第45話 ――
『終わり。と。攻略ノート再現、現実世界との剥離もかんりょーう』
ぱさ、っと攻略ノートが開かれておかれた。やがて光の粒子となり消えた。
『アレフもご苦労様だぜー。お疲れ』
『――』
返事がない。
『構築再現、ギフトを解除、ギフト名‘ルル=ドラ-ジの浸蝕’』
フィドルの足元に、魔王城の床が現れる。
フレイヤが魔王の玉座前に立ち、玉座に漆黒となったルルが、ぼて、と落ちてきた。
「あーあ、魔王まで食っちまったから真っ黒になったのかこれ~?」
自分の一部を鏡に変え、その姿に不満を漏らす。
「吸収したデータが大きすぎるからだよ」
フレイヤがルルに手をかざすと、その体が透明の姿に戻る。
ぴょい、と跳ねるとフレイヤの頭の上に乗った。
「結局、攻略ノートのままで終わっちまったか」
「そんなことないよ、外からはそう見えるだけ」
なでなでと、すべすべのルルの頭をなでる。
「この頭……カトレアの方がおさまりいいなあ」
「呼ぶ? 医療ミスの犠牲者で、とか」
ゆっくり、階段を下りて、フィドルに近づく。
「やめとけやめとけ。次の魔王が来たらでいいんじゃないか? 待て、外伝! ってヤツだ」
「そうね! お疲れ様、勇者フィドル! 美の女神として、最大限の賛辞を贈りたいわ! デウス・リベリオンは魔王を討伐――しかし犠牲も少なくなかったわ」
感極まったように、フレイヤは天を仰ぎ、くう、と涙を流す。
「でも、大丈夫! 勇者フィドル様がいれば、第二第三の魔王が襲来してもきっと退けられるわ! 私も力になる!」
ど、と。
フィドルの小剣が、フレイヤの胸を貫いた。
「は?」
彼女は一歩、後ずさった
「は? はあ? はああああ――――?! なんでぇ?!」
抜こうとするが、びくともしない。
「……神殺し。咎人の剣には何の価値もないさ。勇者の持つ剣、それが後の伝説で魔神殺しあるいは――神殺しの剣となる」
「な、な……」
「私は転生者殺しの勇者だぞ、元凶を殺さないでどうする」
「――! ――!」
「死に際は人と、そう変わらんな。あと――フィドルはお前の勇者じゃない、私の勇者様だ」
「まね……かれざる、じゅ……」
「十三番目の魔女改め――ソラ。そしてフィドル。確かに、魔王及び、転生者。討伐完了だ」
腹に小剣をうずめたまま、一歩、一歩下がる。
「男性に対しての特効も魂が女――ソラなら働かないか。一度は世界から離れたが、こちらの世界の縁が――綱渡りだが、戻ったぞ」
「まてまて、まって……ルル=ドラ-ジ……助けて……」
「いったじゃん、お前ら魔神や神将に干渉はしねーし、出来ねーって」
「こ、の、やくたた……ず」
「最弱種族のスライムなんだぞ? 無茶言うな」
階段の脇、暗がり、恐らくはその先、奈落にフレイヤは落ちていった。
「あとはお前だけだな、ルル=ドラ-ジ」
「お、やんのか、こらー」
しゅっしゅ、と拳のようにその身を変化させて牽制した。
「アレフに繋げろ」
「はああ? あのなー、……ってマジかなんだお前その顔――必死かよ」
「断ったら、戦ってやる」
「こっわ。まあいいや。面白そうだし。おーい、アレフー」
ポーンポーンと、高く跳ねて呼びかけた。
『……なにかね。画面越しに話しかけられるのは、なかなかに心臓に悪いぞ』
「ガイコツなのに?」
『君のスライム冗句のようにガイコツジョークは言えんよ。で? なにかね』
「魔女がフレイヤ殺しちまった」
『それは見ていたから知っているとも』
「フィドルを生き返らせてくれ。そこで寝っ転がってる私の死体の中に入っているはずだ。なんなら課金アイテムを買ってやってもいい。いくらだ」
『フェネクスを召喚ではいけないのか。いやそれより。私の認知しないところでなにやらあったようだが。説明してもらえるかな』
◇
夕焼けの窓を見る。駆けていく、彼――不動の姿が見えた。
「――ソラ。――ソラ!!」
唐突に引っ張り上げられるような感覚があった。
階段を踏み外した感覚が襲う。
目を開くと、自分が女を胸に抱いている。
(なぜだ。私は……)
右に目をやれば、鉄塊の剣が握られていた。
(なぜ、フィドルの神殺しの剣に貫かれて、私のギフト……が、発動した?)
(帰ってきて欲しい。俺では、こいつらを――殺せないから)
(……)
どうして、と聞いた。自問自答だ。
(約束を果たしたい)
戻って。帰って。押し問答が続いた。
覆水盆に返らず。違う。
前に、すすめ。
どちらが、どうとか。どの言葉を思考したかはわからない。
確かなのは、まじりあっているということ。
再生に、自らの腕を捧げたからか、或いは、使い魔の契約によるものか。
或いは――――
「ここが、もう、私の現実なんだな」
あまりに深く、この異世界に入り込んでしまった。
或いは、観測するカトレアの意思によるものか、そこまでは確信が持てない。
「お疲れ様、勇者フィドル! デウス・リベリオンは魔王を討伐、しかし、犠牲も少なくなかったわ。グスッ、でも、大丈夫! 勇者フィドル様がいれば第二第三の魔王が襲来してもきっと退けられるわ! 私も力になる!」
ふざけるな。
いつまで高みの見物をしている。
そうだ、こけにされたままで帰られるかよ。
然るべき報いをあたえなければならない!
小剣が、女神の胸を貫いた。
◇
「以上だ。なんならその死体を操らせて、私を殺させろ。ギフトが発動するやもしれん」
『そうだな。その身の寿命……いわゆる魂を半分、そいつの中に入れられるようにしよう』
「こうか? こう、手を当てれば、出来るか?」
「はっや。必死だなオメー。おっぱい触んなよ~」
「こちとら腕一本支払い済みだ、このまま終われるか!」
「フィドルの顔でそういうがめついこと言うない」
『ふむ、ちょい、ちょい……と』
ぐい、と引っ張られる感触があり、目を開けた。
「ソラ!」
なんども呼びかけてくるフィドルに、ソラが両手を伸ばした。
『ふふ、無くした腕はサービスで戻しておいた。私は修正に忙しい。これで失礼する』
「過労死しないようになー」
『その時はその時。なに、この身は不死の身だ。杞憂というものさ。君もあまり、野暮ったく居座るなよ』
「おーう……そうねー」
抱き合う二人に対し、ルルは目を伏せる所作をした。
「また会えてうれしい、ソラ」
細い銀糸の髪に、遠慮がちに触れた。
「よせよ。さすがに、回した手を放すタイミングを見失ってしまう」
「もう一度、顔を見たい」
「……なるほど」
ソラは手を放し、軽く目線を交差させると立ち上がった。
「なんだよー、そこはチュー、じゃねーのお?」
「悪いな。全米が泣いた、とか、最終回発情みたいなのは好かん」
「ソッカー。へへへ、攻略ノートの続き、読めってかなー……カトレア」
◇
「カトレアちゃん!」
母がそう叫んだ。
「大丈夫? まだどこかおかしい?」
見回すと、病院。その病室。さっきと何も変わっていない。
「鏡……ある?」
「はい、これ……!」
大きなリボンが揺れていた。年は、高校生くらい。
(カトレア・クローネ。そう、それが私の名前だ。――少し記憶の混濁はあるけど)
頭の中で攻略ノートを描いた。そして手のなかに収まったそれの、ページを開いた。
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