第7話 狩 カノッサ村 北10キロ地点
10㎞地点の小屋に着くまでに、15匹くらいのウサギが獲れた。みんな、着替えなどの私物や桶のような共有物を俺に預けているので身軽だったからだという。北に向かう8㎞地点までは、2回目だということもあり、この森の俯瞰図のイメージが出来た。
俺が落ちた谷間は南北に亀裂がある。この獣道から2㎞東だ、この獣道から西に3㎞行けば川が流れている。この川も北から南に流れている。つまり森の幅は5㎞だ。川の西側や、亀裂の東側は、別の奴らの縄張りらしく、行くことは無いと教えられた。
その縄張りというのがルールで、ルールを破ったら罰が下る。みんなが認めたら法律になると教えた。女を犯したら罰が下ると決めたら法律になる。だが、男たちはそんな罰は受けたくないから、自分だけ女を抱けないと不満を漏らす、犯すのはダメだというルールに賛成しないだろう。
ああ、芋畑は自分たちの畑だが、村のモノだとも云った。私有と共有の境界の概念が薄いのか。結婚という概念はない、男はどこで子どもを作ってもいい、女もどこかの男の子どもを産む。そういう世界か。
俺はふと疑問を感じた。国が無ければ貴族など存在しないだろうと。ツヴァイという家名は、家名を持つ集団がいると考えた方がいいのか。それともこの地域が国という概念をこの国の庶民が持っていないか、別の地域では里がある。別の地域に国があってもおかしくはないな。まあ、今日考える必要はないが。
◇
足元を駆け抜けるイノシシを見つけ、意識が視界に集中した。レナの矢が、イノシシを追撃し尻に刺さって転倒した。この世界のイノシシも走るときは真っすぐにしか走れないようだ。ひとつひとつ理解しなければいつか自分が死ぬな、と考えて笑ってしまった。
塩はどこで採るのか聞いてみたところ、街では海水を少量混ぜる、森では岩肌を削って岩塩を見つけると教えられた。この森で香辛料の実を見つけたいな。キノコも山菜も、せめて食事の味のレベルを上げたいと思うのだった。ここまで灰汁抜きしていない下味もないウサギ肉と芋スープしか食べていないのだ。稲も麦も知らないと云われた。稲は無くても仕方ないが、麦がないのは驚いた、おそらく野生でどこかに生えていると思うのだが。腹が太ればいいだろう?と、リアとレナは、食に興味が無い様子だ。ええ、今はその日暮らしが精いっぱいだから、余裕が出来れば考えることにしよう。
小屋は見つけたが、床があるわけではない、枯草、干し草のようなものが敷かれているだけだ。これはいつか、大きな毛皮にしようぜ、熊とか狼とかどーん、と広げて。
俺たちは、荷物を置く必要もないので、さらに北に向かい狩を続けることになった。毒を持つ魔獣がいるのか尋ねたが、この辺りにはいないとリアが応えた。色違いのスライム、大きなネズミやリス、もぐら、どいつもこいつもサイズが笑えるくらいに大きい。【水弾】のいい的だ。
「アレックスの狩の腕がいい、獲物を外さない」
「的がでかいからな」
クリスティが俺を褒めるが、外しようがないほど大きい的だと応えると、首を傾げられた。可愛いなクリスティ。声に出た。昼から盛るなとリアに怒られた。どうやら経験則で大きな獣や魔獣を倒すほど、レベルは上がりやすいという。そういうものだと無理やり納得した方が良いようだ。
▼魔獣図鑑
青スライム レベル4 非表示
大きなリス レベル4 獲得経験値4
赤スライム レベル5 獲得経験値5
緑スライム レベル5 獲得経験値5
おおねずみ レベル6 獲得経験値6
つちモグラ レベル6 獲得経験値6
イノシシ小 レベル7 獲得経験値7
一角ウサギ レベル8 非表示
どうやら、レベルと獲得経験値は、このクラスだと一定のようだ。大体のレベルだけを覚えていくことにした。一桁なら誤差の範囲だろう。北西に進路を変え川に向かう。川に魚はいるのかと聞いたらいる。だが、腹を下すと云われた。それ、寄生虫がいる魚を生か、生焼けで食べているからでは、後で【鑑定】してみよう。
腹が減ってはいないが、飯の事で頭がいっぱいになってきた。無意識に食に対してのストレスを感じているようだ。違和感と云えば、自分の体に違和感があるのだ、二日経っても尿意や便意を感じない。まさか、経口食を100%肉体が吸収しているのだろうか、老廃物も?汗で出て行っているのか?そんな馬鹿な。
「どうした、アレックス」
「排泄、尿や便はどうしているのだ、と思っていな」
「なんだ、それは」
「・・・いや、なんでもない」
そのうち魔女様の手帳が教えてくれるだろう。俺の20%しかない常識がすでに崩壊し続けている。いっそ、常識など一度捨て去るべきだろう。色々と危険すぎる。
「ゴブリンが出たぞ、いけるか」
15mほど前方に五匹のゴブリン。遠目に観た感想でいえば、問題ないだろう。木の枝を持った奴が二匹、残り三匹は素手だ。
「問題ない」
【水弾】
意識的に、薄い水の刃状にした。刃の水面に樹々や草花が反射するように、保護色の水刃が音もなく、木の枝を持ったゴブリン二匹の首をそっと落とした。ボトリと落ちた首の音に気付いた残り三匹は、キョロキョロとしている。やがてストンと眉間、コメカミに、レナの矢が突き刺さり、奴らは前のめりに倒れた。
「魔獣を倒した場合の経験値は、皆に入るのか」
「ここにいる四人全員に入るぞ」
「そうか」
「ゴブリンは食えたものじゃない、魔石だけ取り出そう」
そういう仕様だと云う事で納得した。スキルレベルを上げるために敢えて、ドドドドドと【水弾】で心臓部にある魔石の周りを削り取る。小さな機関銃のように、殺傷力は足りないが連続発射ができるようになっている。いろんな工夫をしてみたい。
▼魔獣図鑑
緑ゴブリン レベル10 獲得経験値20
五匹以上の群れでいる場合、稀にドロップ品を落とす。
「初級ポーションがドロップ」
クリスティが、小さな瓶詰の容器を手に、透明な液体の入ったそれをプラプラさせている。ほっほう。ドロップするのか、それはいいな。
「ほとんどが、使い切りの消耗品、たまに武器が落ちる」
「へえ、いいことを聞いた、コイツラの血の臭いで、魔獣をおびき寄せたりする?」
「・・・試したことは無いが、アリだな、狩が楽になる。この辺りは弱い魔獣しかでない」
俺の案に、リアが乗り、レナとクリスティも顔を見合わせたあと、頷いた。
首を落としたゴブリン二匹からを枝に引っ掛けて、南から吹く風に乗せるようにした。人間の鉄のような血の臭いとは違う、ゴブリンの血は、肉食動物の排泄物のような匂いがする。先ほど見かけた小さなイノシシの三倍くらいの大きな奴が六匹、警戒しながらノソノソとやってきた。でかいな、【水弾】が効くかな。
「奴らは、私の剣とクリスティの風刃で首を落とそう、アレックスとレナは、奴らの目を潰してくれ」
「わかった」
デカいイノシシを挟み撃ちにするように、リアとクリスティは、足音を消して奴らの斜め後ろに回ったようだ。奴らが土の上のゴブリンの血をすすり肉に噛みついた瞬間に、【水弾】で目を潰す。スコンとレナの矢も目に刺さる。イノシシたちはランダムに反転して駆けだした。
【スラッシュ】シュパ!
【スラッシュ】シュパ!
【ウィンドカッター】ドサ!
【ウィンドカッター】ドサ!
【スラッシュ】シュパ!
【ウィンドカッター】ドサ!
イノシシがトップスピードに達する前に、六匹のイノシシが倒れた。ドロップ品は、『イノシシ油』だった。どうやら剣の手入れに使うようだ。リアが喜んでいた。俺も短剣を手入れするときに貸してもらおう。
▼魔獣図鑑
フォレスト・ボア レベル13 獲得経験値26 (食用可、生食不可)
魔石、肉、牙、毛皮で大白銅貨13枚 (壱萬三千円也!)
レベル10を超えると、経験値が弐倍になっているな。しかも結構いい値段で売れそうだが、貨幣を交換して欲しいものがあるかは謎だ。町に豪邸とかあるのかな。そんなゲスなことを考えていたら、続いてゴブリンやらウルフやらが集まってきた。フォレスト・ボアは俺が収納した。傷めるともったいない。ゴブリンを餌にゴブリンが来るとか、共食いするのかコイツラ。
▼魔獣図鑑
フォレスト・ウルフ レベル12 獲得経験値24(可食部少、生食不可)
魔石、肉、牙、毛皮で大白銅貨9枚
「肉の量としては、既に四日分くらいの量になったぞ」
「いつも、こんな感じか?」
「いや、いつもは一日回って一日分の食料で、狩は終える。今日は大量だ」
▼【魔女鑑定】――――――――――――
名前 アレックス・フォン・ツヴァイ
レベル 12(242/682)NEW!
お、レベルが上がっていた。しかも次のレベルまでのプロセスが分かる。これはいい。魔女様ありがとう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます