ep.2 春の訪れと火薬の香り②
神社に着いた頃には既に息が上がっていたが、それを介さないほどの大声で叫んだ。
「守り神様ーーーーー!!!!出てきてくれーーーーー!!!」
瞬きの瞬間、愛らしい犬の姿をした神様は僕の目の前に現れた。
「どうしたんじゃ、雄輔。そんなに大きい声を出さんでも聞こえておるぞ。」
「なんか破裂というか、爆発した!パーンって!!何なのあれ!?昨日のは夢とか冗談じゃなかったってこと!?」
声を震わせながら、何かにすがりたい気持ちでいっぱいになりながらそう言った。
「・・・その様子じゃと、事は既に起こってしまったようじゃな。」
僕は体中の力が一気に抜け落ちたようにその場に伏し、考え込んだ。
僕はこれからどう生活していけばいいんだ。
僕はいつも通り学校に行けるのかな。
なんて言って謝ればいいのかな。
みんなにどう説明しようかな。
『呪い』の事なんて信じてもらえるのかな。
僕の体はどうしてしまったんだろう。
あの光景から不安がどんどん芽生えてきて、根を張っていくような感覚を覚えた。
ふと、誰かに抱き着かれた感覚がする。
僕の心を癒し、包み込むような優しい匂いがする。
「じゃが、すぐにわしの元へ来たのはえらいぞ。よしよし、怖かったの。」
頭を撫でられる。
不安定だった心も少しずつ和らいでいくようだった。
顔を上げ、僕は話しかける。
「あなたは?」
すると神子服を着た長い髪が印象的な女性がそこにいた。
神秘的な佇まいとそれに似合わない犬耳が目に付く。
「お!そういえば昨日は名乗っておらんかったの。わしのことは"
「・・・ごめんなさい、コスプレイヤーの方ですか?」
「失敬な!わしはこれでもこの地の守り神じゃぞ!何となく想像つくじゃろうが!」
「守り神・・様?」
「そうじゃぞ。お主を慰めるために本来の姿を見せてやったのじゃ。特別じゃぞ、感謝せい。」
そのことに関してはまた追々聞くとして、それよりもまず聞きたいことがあった。
「それよりも琴姫、なんで僕は爆発が起きても無傷だったの?」
琴姫は腰に手を当て、説明口調でこう続けた。
「それはわしがお主に加護を与えたからじゃぞ。『呪い』の衝撃がお主自身に影響を与えることはないから安心せい。じゃが、わしの力ではお主を守ることで精いっぱいなんじゃ。触れる相手を守れるほどの余裕はなくてのう。」
「なんでそれを言ってくれなかったの?」
「忘れておったし、時間もなかったのじゃ。お主に姿を見えるようにするんにも力を使うと言ったじゃろ?」
琴姫はそういうと、咳ばらいを一つして話を切り出した。
「何にせよ、やはり10年はその『呪い』と付き合っていくことになるじゃろう。わしからは『禁忌の札』がまた完成するまで辛抱してほしい、としか言えんな。」
やっぱりか、と思った。
さっきみたいに周りの人間に危害が及ぶのは避けたい。
でも、今の僕にもできることはあるのだろうか。
「そうじゃ、お主にこれを渡そうと思ってな、用意してきた物があるんじゃ。」
そういうと琴姫はポケットから眼鏡を取り出した。
「これは『キモキモ眼鏡』と言ういわゆる神器でのう、この眼鏡を付けた者の見た目を文字通りキモキモに見せ、魅力を大きく損なわせることができるんじゃ。これでお主がモテモテになることはなくなると思うぞ。」
ひっどいネーミングセンスである。
神器史上ここまでネーミングセンスが尖りまくっている物は聞いたことがない。
それは置いておいて、琴姫が言いたいのは、僕がモテなくなれば誰からも恋心を持たれなくなり、爆発が起きる条件が揃わなくなるのではないかということだろう。
僕の顔に関しては、坊主にしたって、不揃いでダサい眼鏡を付けていたって、それすら着こなしてモテてしまう自信がある。
なので、今できる対策というと、その手に頼るしかない。
「わかった、その眼鏡、僕にくれる?」
「・・・話の呑み込みが早くて助かるわい。すまんの、お主に背負わせることになってしもうて。」
そういうと琴姫は申し訳なさそうな顔をする。
この神様は僕が思っていたよりも意外と思いやりのある人柄だったようだ。
「でも僕、これからどうすればいいのかな?」
「うーむ、そうじゃな。今回だけ特別に時間を巻き戻してやろう。多くは使えんし、20分以内が限界じゃがな。それで間に合いそうか?」
「ほんと!?何から何までありがとう!」
「・・・もとはと言えば『禁忌の札』が原因じゃ。そう感謝することでもないぞ。」
「うん、けどお礼は言わせてよ。守り神様がこんなに親切だなんて思ってなかったから。」
「ふ、ふん。まあよいわ。何かあったらすぐわしのところに来るんじゃぞ、雄輔。」
昨日と同じような口ぶりでそう言った。
琴姫は一応僕のことを心配してくれているらしい。
「うん、わかったよ。」
僕がそう言うと琴姫は目を閉じて一言何かを唱えた。
僕が瞬きから目を開いた次の瞬間には、いつもの通学路に立っていた。
―――――――――
2回目のその日、『キモキモ眼鏡』を付けて登校した時の周囲の反応は今でも覚えている。
「雄輔君、眼鏡に変えたんだね・・・。あの、なんていうか・・・眼鏡ない方が雄輔君らしくてカッコイイと思うよ!あ、これ日誌ね。」
少女はそう言って、手渡しすることなく日誌を僕の机に置いていった。
その日の話題は、僕の外見の落ちぶれようで持ち切りだった。
一部その話題から引用する。
・なぜか光が毎回反射して目が全く見えない。
・人相が悪くなってる。
・一般的な身長のはずなのになぜかとてつもなく低身長に見える。
・眼鏡による着太りが起こっている。
・以前のモテオーラが消え、存在感が薄くなった。
などなど、挙げればきりがないほどだった。
『キモキモ眼鏡』とかいうイカれた名前ではあるが、一応神器である。
見た目を変えるだけに及ばず、その効果は絶大だった。
しかし、僕の人生史上かつて、これほどの非難を浴びたことは一度とてなかった。
なので普通に傷ついたし、聞いていて気分も悪くなった。
もともと同級生と多く話すキャラでもなかったので、どう反応すればいいのかもわからなかった。
そして中学に上がる頃には、僕の人生最高潮のモテ期は既に終わりを迎えていたのだった。
◇◇◇
そこからの僕の生活は、恋をしない、目立たない、女性に触らない、の三「ない」原則を守るように徹底し、非モテ陰キャ男として生きていくことになってしまった。
しかしそれも今では、僕にかけられた『呪い』から周りの皆を守るためには仕方がないんだと割り切ることができている。
なんだかんだ『キモキモ眼鏡』なんていう名前もユーモアがあって最近は気に入っている。
『呪い』を解くまで、あと4年の我慢なんだ。
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