第28話 暗躍令嬢
「ほう、アレフとも知己を得たか。やるじゃないか」
改めて野営地にてソラと合流し、今日のお互いの成果を伝え合った。
とはいえ、使い魔として意識がつながっているからか。
およその出来事はどことなくに頭に入っていた。
「いよいよ連中との対峙だ。軽くおさらいしておくか。転生者オタクのお前と現実の彼ら、すり合わせが必要だ」
一人目。デウス・リベリオンのリーダー キリュウ。
「奴のギフトは、こっちの世界の人間にはピンとこないかもしれん。『
「無敵の黒騎士」
「恐らくはなんとなく強い剣士、といった認識だろうな。こちらで言うところの剣術を競う
「なるほど、ピンとこないな」
同、『選定の女神』フレイヤ。
「こいつは
「ごめんくださいまし!」
唐突に、天幕の外から女性の声がかかった。
「なんだと」
ソラの表情が途端に険しくなる。
(暗躍令嬢、カトレア・クローネ!フィドル、余計なことは話すな、私が対応する)
(了解)
「どうぞ、入ってくれ」
「夜分、失礼致しますわ!」
ふぁさ、と風に揺れる程度で入口が開き、カトレア・クローネが入ってきた。
戦場に似つかわしくない花の色のドレスを纏う。
絵に描いたような貴族のご令嬢の様相、大きなリボンと扇子が印象的だ。
「カトレア、あなたはサード・イエローの城塞都市の守りについていなかった?」
「今日は魔族の襲来はもうありませんから」
そう断じた。
(暗躍令嬢カトレア。こいつの
(わかった)
「こちらこそ。あなたがこのタイミングで戻ってきていて、驚きましたわ」
「先に挨拶に顔を出すべきだったかな。サプライズと思ったんだが」
そして、カトレアに掛ける座を薦めた。
「ふふ、こちらがなぜ顔を出さないかと聞く前に答えてしまうのね」
座ると、ころころと口元を隠して笑う。
そうしたなら、その質問を回避できる。
まるで「何か都合が悪いの?」とカマをかけられている印象を受けた。
「ミツキの様子はどうかしら?」
「魔神の使役に大きな力を使ったのか、消耗している。私の工房で休ませているよ」
(兵卒からそのことは伝わっているはずだが。わざわざ聞いてくる意図は。さて)
「ふんふむー……」
眉をハの字にして、カトレアは考える。
「――エカテリナがいなかったから、やりやすかったでしょ?」
「恋人の語らいのことか?」
一切の心音の乱れなく、ソラは答えた。
聞いてふむ、とカトレアは満足そうな笑みを浮かべた。
「まだちゃぶ台返すには早い、か」
「君の言うところのフラグ回収が足りていない、というところかな?」
(フラグ……回収……?)
「わざわざ現実世界ならではの言い回しを使うのは、そっちの彼に真意を知らせぬよう私に伝えたと解釈しても?」
「まるで毒を混ぜるような言い回しだな。あいにくと彼は私と使い魔の契約を交わしている。腹黒いものがあるなら彼に筒抜けさ」
(フラグとは、何らかの目印やきっかけ、出来事を指す)
「そうやって信頼関係を築いていると‘思わせている’……なるほど、なるほど」
カトレアは深く頷くことを繰り返した。
「確認にきたということは確信には至らずか。安心したよ。まだ‘先は’決まっていないかな?」
「ふふ! そうね、そうかも! 本営での会合が楽しみだわ」
あとでね、と別れを告げた。カトレア背を見送ると、ソラはふう、と息を吐いた。
「やれやれ、久しぶりに頭を使った」
「妙な揺さぶりだったように思う」
フィドルは正直な感想を述べた。
「こっちのボロというか、ほつれを引っ張り出すための言質を取りに来たか。やられたな……」
「え?」
「ここで交わした話をよく覚えておいてくれ。そのうえで――どんなことがあっても、私の方を信じて欲しい」
いつもの平静さを保っているようだが、どこか、目に、縋るようなものが見えた。
めったに見せない表情ゆえ、本人も気づかないだろう。
めったに見せないがゆえ、ほんの僅かな違和感だった。
僅かな違和感がわかる程度には一緒の時間を過ごした。過ごしてきた。
「ああ、わかった」
いつものフィドルの、実直な返事だった。
ソラの表情はいつになく安堵の表情だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます