第9話 鉄と木で生活道具を作る

 カノッサ村から30㎞地点の洞穴を拠点とした。嬉しいことに、奥に風呂桶を置こうと採掘を続けていたら鉄鉱石の鉱脈に当たった。硬すぎて始めは削れなかったけれど、岩をぶつけ零れ落ちた鉄くずを回収手帳に入れた。

(食事用)鉄のスプーン、フォーク、ナイフ、コップ、フライパン、鉄板

(採掘用)ノミ、ハンマー、シャベル、スコップを材料と変換してくれるようだ。

 さらに、チルドレン・トレントの木と合成して持ち手も自動作成してくれる。なんぞこれ、便利すぎます、魔女様!


 始めはノミを作り、鉄鉱石が多く取れ始めると、大型のモノが作れるようになった。武器はまだレベルが足りず作れないようだが、鉱物用の採掘道具が作れるだけでも、俺の中では文明開化だ。しかも食事用のフライパン(持ち手部分はチルドレン・トレント製)嬉しくて、一日中、鉄鉱石を掘っていた。


「おい、アレックス、オークを倒しに行くぞ」

「今日だけは、採掘させてください、こんなものが作れます!」


 無理やり説得した。うまい焼肉が食えるということでリアは納得。クリスティは俺が作ったものを【鑑定】して鑑定Ⅱのスキルレベルを上げると宣言。

 レナは、いつか鉄の矢が作れるからという甘言にコロリ。剣も作れるのか、とリアがいうが、武器生成の解放条件が分からないので、当分先だと思うと正直に答えた。ただ、いつかは作れると思うので、武器用の素材をたくさん集めておきましょうということになった。


 午前中は、コツコツと小さな鉄鉱石だったが、午後からは大きなものも掘れで出した。熱伝導を考え、五右衛門風呂っぽい、二人が入れるサイズの風呂を作ってみた。

 洞窟内で薪を焚くとどうなるか考えずに始めたものだから、煙だらけになったが、風刃Ⅲのお陰で、クリスティの風操作は抜群だった。これでスキルレベルがさらに上がるね。何故か二人ペアで、二巡で風呂が終わるはずが、『俺と誰か』という組み合わせで、三回連続で入った。

 

 体の前後を【水弾】シャワーで汚れを吹き飛ばした。最早スキルレベルⅢの【水弾】は、ジェット水流のシャワーヘッド代わりになる。いいのか、これ、お股にも当ててみたいが、止めておいた。俺が暴走しそうだからだ。


 リアも剣技のスキルレベルを上げたいらしく、オークが通れない狭い幅の岩肌に隠し階段を作ろうよ、と提案をしたところ、『スラッシュ』を連発して岩肌を削いでいった。これは特訓にもなると、リアは喜んだ。リアは単純だ、単純な女の子は可愛い。可愛いは、こんな世界では最強だな。猫耳に触りたい。ああ、声が止まらない。


 回収手帳のお陰で木の矢はザクザク作れる。レナも積極的に弓技Ⅱのスキルレベル上げに取り組んだ。リアが掘り進めた岩肌の階段から、ヒョコッと顔を出してオークを狙い撃ちするのだ、チョコチョコ、チマチマと当てるのがスキルレベルを上げるコツだと考えたらしい。みんな目の前の目標があって嬉しそうだ。


 次はベッドを作りたい!床で寝ると体が痛いのだ。女の子に寝返りで軟らかい葉肌に乗られると嬉しいが、その嬉しさ以上に、床面の岩肌が俺の体に食い込む。これは耐えられなかった。背中がアオジミだらけのはずだ。物理耐性とか強化されないだろうか。はたまた、床面を鏡面仕上げにする方が先か。ジェット水流なら、出来るはず。


 ◇

 隠し階段が出来た翌日は、ガチのオーク狩り、そして木製の素材が欲しいので、岩場からすぐの木材も伐採する。最初は俺がやっていたが、リアは、剣技Ⅲになったようで、スラッシュの威力が凄まじい。なんだか、ダブル・スラッシュになっていないか?


「ダブル・スラッシュってなんだ」


 俺は、袈裟斬りの要領で、目の前で×になる様に左右の斜めに振り下ろす技。そして、斜めに振り下ろし、同じ方向へ振り上げる技。

 上下・上下のパターンと、上下・下上のパターン、そのすべての動作にスラッシュを使うと、ダブル・スラッシュにならないかとリアに伝えてみた。


 シュンシュン

 シュンスパ!

 スパッスパッ!


 どれだけ肉体精度が高いの、この子。


「これはいいな、ダブル・スラッシュか」

「ははは、凄いな、リア」


 ズバン!ズバン!と一撃でオークの脳天をワンキルショットするのは、レナ。彼女も弓技Ⅲになって、威力が、当社比20倍とかになってない?

 もう飛行中の矢が見えないのよ、コレ。構えて振り返ったら刺さっていて、後から音が聞こえる。何を見せられているのだろう。今日一日だけでもオークを100頭近く回収した。フォレスト・ウルフより二回り大きなディープ・フォレスト・ウルフも30匹。これは、床敷のカーペットか、ベッドの敷布団か。ブラトップもいいな。ベストもいいかも。


 俺の周りの文明開化が本日も順調に進行中だ。


 クリスティは、俺と一緒に草花を鑑定しまくっている。もちろん樹々も魔獣も、鑑定できるものはなんでも鑑定。俺の【鑑定】が先にⅡにあがった。喜んでジャンプした時に、木の枝に潜んでいたデカイ蜘蛛と目が遭った。


 糸を吐かれた。


【水弾】シールド

【水弾】パキン!


【スラッシュ】シュパ!

【水弾】スパーン!


 本能がこの糸はヤバいと警告を鳴らす。水のシールドで防ぎ、【水弾Ⅲ】で木を斬り落とし、落下中の蜘蛛をスラッシュで二分した。が斬り切れなかったので、追撃の【水弾Ⅲ】で真っ二つにした。


 ▼魔獣図鑑

 クイーン・スパイダーシルク レベル28 獲得経験値84

 

 アルカリ性のアルカリ性の撚糸を吐く、巻き付かれると肉に食い込み内部から火傷を負う。超危険魔獣!死亡後、体内から取れる糸は、50mは頑丈で不切耐性、縫製材料として秀逸。スパイダー・シルクの糸 1m当り銀貨1枚。


 マジか、50mで金貨5枚!というか、これ売らずに、色々縫製をやってみよう。他にもいないかな。スパイダー・シルクを回収手帳に取込、探知で同じ種がいないか感知を行った。3匹発見。クリスティにも事情を話し、蜘蛛退治に向かった。糸が飛んでくる。【水弾】シールドで防ぎ、クリスティの【風刃(ウィンドカッター)Ⅲ】であっさり真っ二つ。俺はその場でスパイダー・シルクを3匹追加で回収手帳に収納した。これは笑いが止まらない。


「どうした、アレックス」


 俺がニタニタ笑いをしていたのを観兼ねたリアが訊ねる。ウルフの皮とスパイダー・シルクの糸で、ブラカップやベストを製作する案を伝えた。


「ブラカップとは何か」

「素肌のその簀巻き布の代わりにつける胸当てのようなものだ、三人とも【鑑定】させろ、サイズを測る」


 血走る目で三人を追いかけようとしたら、三人に殴られた。いやいやジャストサイズの寸法は必要なのですよ。その必要性を必死に訴えかけた。一度つければ、二度と簀巻き布には戻れませんよ、と大口を叩く俺。今なら、先着一名様限定に作る事ができますよ?と煽る。

 意外にも、レナが手を挙げた。白銀の髪に、新緑の瞳。そして、その高貴な風貌に似合う深緑色の、ディープ・フォレスト・ウルフの毛皮。ゴールドのスパイダー・シルクの糸。映えること、間違いなし。失礼とひとことレナに告げて、俺はレナをハグする。


 うむ。Cの84。


 一番、レナが抱き心地がいいかもしれない。バスト・クイーンに相応しいブラトップを作るぞ!ついでにベストも。ポケットは胸二つ、へそ横二つ、次いでに、矢筒もお揃いで作ろう。俺の創作意欲が高まる。ビンビン来た。俺はレナの手を引き、洞窟へ戻った。そこで回収手帳から、縫製済みのブラトップ、ベスト、矢筒を取り出し、レナに渡した。


「つけ方がわからない」

「つけるよ、その簀巻き布を解いて」


 彼女は上着を脱ぎ、目の前で簀巻き布を外していく。これ、旅館とかで「あ~れ~」とかグルグル回して引っ張りたいな。二番目以降の希望者にはそうしよう。小麦色の肌に、小麦色の乳房。ああ、押し倒してしまいそうだが、ここは我慢。彼女の後ろに回って頭から被せる。タンクトップのような感じだ。背後から手をまわして、胸の下乳のラインにシャツを合わせて調整する。なんという肉饅感。


 ありがとうございます、女神様、レナ様。


「何、この解放感、圧迫感も締め付け感もなく、体が軽い!」


 その場でクルクルと踊り、ジャンプするレナ。メッチャ可愛い、上下左右に揺れているし。さらに、彼女にベストを着せた。よく似合っている。鉄から取り出した薄い鏡代わりの鉄板を壁に、姿見のようにメリ込ませている。彼女がその前で、ファッションショーのように、正面、斜め、横、クルッと回る。


「どう?気に入ってくれた?」

「うんうん、これ凄くいい、ありがとう、アレックス」


 彼女が俺に抱き着いてくる。もちろん軽く抱き返した。簀巻き布の時はなかったバウンド感が、ブラトップにはある。ああ、幸せだ。幸せついでに、矢筒もかけてあげよう。左の肩口から斜めにかけた矢筒の紐。中央あたりで胸のラインを押し上げるかのような仕上がり。もう、眼福!胸のラインが綺麗に出ていいね。彼女も再度、姿見で映してお気に召したようだ。俺の腕に彼女が腕をまわして悦びを表してくれた。製作者冥利に尽きます。二人でハグをして喜んだ。

 二人でもう一度、階段をあがって、クリスティとリアに、自慢げにレナが見せつける。くっきりとした胸の輪郭をベストで上手く交わし、それをさらに矢筒の肩ひもで際立出せる。完璧なコーディネートだ。(俺氏談)

 

「ズルい、私も作って」

「もちろん、私の分もあるのだろうな」


 二人も欲しくなったようだ。

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