カノッサ村

第4話 カノッサ村 フォンタナ街

 鍋を囲んで2時間ほど話をした。随分と打ち解けた。


 ここはカノッサという村で、彼女たち3人の出身地だということ。すでに家族は他界しており、春になったら生家の掃除をするためにこの家に帰り、ここから北の山で魔獣狩をするのだという。

 村を起点におおよそ1kmあたり、魔獣のレベルも1あがることを目安としているとのこと。僕が倒れたところは、この村から北に10㎞東に2kmほどの渓谷だという。僕が南に降りず、北に向かっていたら今頃、レベルが10を超える魔獣に遭遇して、大怪我をしたか、動けなくなっていたはずだと云われた。


 今年はこの春から秋にかけて、15㎞ほど奥に行き、レベル次第で北上する予定だという。僕も、根無し草のため同行をお願いしたら許された。ついでに働きぶりによってはパーティに入れてやってもいいと云われた。頑張るしかない。

 彼女たちは秋から冬にかけては、5㎞ほど南にある麓のフォンタナという街で活動しているという。そこに冒険者ギルドもある。人口は5000人くらいの中規模の港街だという。女性三人だと何かと煩わしいことも多く、男が一人いれば、クダラナイ男たちのパーティ勧誘も、少しはマシになるかもしれないという。


「俺がクダラナイ男の筆頭かもしれないのだが」

「いや、アレックスは大丈夫だろう」


「なんで?」

「臭くないから」×3


 三人の女性が声を揃えて言う。大事なことらしい。産まれて1日目だからね。ちなみにシャワーはなく、上水道も通っていない。木の大きな桶の床面に鉄板を敷いて桶の中の水を温めて、その湯に浸かる方法で身を清めるという。水は3kmほど西にある川から汲んでくるか、寝る前に生活魔法(水)で体内の魔力が切れる寸前まで使い切るのだという。

 魔力の仕組みを聞いたところ、生活魔法は体内の魔力を使う(魔力有限)、スキルは空気中にある魔力を利用する(魔力無限)。生活魔法でコップ一杯の水を出そうとすると、血と同じで、貧血になるはずだと云われた。確かにそうか。

 僕は三人に生活魔法について尋ねた。彼女たちは呆れたようだったが、僕が、生活魔法のスペルを失ってしまったと云えば納得した。


▼生活魔法の効果とスペル

【水】=1日、100㏄程度の水、スペルは【ウオータ】

【火】=種火を灯す、種火から着火する。【イグナイト】

【光】=ライトの光 【ライト】

 他にも生活魔法はある。普段はこの三つが使えれば、野宿も可能できるという。


「ありがとう、良い師匠に恵まれた」

「その分、【水弾】で桶の水を貯める係に任命だ」

と云われた。勿論快く引き受けた。


 さて、本来なら三人は、本日から森に入る予定だった。しかし、リアナの脚の怪我とクリスティの体調不良が予定外だったようで、出発は明日になった。ただし今夜と明日の食材がないので、弓のエレナと俺とで森の入り口で食材探し担当となった。

 肉は、兎か猪。薬草は日持ちしないので、必要分だけ採取と云われた。俺がうっかり、「収納庫内なら日持ちするのか」と聞いたところ、『収納のスキルがあるのか』と三人に詰め寄られた。スキルではなく、「回収というギフト」があると伝え、目の前で、硬貨、薬草を取り出し、収納して見せた。


「この鍋や、桶を収納できるか試してくれ、後は水入りのジョッキも」


リアナに云われ試したところ、どれも収納できた。


「ふむ、これは、凄い。アレックスには、私たちのパーティに、是非とも入ってもらいたい」

「賛成!」×2


 リーダーは年長のリアナのようだ。クリスティもエレナも賛成した。嬉しく思った。


 どうやら、俺には運び屋と風呂桶屋として適任のスキルとギフトがあるようだ。三人からは、絶対に他言無用にしろと云われた。鑑定で『ギフト』は見えないらしい。『呪い』は見えたとのこと。

 おそらく魔女様の加護があるからだろう、と自分ではそう思っている。バレる、と上級のパーティにこき使われ干されるまでそれが続くぞ、と脅されたが、冗談ではなく、マジでヤバイギフトなのだという。それは知らなかった。てっきりファンタジーには定番のスキルなのだと思っていた。魔女様、ありがとうございます。


「アレックス、収納以外に危険なギフトはないのか、呪いの方は裏表がわかるから、私たちにはむしろ有効だがな。」


 俺自身がまだギフトの全容がわかっていないが、触れれば【鑑定】ができるようだ、これは正直に答えておいた。エレナが触れてみろと言い出したので、勢いで、キスをする前のように、両手で頬っぺたを触って視線を合わせ見つめ合って、魔女様の名を呼んだ。


弓の女性エレナの状態


▼【魔女鑑定】――――――――――――

名前:エレナ

年齢:17歳

種族:ヒト族混合種 成人

所属:パーティ「カノッサの星屑」

レベル:15

パッシブスキル:【弓技Ⅱ】

アクティブスキル:【スナイプ】

状態:激しい動揺と軽い興奮

――――――――――――


 状態欄を除いた、鑑定結果を告げると、見えたのはそれだけか、とエレナに睨まれた。どうやら【鑑定】のレベルも上がると色々と詳細が見えるのだという。クリスティの【鑑定Ⅱ】だともう少し詳しいようだ。


「これは、マジモンの拾い物だったな」

「うんうん」


三人だけが納得していたが、俺自身も三人に拾われたのは幸運だと思う。


「さあ、夕食と明日の食事の餌を狩に行こう、あと桶は持ったな。川の場所を教える」

「行ってくるよ」


 エレナと俺は、再び北を目指し森に入っていった。二人で他愛もない会話も楽しい。


「マジでアレックス、何者なのだ」

「うーん、自分でも驚いているよ、わかり次第もちろん皆には隠さず伝えるさ、・・・あっ!」


「どうした?アレックス」

「言い忘れていたことがあった、頭の中に魔獣の位置、素材の位置、仲間の位置がわかる機能がついている」


「はあ、アレックス、お前、斥候もできるのか、マジで何者だよ」

「あはは、綺麗処の三人に驚いてもらい、受け入れてられて感無量だよ」


「ふん、実際、誰が好みなのだ」

「え、三人とも、ド・ストライクなんだけど。誰か一人に絞らないと、不誠実とか、不都合とか、色々と拙かったりする?」


「いや、私たち三人なら、問題はない。他のパーティの女だと、不都合な事件が起きるかもしれない」

「それは、怖いな、街や他のパーティも華やかなのか?」


 残念ながら、そうではないから、夏場は山籠もりして男を避けているのだ、暑くなると頭のイカレタ男が増えるからな、とエレナは笑った。


「困った笑顔も可愛いな、エレナは」

「こら、そういうことを、二人きりの時に言うな、と云っても止まらないのか」


「そうなんだよね、理解してくれて助かるよ、本当」

薬草を採りながら、俺も彼女に感謝した。


「三人のそれぞれどこを、お前は気に入ったのだ」

背中越しに、エレナも薬草を積みながら尋ねる。


 クリスティは、ハーフエルフだよね、初めて見たんだよ、あんな可憐でスレンダーな女性を。ショートヘアも似合っているし、まつげは長い、手足も細長い。もう一目惚れ。性格は控えめなのか、体調がただ悪かったのかはわからなかったけれど。

 

 リアナは、猫獣人の血が少し入っているよね、初めて見たんだよ、猫耳最高、筋肉質の無駄のない体に、バネのある脚、赤茶色の髪にさっぱりした姉御肌の性格。決断も早いし、最高のリーダーだよな。尻尾はあるのかな。

 

 エレナは、何だろう。魂が引き寄せられる感じかな、白銀色のサラサラヘアーも、深緑の瞳も、理想通りの胸も腰つきも最高級グレードだし、話のテンポも内容も知性的だし、もう押し倒してしまいたいよ。あ、実際はそんな乱暴なことはしないけど。素敵な三人に出会えて本当に幸せだ。

 

 近くの薬草を積み終わって振り返ると、エレナの持つ弓が、プルプル震えていた。


「どうした、エレナ、もじもじプルプルして」

「はあ、アレックス、お前を弓で射殺したい気分だ」


「やめてくれよ、既にエレナに射抜かれて骨抜きなんだから」

「そういうところ。だぞ、アレックス」


 その後、一角ウサギを5匹、【水弾】で倒し、水場で桶と鍋に水を汲み収納。


『水だけを収納できませんか魔女様』


▼回収手帳

ギフトレベルが不足のため、形なきモノは現在収納不可能。(要レベルアップ)

形あるモノに入れた水は回収可能。


「ありがとうございます、魔女様」


「どうした、アレックス」

「ギフトレベルが上がれば、水だけを回収することが可能なようです。今は桶と鍋に入れた水は持って帰れます」


「・・・羨ましいギフトだな」

「一緒に暮らせば、共有財産」


バシン!と背中を叩かれた。なんで、だよ。

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