第30話 永劫回帰―輪廻回帰

「すいません、ご迷惑を」

「ごめん、初めてって言ってたのに。もっとよく見ておいてあげればよかったね。あなた、ミチホシ君の次に若いもの」

 

 アレイスタに背中を撫でられながら。

 胃の中のものを、憎しみも含めて吐き出してしまった。


「ミチホシ様。ベル様のこと……俺、その、シクス・インディゴの村の出身です」

「そうだったのか」

「あの時、アレフ様と一緒にいらっしゃいましたよね」

「おう」

「……あなた方で、生き残った村人を、殺して回ったのか。口封じのために」

「は?」


 すっとぼける……

 ではなく、ミチホシの顔は本当に狐につままれたような顔だった。


「俺はあの日、ベルに殺された! ローサ……む、村の女の子も!」

「スープを作るときに見えたあの子ね……」

「俺の心を見たなら……なあ! アレイスタ様も、見たはず!」


 ふるふる、とアレイスタは首を横に振った。


「なにもかも、全員で口裏をあわせて……お前たちは!」

「待て待て待て、そいつは違うぜ、フィドル!」


ミチホシが、そういったその時だった。

アレイスタのメイド服が、背中からの刃に貫かれた。


「え……?」


 信じられないものを目にしたように、震える手でアレイスタが突き出した刃をつまむ。


「アレイスたん!」

「なかなかに、いいシチュエーションに持ってきてくれた。お手柄だ、フィドル。これでアレイスタの異世界レストランが解除され、その隙にとんずら、というわけだ」


 後ろから伸びた手が、アレイスタの口をふさぐと、さらに貫いた刃がねじられた。


「――!!!」


 声なき断末魔だった。


「魔女、お前!」

「フィドル! こいつを殺せ!」


 抜き身の咎人の剣を取り出し、ソラがフィドルに投げた。

 躊躇はしない。殺せるときに殺せ。

 魔神オセの、魔界流の教え。

 獣の眼光で、フィドルはミチホシの胸に突きを放った。

 目前で、青色のガラスの盾が剣を妨げた。


「アレフの防護壁か。だがなあ! そんなもので神殺しの剣は止まらん!」


 ソラの言葉を待たず、いともたやすく壁を貫通し、刃はミチホシを貫いた。

 次の瞬間、ミチホシの体がドクン、と跳ね上がった。


『転生者 永劫回帰エターナルリターンのギフト』

致命的一撃クリティカルヒットに対しての誘発効果のギフトを発動』


 時間が止まる。世界から色が消えて、浮遊感がフィドルを襲った。


対抗レスポンス 異世界転生者殺しの剣 発動 永劫回帰のギフトを追放リムーブ

対抗レスポンス 発動 輪廻回帰リンカーネイト 始点 北緯X度Y分YY秒 東経X度Y分YY秒 終点――』


「フィドル……!」

 白く白く、広がっていく世界。白く、どこまでも白く。

 自分の体がそこに溶けてしまう。


 最後に、手を必死に伸ばすソラの姿があった。


 自分はどんな表情をしていた?

 或いはその手を掴もうと伸ばしたか――?


 わからないまま、空間が歪み、その身がそこに消えていった。

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