ドッカーーーン!!って感じの恋物語

晒音なつ

ep.1 春の訪れと火薬の香り①

 

「お前のことがずっと好きだった! 俺と付き合ってください!」

 

「こんな私でよければ、よろしくね!」


 こんな会話を聞かされて、僕だったらこう思う。


”リア充め!爆発しろ!!”


 でも、実際に爆発することなんて現実世界ではありえないことで、あくまでネタとしての表現だ。



 しかしこのお話は、『リア充になると爆発する呪い』をかけられた僕の、数奇な恋の物語である。



       ◇◇◇


 当時10歳の小学生だった僕――坂東雄輔ばんどうゆうすけはありえないくらいモテモテだった。

 顔は整っており、勉強も学年で一番の成績、スポーツも万能、趣味はピアノという非の打ち所がない人間だったと自負している。

 モテの勢いは凄まじく、誇張抜きでクラスの女子半分からお付き合いを申し込まれたこともある程だった。


 ある日の学校の帰り道、急に雨が降ってきたので、傘を持ってこなかった僕は近くの神社で雨宿りをすることにした。

 この神社は確か、古くからこの地の守り神様をたてまつっていることをおばあちゃんから聞かされたっけ。

 そんなことを考えていると、後ろから僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「お前が雄輔か?」


 大人の女性の声だったが、その中にどこか威厳のようなものも感じられ、自然と体に力が入った。


「そうですけど、僕に何か用ですか。」


 振りむきながらそう答えると、そこに人影はなく、一匹の犬が座っているだけだった。

 その佇まいにはどこか神秘的な風格があった。

 眼光はしっかりとこちらを捉えており、犬が人語を話すことなど聞いたことはないが、直観的に声の主がこの犬であることを理解した。

 僕は夢でも見ているのかと思った。


「わしはこの地のあるじで、いわゆる守り神というやつじゃ。おぬしには伝えねばならぬことがあるのだ。」



・・・・・・・。



「しゃべっったあぁぁぁぁ!!!!」


「あまり騒ぐでないぞ、小僧。」


「またしゃべったあぁぁぁぁ!!!!」


「騒ぐなと言うとるであろうが!」


 少年であった僕は、この人語を操る犬との遭遇に大興奮だった。

 興奮する僕を遮るように、この犬は語り始めた。


「いい加減に落ち着け!わしはお主に忠告をしに来たのじゃ!」


 真剣な口調でそう切り出したため、僕はポカンとした顔になった。


「良いか、おぬしにはとある『呪い』がかけられておる。」


 『呪い』という単語に胡散臭さを感じながらも、僕は質問を投げかけた。


「そ、その『呪い』ってどんなの?」


「・・おぬし、多くの女子おなご共から好かれておるじゃろ?」


「まあ、うん」


「そ奴らがおぬしに触れると爆発するようになってしもうた」


「え?何を言ってるの?」


 本当に何を言っているのかわからなかった。

 真実味がない内容で、余計に胡散臭さが増していく。

 犬は僕の様子にかまわず、真剣に話を続ける。

 

「昨日、『禁忌の札』を持った小僧がここに来てのぉ・・・あ、『禁忌の札』にはわしの守り神としての力が宿っておってな、境内で唱えた者の願いを叶える力があるのじゃ。使い方によっては呪いをかけることも可能なのじゃ。」


 『禁忌の札』の言い伝えは、僕にも心当たりがあった。

 おばあちゃんが話してくれたことがあったからだ。

 守り神様がこの地を穢れから救うために作ったもので、この神社の境内で唱えるとどんな願いも叶えることができたとかなんとか。

 この地域の住民なら知っている人も少なくはない。


「・・・その子は、どういう願いを言ったの?」


 ばかばかしい話だが、目の前で繰り出されている話は妙な信憑性を帯び始め、少し興味がわいてきた。


「あの小僧は札を持ってこう言っておったわい。」



―『雄輔の野郎ばっかりモテやがって・・・リア充め爆発しろ!!』―



「その願いのせいで、僕に『呪い』がかかったってこと?」


「まあ、そういうことじゃな。」


 しばらく無言の間が訪れる。

 僕はというと、疑問に思う点が多くてしばらく考えを整理していた。


 考えを整理した後、いくつか質問することにした。

 守り神様は、僕の質問にできる限り答えてやろうという姿勢で応じた。

 

 わかったことというと、

”爆発は皮膚と皮膚が触れ合うと起こる”

”この呪いは禁忌の札でしか解呪できない”

”唱えた子にも解除はできない”

”また禁忌の札を作るには10年かかる”

"好意の程度によって爆発の大きさは左右する”、といったことだ。

 


 しばらくして、目の前の犬の姿をした守り神は声のトーンを一つ落としまた口を開きはじめた。


「お主には申し訳ないと思っておる。わしがはるか昔に作った札が災いを生んでしもうたからの。まさか『禁忌の札』がまだこの地に残っておったとは思いもよらんかった。」


 守り神様も気の毒だなと思った。


「まあ、あまり気を落とさないでよ。なんとかなるって。それに、また『禁忌の札』っていうのを作ればいいんでしょ?10年後だっけ?」


「・・・わしの話、本当に聞いておったのか?事の重大さについてわかっておるか?」


 ここまで話を聞いて、信じたい部分もあるが、そのために僕の貴重な10年を棒に振るというのはあまりにも馬鹿馬鹿しすぎるというのが正直なところだ。

 そう口にしようとした時、ふと雨が止んでいたことに気付いた。


「雨はもう上がったようじゃな。遅くなると心配をかけるであろう。今日のところはもう帰るがいい。わしも長くはこの姿を保てないんじゃ。じゃが、くれぐれも女子おなごとの接触には気を付けるんじゃぞ。何かあったらすぐにわしのところへ来い。わかったな。」


 遠足前の母親のようなせわしさでそう言い終えると、目の前にあった可愛らしい犬の姿は既に見えなくなっていた。


 僕はやはり夢でも見ているのかな?

 そう思いながらフワフワした気持ちでいつもの帰り道を通り、いつも通り宿題をして、いつも通り眠りについた。


―――――――――――


 翌朝、事件は起こった。

 教室の扉を開けて席に着こうとした時のことである。

 

「雄輔君、これ、今日の日誌の当番だよね?」


「わざわざ取ってきてくれたの?ありがとう!」


「う、うん。はい。」



・・受け取ろうと指が触れた刹那。

指と指の隙間にバチバチとした感覚が通り抜けた。



―――パーン!!!!!



 銃声のような轟音が教室中に鳴り響く。


 「きゃあぁぁぁぁ!!!!」 

 同時に、少女の悲鳴のような叫び声も教室中に鳴り響いた。 


 しばらく唖然として、周囲を見渡した。

 少女の指は大きな火傷をしたように赤く腫れあがっている。

 僕のために持ってきてくれたその日誌は、教室の隅にまで吹き飛んでいた。

 周囲のみんなはただ茫然として僕を見つめるばかりだ。

 

 それらを一瞥し、僕は一直線に走り出した。

 訳が分からないことだらけだったが、考えるよりも先に体が動いていた。


 守り神様の言葉を思い出し、必死にあの神社へと向かう。




 



 

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