エピローグ
第44話 エピローグ
フィドルの鉄塊の剣が、ソラを貫いた。
『おみごと。魔女の気配は、世界から消えたぜ』
「……」
剣を抜き、前のめりに倒れるソラをフィドルは支えた。
『魔女の持っていた夢の工房、吸収、暗号化、再出力……っと』
『うむ、問題ない。シクス・インディゴの人々は、後で元の村に配置する。魔女同様に、ベル、エカテリナ、ミツキも現実世界に帰っているな。気配が消えた』
「よろしく頼む」
『なんだよフィドルー、もっと喜べよ!』
『それでは、順に進めていくぞ。転生者は一度、現実世界に戻ってもらう。もし、同じ世界であればこの作り物の世界を観測することもできるだろう』
「新作のゲームとしてリリースされていたら、挑戦させてもらうよ」
「会いに来てくれるんだよね!?」
「無理矢理殺して連れてくるのだけは勘弁してくれよ」
キリュウはフレイヤの頭を撫でた。その身が、光の粒子になった。
「う……」
フレイヤは涙を滲ませていた。
『ちなみに、魔神や、フレイヤのような神将は、データ化が成されていない。私の権限ではいじれないようだ』
「ついてはいけないのね……悲しいけど。後は、カトレアね」
『君の役目は特に重要だ。外の世界からこの世界のレポートを頼みたい』
『攻略ノートのデータ、バックアップ完了。ふむふむ……うまくいってるなーさすが俺、スムージー』
キリュウ同様、カトレアが光の粒子に消えた。
◇
目を開けると、病院の天井があった。
手を握られる感触があって、握り返した。
「えっ……」
母の声がした。数年間、音信不通だったが、来てくれたのか。
最後に見た光景は、絶対に終わらない量の処理すべき仕事の案件と、取引先からの督促メール。喉がからみ、咳をしたらディスプレイが血に染まった。首。背中。腰。体を支える力が弛緩し、肘掛け椅子にかけた体重のまま、横転し、床に叩きつけられた。
「――! ――!」
自分の名前を呼び続ける母。
でも、その言葉で、自分の名前を呼んでいないことが分かった。
「ノート、見なかった?」
問うた。
「……ノート?」
試しに頭の中で攻略ノートを思い浮かべた。
そうすればノートは姿を現し、内容を彼女に伝えるのだが。
現れることはなかった。
「いや、いいんだよお母さん」
身を起こすと、無理はするなと押さえつけられた。
「名前は……加藤心祷音」
「ええ、ええ、――ちゃん、――ちゃん! よかった、よかったわ!」
ナースコールを押しながら母は歓喜の表情を浮かべていた。
『カトレア。カトレア・クローネ』
名を呼ばれた。それは声ではなく意志――Xのものだ。
頭の中に、いまさらながら攻略ノートが浮かんだ。
真っ黒な、ルル=ドラ-ジの姿だけが描かれた最終頁。
赤い文字で。
終わり
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