第8話 狩 カノッサ村 北30キロ地点
魔獣の血に誘き寄せた魔獣を狩る。これを昼まで続けたところ、大量の食材、魔石、素材が集まった。リアもクリスティもレナもにっこりだ。北西にある川に辿り着き、岩と石で竈を作る。レナが当初拾い集めて落ちていた枝を薪にする。
排泄をしない代わりに汗で老廃物を出す、という恐ろしい肉体の栄養循環だった。そのため、汗をかくと臭いが困ったことになる。魔獣を喰えば食うほど臭くなる。だから初日に俺が「臭くない」と云われたのか納得した。そういえば、レナは血抜きをせずに兎の肉を鍋に放り込んでいた。まずは、血抜きルールを作ろう。臭くない飯を食わしてやらねば、と謎の使命感に燃えた。
「なあ、みんな、血抜きをした肉を入れれば、汗の匂いの臭さはかなり減ると思うのだが」
「塩分が足りなくなるじゃないか、血には塩分があるのだぞ」
「うん、それで岩塩をかわりに使おうと思うんだ」
「岩塩は買うと高価だぞ?」
「そうそう、だから、海水をたっぷりと収納するか、岩塩を集めたい」
「なるほど、だからアレックスは臭くないのか」
リアははじめ抵抗を示していたが、臭いが減れば、魔獣にも見つかりにくい、という利点と、寝るときにお互い臭くない方がいい、という俺の願望を必死に訴えかけたために、三人は最終的に納得して俺の案を受け入れてくれた。この子たちなりの常識を覆すには、メリットを提示すれば案外、取引に乗ってくれるということをこの二日で理解した。
魔女様、回収手帳の中で、素材を分解したり、血抜き後、素材を分類したりする機能はありませんか。と願い、回収手帳を開いた。
▼回収手帳 魔獣素材
肉(血抜き済み)、血(塩分抜き)、塩、皮、牙、爪、不可食部位
「お、おう、やった、やったー!」
俺は思わず拳を天に突き上げた。
「ど、どうしたんだ」
三人が俺の挙動不審な行為に、疑問を呈する。俺は少しだけ自慢げに、回収後、部位を自動分解してくれる機能を説明した。三人は、呆れていた。理解できないようだ。俺だって仕組みは理解できない。理解するのではない、ただ魔女様に感謝するのだ!
「魔女様ってなんだ、時々お前が口走っているが」
魔女様について、俺は色々と説明したが、神様、女神様がいないこの世界に、その抽象的な概念を理解させることは困難だ、いや不可能だ。
クリスティにご先祖様の加護が分かるかと聞いたところ、それならわかると云ったので、クリスティを介して、魔女様とはこういう者だ、ということを話してもらった。万物に神が宿り、神に感謝するといった風習はない世界。
けれども、自分を守ってくれる仲間の存在や、剣を打ってくれる鍛冶屋への感謝は理解できるようだ。そういう思いに便乗させてもらうことにした。ファンタジー要素を古代人に説明できる人間がどれほどいるのか、いやいない。(反語)
昼食の鍋は、俺が鑑定済みのキノコで出汁をとり、肉の灰汁を捨て、途中で拾った木で皿とスプーンとフォークを作った。大きめの木のスプーンで灰汁をとる。勿論下味には、肉に塩を擦り込んだ。
「それは、何をしているのだ」
灰汁を捨てるという行為は、臭いニオイの素、つまり不要なものを捨てていると説明した。かわりに、香料がわりの草を入れた。キノコの香りもスバラシイ。こっそり拾った「油の実」と芋は別にして、先に揚げておいた。ああ、フライドポテトっぽい、うまい、味見で涙を流す俺を不思議そうに見て、リアとレナ、クリスティが芋を口に入れた。
「うま!」
ふふん、これまで腹がただ太ればいいと云っていたリアでさえ、「どうせ太るなら美味いもので腹を太らそうぜ」、という俺のキャッチコピーが気に入ってくれたようだ。次からは、「油の実」を拾うぞ、と気合を入れていた。兎とイノシシのあく抜きの肉、キノコの出汁と相まって、透明感のあるスープ。(昨日は泥スープだった)
「うま!」
肉もスープも、キノコも気に入ってくれたようだ。マジで食文化が100年進んだ!もちろん、作り方は簡単なので、毎回、レナとクリスティにも作り方を教えた。リアは食べる専門のリーダーだと言い張って、飯は作らないらしい。まあそれはいい。二日ほどで匂いの効果は出だ。汗が臭くない!最高。
初日はリア、二日目はレナ、三日目にはクリスティのそばで寝たのだが、日に日に匂いが気にならなくなった。これには三人もにっこり。
この三日間でいろんな草やキノコ類を鑑定した。草の8割は雑草だが、残りは薬草や香味、種は香辛料や油になるもの、さらに、葉っぱはお茶になるものが数種類あった。香水は作らないが、ハーブ茶や火で焼いて乾燥させた紅茶を飲み続けると、そのうち汗自体がいい香りになるに違いない。特にクリスティにはハーブ茶や紅茶が人気だった。彼女も鑑定持ちなので、積極的に葉っぱを集めていた。可愛い後ろ姿だ。口に出た。振り向いたクリスティも笑っていた。随分と三日間で打ち解けてもらえたようだ。嬉しい。
◇
大量の肉、素材、薬草、茶葉、食用キノコ、山菜が集まったこともあり、四日目は岩塩集めをした。東に5㎞ほど移動した。俺は岩塩という物体を見たことがない、触れば解ると高をくくっていたが、これが大変だった。
表面は掘りつくされているので、硬い岩肌を削って掘り返さねばならない。探知を使い、【水弾】で岩を砕き、岩肌を軟らかくして土を掘った。これ、竪穴式住居だ。洞穴式の。この谷間には魔獣はいないらしい。
洞穴の小屋を三人は気に入った。明日以降、10㎞ずつ北に洞穴を掘る係に任命された。【水弾】のスキルレベルも上がるので快く引き受けた。短剣のスラッシュのスキルレベルも上げようと振り抜いていたら、それを見たリアが私にやらせろと結局、リアまで参加することになった。漁夫の利ですかね。ゲヘヘ。
レナもリアが手伝うなんて珍しいと笑っていた。おかげで拠点が三つ出来た。夜も魔獣を警戒することもなく、川の字で、四人で寝ることが出来た。その夜、魔女【鑑定】をしたところ
▼【魔女鑑定】――――――――――――
名前 アレックス
レベル 13
スキル 【水弾Ⅲ】
「うわ!」
「どうした、敵か?」
「ごめん、【水弾】のスキルレベルがⅢになった」
レベル10台で、スキルレベルⅢなど聞いたこともない、と三人に驚かれた。短剣はⅡのままだった。それでも毎日コツコツ風呂桶に料理、岩場掘削のお陰でスキルレベルが上がったことは凄く嬉しかった。明日から岩場掘削は私がやる、とリアが宣言した。レナとクリスティも思うところがあったようだ。きっと彼女たちのスキルレベルも近日中にあがるだろう。みんなでビッグウェーブを起こそうぜ。
調子に乗りすぎたのかも知れない。
五日目に岩場をリアが削っている時に、上からオークに覗き込まれていた。レベルはサイズによって22~28くらいらしい。北に進みすぎたのだ。
オークが唸り声をあげるが、谷底には降りては来ない。奴らは一度降りると、上に登れないらしいのだ。ははは。高さが5mほどある岩肌。
谷底から【水弾】【ウィンドカッター】【弓技Ⅱ】でオークに攻撃が届く、鬱陶しそうに両手で払うが、体がなまじ大きいだけにいい的だ。10分ほどすると転がり落ちてきた。その落下の衝撃で片腕と脚を痛めたようだ。
リアが【スラッシュ】でオークの体を傷つけていく。肉が旨いらしいので、頭部と脚を狙えとみんなが攻撃した。レベル差は確かにあるが、動かないオークはいい練習台だ。これほど耐久力があるとは思わなかった。森で出会ったら逃げるしかないな。
俺はレベルの上がった【水弾】を薄くして首を狙った。その狙いを防ぐかのように折れていない手で首を守るオーク、5分もするとその腕も切断できた。最後は、スキルレベルⅢにあがった、クリスティの【風刃Ⅲ】でオークは息絶えた。
「【風刃Ⅲ】ウィンドカッターのスキルレベルがⅢになった」
「おめでとうクリスティ」
みんなでハイタッチだ、ハイタッチのやり方を教えると、みんな喜んで覚えた。ハイタッチをすると、みんなの鑑定ができるのだ。オークも回収した。
▼魔獣図鑑
フォレスト・オーク レベル24 経験値72
食肉部位
(上位部位)50㎏(中位部位)70㎏(スジ肉)90㎏
レベル20を超えると経験値がレベルの三倍になるのか。肉も部位ごとに分けて回収されている。嬉しい限りです、魔女様!
▼【魔女鑑定】部分表示――――――
リアナ レベル17(+1UP)
エレナ レベル16(+1UP)
クリスティアラ レベル15(+1UP) スキル【ウィンドカッターⅢ】
アレックス レベル14(+2UP) スキル【水弾Ⅲ】
明日からもオーク狙いにしよう、ということになった。囮役は俺らしい。岩塩も大量に採れて、オーク肉も大量でホクホクだ。今夜は鍋ではなく、オーク肉の焼肉を楽しんだ。塩味だけでも最高に美味かった。
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