第6話 森の中で魔法談義と実践
この世界の夜と朝は、とても早いということを知った。電気がないのだから当たり前なのだが、昨夜は夕方頃に風呂に入り、夕食を済ませると空は一面の星空だった。星座のことなど、北極星と北斗七星くらいしか知らない俺でも、空の明るさに驚き改めて知らない星の輝くに感動した。
月が三つもあった。しかも一つの月は俺の記憶にあった満月の三倍はあろうか、という大きさ。青い月だった。もう一つは黄色い月。よく見かける奴だ。最後の一つは赤土色だった。火星に似ている色だ。
明るくなりかけた朝に、庭にある竈に火を入れた。朝食と昼に持っていくための肉を焼くためだ。今日から予定通り一日遅れの遠征だという。10㎞ごとに拠点というか小屋のようなものがあると聞いた。森の中の小屋と聞いて、安全性に一抹の不安を感じるが、往復20kmを考えれば、小屋を利用する手を逃す意味はない。
しかも女性たちは、俺が収納持ちだと知っているので、風呂桶さえあれば、一週間どころか、一か月でも何か月でも奥に進むことが出来ると喜んでいる。俺自身もレベルアップのための遠征は歓迎だ。
果たしてどんな旅になるだろうか。
他の冒険者もいるのか尋ねてみた。やはり、20㎞地点から30㎞地点には、それなりの冒険者が出ていくという。オーク肉やイノシシ肉を狙って人気の場所なのだという。俺たちがレベル20になるのに、どれくらいかかるのかはわからない。
リアは3年目、レナは2年目、クリスティは1年半くらいのキャリアなのだという。そういえば、朝食の時に、リアナからは、『リア』と呼べと云われた。じゃあ、私は『レナ』と呼んで、エレナに云われた。クリスティからは、私を抱けたら、『ティアラ』と呼んでもいいと宣言された。そういえば、クリスティアラが本名だったな。
俺の知っている最短で最強などには到底、到達は無理なようだ。【水弾】と【短剣】だけだからな、攻撃手段が。
『その二つともが攻撃スキルだというのは、この世界ではダブルと呼ばれるのよ』とレナに教えてもらった。しかも、【収納】と【探知】と【鑑定】があるなんて、反則級の溜飲キャラなのだという。自分にもっと期待するように心がけろ、とリアにも言われた。堂々としておかないとお前が男たちに舐められ(精神)、私たち三人が舐められる(物理)と云われた。それは困る。
「俺でさえまだ舐めていないのに」
リアに無言で蹴りを入れられた。どうやら、足は全快したようだ。
◇
計画では、薬草も昨日たくさん採れたので、10㎞地点まで一気に上がって、拠点を確保、そして推奨レベル10~15のゴブリンやコボルト、小さなウルフ系を討伐するという。いずれも食用には向かない。アルミラージという一角ウサギよりもでかいウサギや突撃ボアというイノシシが見つかれば、それを大量に確保したいと話をしていたのを聞いた。勿論、道中、一角ウサギもいればどんどん倒していいとお墨付きをもらった。
レナには昨日話をしていた、探知系のギフトについても、リアとクリスティには共有した。それは20km~30㎞地点の荒くれ冒険者除けに役に立ちそうだと云われた。最悪、食材や寝床の奪い合いや女を巡るトラブルが、殺し合いに発展することは珍しくないのだという。覚悟しておけ、と云われ頷いた。
【水弾】のスキルレベルがⅡだと伝えると、レベル10にしては習得が早いなと云われた。スキルレベルがⅢになると、世界が変わるほど強力になり、スキルレベルⅣなど、まず巷では聞いたことがないと云われた。
逆にスキルレベルⅣの敵には、迂闊に手を出すなともリアに忠告された。どれほどの威力なのだろう。と疑問に思っていたら、お前が目覚めた谷間が、土魔法のスキルレベルⅣで削れた地形だ、と教えてもらった。あの南北に激しく広がる谷間を思い出し、ドン引きした。自然の地形ではなく、土魔法Ⅳかよ。肉片も残らないな、恐ろしい。
森に入ってから、5㎞ほど進んだ時に、レナが小枝を拾っているのに気づいた。チャイルド・トレントとい木の枝で、矢として削り出すのだという。木の枝ではなく、落ちている小枝が、都合が良いのか、と尋ねると、『木の枝は、なかなか切るのに往生するのだ、本当は木の枝の方が水分と脂分を含んで、重く威力が増すのだけど』と教えてくれた。
試しに、チャイルド・トレントの木の枝に、【水弾】を放った。ウオータカッターをイメージして薄く鋭い水の刃。直径2cm程度だと軽く切れた。太すぎると矢にならないと云われたが、太い木を削りながら歩くので、どれだけ太い木が切断できるか見せてくれ云われ、10秒ほどかかったけれど、無事、チャイルド・トレントの本体の幹、直径20㎝を切断できた。
「いやいやいや、水で木の幹は伐れないだろう、おかしいぞ、お前」
「同じスキルレベルⅡのウィンドカッターでは、伐れないと思うの」
レナの抗議に、クリスティも相乗りする。俺は試しに、自分のイメージを明確に言語化して伝えた。風で薄い刃を作る、それを端から斬り始め、反対側までゆっくりと伐り進めていく、いわゆるチェンソの概念を、小さな風の刃を回転させるように、指でクルクルと回し、小さな風の刃を複数繋いで、それをさらに回転する、と説明してみた。
「試しにやってみる」
【ウィンドカッター】シュパっ!
【ウィンドカッター】キュル!
【ウィンドカッター】ギュル!
【ウィンドカッター】ギュルル!
【ウィンドカッター】ギュルルッルン!
クリスティがウィンドカッターでチャイルド・トレントの枝、1㎝、2㎝、5㎝、10㎝、そして本体の直径20㎝。
「あ、出来た、凄い威力」
「おめでとう、クリスティ」
リアとレアも、俺のアドバイスで簡単に20㎝の木の幹を切断したクリスティに驚いていた。俺も勿論、驚いた。
「クリスティの理解力の高さ、実行するまでの魔法理論の組み立て、それを正確に実行できる魔力のコントロール。どれも一級品」
俺がスキルひとつの手順を分解して言語化したのが珍しいのか、リアは剣技Ⅱをレナは弓技Ⅱについて、何やら考え込んだようだ。
「なあ、アレックス、お前なら、剣技Ⅱでどんな技を思いつく?」
「僕が短剣Ⅱなので、例えば、剣の先から魔力を斬撃として飛ばすとか、『スラッシュ』みたいに」
「スラッシュとはなんだ」
「ええっと、ちょっと待って」
俺は、手ごろな木の枝に、斬撃を飛ばすイメージで【スラッシュ】と叫び、短剣を振り抜いた。
スパっ、と枝が伐れた
「あ、嘘」
クリスティが口をパクパク。レナとリアもあんぐり。
「今、体にビリビリと何か流れたぞ!私もやってみる」
【スラッシュ】シュン!
【スラッシュ】シュイン!
【スラッシュ】スパーン!
1度目は、小さな斬撃が、2度目は、大きな斬撃が現れたが前には飛ばなかった。3度目についに、細く鋭い斬撃が、木の枝を落とした。凄いな、この子たちの呑み込みの早さというのは、魔力のある世界で生きている応用力というか、生きぬくための適応力か。
「やるな、リア」
「おめでとう、リア」
リアが剣を鞘に納め、僕に抱き着いた。おっと、ダイナマイト・ボディなので倒れないように片足を引いて軸にして二人分を支えた。一番大きなサイズの弾力、良き、良き。
「クリスティとリアにだけ教えてズルイ、私にも教えて」
レナが可愛く拗ねる。拗ねた顔も可愛い。あ、声に出た。レナに、スナイプのアクティブスキルをどう使っているか聞いてみた。狙いを定めて打つと百発百中だという、ただし視界にあるモノ限定で。それを聞いて僕は閃いた。レナに耳打ちする。
【スナイプ】
射られた矢は、木の間に、弧を描き流星の尾のような光を放ち、木の背後にいた一角ウサギを仕留めた。
「やった、曲げられた!ありがとう、アレックス」
「お、凄いな、レナ、おめでとう」
レナも僕に抱き着いてきた。当然正面から受け止める。適度な胸の大きさに癒される。はあ、レナの体は軟らかくて、最高。あ、声にでた。
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