、二着目のブラトップも作り、個人的なミニスカート付のレギンスパンツというものも作った。意外と好評だった。しかしさすがに、カラー・バリエーションが欲しいと云われた。上から下まで深緑だからな。わかるぞ。
ワンランク上のウルフに、レッド・ウルフという奴がいるとのこと、推奨レベル28~32だ。しかもファイア・ボールを吐き出すのだという。こいつらと相対するときは、山林、森林火災になるため、必ず水魔法持ちを連れて行かないとダメらしいのだが、俺がいるから、大丈夫だと云われた。しかしレベルが高すぎないか。と尋ねたが火を吐く以外は、ディープ・フォレスト・ウルフとなんら変わらないという。それならば、ということで、明日北上することとなった。
谷底の凸凹した岩肌も、南北街道として利用しているため、スキルで平坦にして歩きやすくなった。このまま修行したら、スキルレベルがⅣになるんじゃないかという勢いだ。彼女たちもただ、レベルを上げるより、スキルレベルの一段階違いの強さに驚いたようで、積極的にスキルレベル上げに勤しんでいる。
俺も谷底の岩を削り、粘土を掘り出し、日々、北側に何かないかを探していた。これまで鉄鉱石、銅鉱石、水晶、石灰石を見つけ、どんどん回収している。一度回収したものは、次から探知の黄色マークとして表示されるのでとても便利なのだ。
切立つ谷の上空を見て、珍しい木があれば、駆け上り【鑑定】をして、これまで、杉っぽい木、松っぽい木、桧っぽい木、竹っぽい木を集めた。もちろん、ベイビー・トレントも、チルドレン・トレントも回収を忘れてはいない。ある程度、レンガ造りの一軒家二階建て構想を賄える材料は揃えたと云ってもいいだろう。
次は、畑にまく種を探している。野菜の種、根菜の種、香りづけの種、茶葉、あの六枚の畑を有効活用するつもりだ。これはクリスティも手伝ってくれている。彼女は野菜が大好きなようだ。見たことも食べたこともない野菜を見つけると大喜びしている。そういえば、果物類ってないのか、聞いてみた。秋にならないと果物はないぞ、と云われた、そんな馬鹿な。そうなのか?春や夏にできる果物ってなかったっけ。
「イチゴやメロン、ミカン、キウイは知らないか」
と尋ねた。
どうも植物、果物、食物に対しての異世界言語がしっくりこない、食材が根本的に違うからだと思われる。赤や緑、オレンジや黄色などの特徴を告げるが、果物の木を見たことがないという。縄張りが違うのかもと云われた。川向こうの森は、種族の違う高レベルの冒険者が多いようだ。果樹園のような場所は、彼らの資金源になっているのかもしれない。谷底の東側はどうなのか、と聞くと、谷底の東西の森での違いはないらしい、があちら側も冒険者の種族が違うのだと云う。どういう意味だろう。この時は、あまり気にしなかった。
元々同じ生態系だった地域に、谷底が出来ただけだから、そういわれれば、そうなのだろう。
◇
翌日 雨
レッド・ウルフ討伐の朝、生憎の雨。この世界に来て初めて見る雨雲。自棄に暗いな。月が3つとも隠れたせいなのか、随分と暗い朝に感じる。リア達は、レッド・ウルフの火の威力が低減すると喜ぶが、なんだか、雨の日はテンションが上がらない。
いつものように、フォレスト・オークを倒し、針路を北に取る。フォレスト・ウルフを倒し、いよいよレッド・ウルフの生息地だという川沿いまで来た。足元の
普段より増水しており、流されそうな勢いの水流だ。是非とも九匹を分断したいところだ。フォレスト・ウルフよりも一回り大きな個体のレッド・ウルフが一匹いる。距離は60m先といったところか、こちらは森を背にしており、下り坂の途中だ。大きな個体がこちらの気配か、匂いのいずれかに気づいたようだ。大きな雄叫びを上げた。横一線に大きな個体中心に四匹ずつが横に並ぶ。雨が一段と強くなってきた。
「剣を滑り落とすなよ、リア」
「ああ、わかっている」
俺は少し姿勢を低くして、川の水を利用しようと考えた。
「あいつ等が川を飛び越えるときにジャンプする、空中で動けない敵を狙えよ、一人二匹ずつだ、この並びで狙うぞ」
「おう」
リアが俺たちに指示を出す。左に、レナ、クリスティ、リア、俺の順だ。大きな個体が雄叫びを終えると、一気に走りこんできた。飛ぶタイミングを待つ。3,2,1
【スナイプⅡ】【スナイプⅡ】
【ウィンドカッター】【ウィンドカッター】
【スラッシュ】【W・スラッシュ】【スラッシュ】
【水弾】【水弾】
レナの矢は二匹のコメカミを捉え、クリスティの風刃も二匹の目を潰した。リアのスラッシュが大きな個体の前足に当たるが、奴は無傷で着地した。追撃のWスラッシュも前足で払うようにかき消され、三発目のスラッシュは隣のレッド・ウルフを川に叩き落した。俺の【水弾】で右から二匹を川向うまで弾き飛ばしたが、大きな個体は無傷、その背後から一匹が被弾せずに無傷で着地、レナが目を潰した二匹は、跳ねるようにこちらへ飛び掛かった。
「追撃!」
【ウィンドカッターⅢ】
【スナイプⅡ】
【W・スラッシュ】【肉体強化】
【水弾Ⅲ】【水弾Ⅲ】【水弾Ⅲ】【短剣Ⅱ】
クリスティは目の潰れたレッド・ウルフに風刃で前足を斬り落としたが、そのままの勢いで、クリスティに牙を剥いて落下してきた。
もう一匹のレッド・ウルフは眉間に矢が刺さり、その場に倒れた。
リアのW・スラッシュに対し、大きな個体は、口から吐いたファイア・ボール二発で相殺し、その勢いのままリアに馬乗りになり、肉体強化をしたリアの腕に噛みつこうと大きな口を開けた。
俺の三発の【水弾】は、右端の一匹の眉間に一発。大きな個体の喉に一発が貫通。最後の一発はクリスティに落下したレッド・ウルフの頭を吹き飛ばした。
クリスティは落下してきたあと首を飛ばされたレッド・ウルフの血で、髪が真っ赤に染まったが、死体の腹を蹴り立ち上がった。リアは大きな個体に乗られ、腕を噛みつかれたように見えたが、既に喉を貫かれていた奴は、牙を振り下ろすことも火を吐くこともできなくなっていた。その口の中に、短剣Ⅱごと飛び込んだ俺は、手と頭を喰われたような姿勢になったが、奴の口が閉じることは無かった。レナは川の手前に倒れたレッド・ウルフたちを引き摺っていた。
「危なかったな、さっと回収しよう」
ははは、とみんなが笑った。
俺はデカい口から這い出て、回収を開始した。クリスティもリアも俺も、顔と頭が真っ赤に染まっていた。
▼魔獣図鑑――――――――――――
レッド・ウルフ レベル28 獲得経験値84
レッド・ウルフ レベル30 獲得経験値 120
レッド・ボス・ウルフ レベル34 獲得経験値 144
ドロップ品、レッド・ボス・ウルフの大剣(斬撃にファイア・ボール加算)
レベル30台で、レベル×四倍の経験値か。
「お宝が落ちたようだぞ、ボス・リア」
「雨じゃなかったら、攻守ともに、ヤバかったな」
俺は、血だらけのリアを抱き起し、ドロップ品の大剣を渡した。レナが良くやったと俺の背を叩き、クリスティは、腰に抱き着いてきた。俺が食われたと思ったらしい。
「お前らを抱かずに、死ねるかよ」
「ウルフに咥えられて云うセリフかよ」
▼【魔女鑑定】――――――――――――
リアナ レベル22(+3UP)、ドロップ品;レッド・ボス・ウルフの大剣
エレナ レベル21(+2UP)
クリスティアラ レベル21(+3UP)
アレックス レベル20(+3UP)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます