第36話 デウス・リベリオン5

「あ、口動かすの忘れてた。なるほどねー」


 パクパク、腹話術の人形のように口を、上下させた。


「ルル=ドラージ・ウェイク。ちょっと確認。カトレア、攻略ノートの最後の頁だけどさ、全部、真っ黒に塗りつぶされてたかな、俺に」


 ルル=ドラ-ジは、不自然なくらいに首を傾げた。


「……ええ。全部の、どのノートも真っ黒」

「あーあ、内緒にして言わないと思ったのになー。君も後がないね。あ、誤解なく。何か企んで腹黒いつもりはない。スライムだけにお腹もクリアなんだぜ!」


 ころん、とかわいらしい顔が首だけテーブルに落ちた。身を震わせると、少女の身体と顔が消えて、透明な占い師の水晶のような姿に変わった。そこに、真ん丸の目が二つ浮かぶ。眼球が浮いているのではなく、表面にのっぺりと丸い目が浮かぶ感じだ。二、三度、縦に、横に伸びる。


「なるほどねー、というのは。順番に自己紹介していくなら俺もしなくちゃ、せざるを得ないようにもってきたわけだ! ボールのように、回されてきたなあ! スライムだけに!」


 ころころとテーブルを転がりまわる。


「それで? 答えてもらえるのかしら?」


 カトレアが扇子で通せんぼを作った。


「単純だね、スライムだけに。さて、言った通り俺には中の人はいない。クリアーボディだ。俺に命じられたオーダーは一つ、この世界を飲み込め、だよ」

「なんだと」

「そ、そんなことさせないわよ!」


 キリュウ、フレイヤが席を立つ。


「まあまあ、そう結論を急ぎなさんな、柔軟にね。スライムだけに」


 ぽん、と跳ねるとフレイヤの頭に乗った。


「Xだっけ。とりあえずそいつは、俺が話しを聞き終わった後に食っちまった。まあ、吸収したわけだから俺がXになるかな。ちなみに俺のギフト『原初N.u.』はそういうギフト。なんでも丸飲みにしちゃう」

「どんな願いをすれば、そうなるんだ……」


 エカテリナは顔をしかめた。


「食いしん坊キャラ、ってわけでもないんだけどなー? Xからの指示は『なんか失敗したらお前が全部食ってやり直せ』ってかんじ」

「なにそれひどい! あと、おりて!」


 フレイヤはルル=ドラ-ジをつかむと、放り投げた。

 ぽーんぽーんと跳ねて、またテーブルに戻ってきた。


「俺がどこから来て、どう作られたかって話は、『タマゴが先かニワトリが先か』ってやつだと思う。俺はお前ら――11人の転生者をこの世界に生み出したXに他ならず、でもXであってXでない単体、ルル=ドラ-ジでもある」

「まーった、まった、なんでこの女神様まで入っているのよ!?」

「世界を作るにあたり、ここに呼ばれたんだろ? 同じことだよ。四角い頭をまるーく、な。俺の頭みたいに」

「お前がかつて世界を食いそこなったか、お前がXに成りすましているか、ということか」

「俺は見ての通り、無色透明、清廉潔白! スライムだけに! 俺が悪さ企んでるなら、とっくに世界を丸のみにしてるっつーの!」


 ぽすんぽすん、と衝突のアクションをエカテリナに向けてする。


「丸のみの未来がでてるってことは……」

「うん、俺はそんなことするつもりないけど攻略ノートに出てるってことは、丸のみしなきゃいけない事態が起こるってことじゃあ、ねーの? ま、気になるのはそんくらいかな。俺にはとりあえずXって自覚はない。意志としてのXが俺を借りて何もかも台無しにしようって魂胆は気に食わん、そんだけ」

「こじれた話を機械仕掛けの神様が登場して大解決、デウスエクスマキナだっけ?」

「そうそれ。しらけるよなー?」

「……なるほどな。ルル=ドラ-ジ、貴重な意見ありがとう。君が敵に回らないことは何よりだ。カトレアも協力、感謝する」

「ん……ふふふ、まあ、お役に立てて何より」

「ファンの顔になっているぞ」

「もう! ゲーマーにとっては桐生正史郎といえば伝説級のアイドルなのよ! 仕方ないじゃない!」


 恐れ知らずに、カトレアはアレフの骸骨顔を叩いた。


「脱線はあったが、多少なりとも実のある時間だったと思う。みんなの話が聞けて良かった。そのうえで。今、目前に迫る危機。魔王。これを片付けていこう。そのことが各々の思惑に合致することを願う」

「ソラは、魔王軍側で来るだろうか?」


 遠慮がちにフィドルは挙手した。


「攻略ノートの中身、伝えておこうか?」

「頼む」

「A、高みの見物。B、フィドル君のピンチに駆けつける。C、エカテリナの銃弾によって死亡する」

「はあー? なにそれ!」

「しかも結末はどれもそこのスライムに丸のみの未来なんだから。最善手がわからなければ役立たずよ」

「いや、そうでもないさ。皆、注目して欲しい」


 キリュウがアレフに目配りする。

 テーブルの上に、セカンド・オレンジの町が立体的に浮かぶ。

 それは、徐々に森におおわれていった。


「アレイスタがいない以上、兵站の縛りが出てくる。早急に魔王を打ち取りこの進行を止めなくてはいけない。太陽の町、セカンド・オレンジ。ここに敵魔王軍本営が進み、森の城塞を築いているらしい」

「城ごとこちらに近づいてきているのか」

「RPGゲームというより、ターン制のシミュレーションゲームってとこね」


 太陽の町というだけあって、開けた東西の地平と、高い丘にある町。そこににらみを利かせるように森の城塞と、白亜の城が築かれている。


「俺は魔王のところで、半年修行していました。そこには、城を一瞬で築く魔神もいました」

「なにそれずるい」

「ここを攻めるのか。こちらは丸見え、敵は縦横無尽に、近づくほどに四面楚歌の状況。手強いな」

「ルルが食ってしまえば終わりなんじゃない?」

「いいのかー? それで力を付けたら、お前ら手を付けられなくなるぞー。掴んだらぬるりとすり抜けるけどな。スライムだけに」

「それは困る。なら、ルルは防衛だな。臨機応変に、柔軟に対応してくれ」

「さすがリーダーだな、スライムジョークがわかってきたじゃあないか」

「いいえ、あたしがお守しておくわ。攻略ノートの中身が変わるまで目を離さないから」

「なるほどなー、お前だったら俺が突発で襲うか、裏切るかどうかわかるもんな」


 ルル=ドラ-ジは指定席とばかりに、カトレアの頭に乗っかった。


「服だけ、とーかーしーちゃーうーぞー」


 ぺたーりと、その身を平たく広げた。


「そんなことしてみなさい、スプーンぶっさして食べてやるから!」

「こーわ! 相性最悪じゃん! プルプルと震えるぜ、スライムだけに!」


 漫才を尻目に、キリュウは真摯な目でフィドルと向き合った。 


「……フィドル、共に来てくれるのか」

「魔王を倒すことはソラの願いの内だ。この国のためでもある」

「じゃあ、俺と前衛だ。アレフは後衛から魔法援護、フレイヤ、君も大詰めだからな、ヒーラーとして参加してもらうぞ」

「ハーイ! 泥船に乗ったつもりでいてね! ……いちおー、女神だからそれはまじいか……スキーズブラズニル号に乗ったつもりでいなさい!」

「それ、フレイって神さまの乗り物じゃなかったっけ」

「フレイヤとは双子の神様だねー。フレイのものはフレイヤのもの、フレイヤのものもフレイヤのものよ!」

「そこはかとなく前世世界に絡んできやがりますわね、この女神」

「トラックをぶつけてくるような女神だからな。エカテリナは単独の方がやりやすいだろう。魔王への道を切り開いてくれ」

「ああ。会敵必殺、接敵必殺だ」

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