第23話 デウス・リベリオン3

 セカンド・オレンジ・サンセットから、サード・イエローに至る回廊地帯。

 たった今まで、魔族との激戦が繰り広げられていた。

 焼け焦げた戦場を、幾人かの影が徘徊する。

 徒労、という言葉がしっくりと来ることだろう。永遠に終わらない戦禍。


 魔族側の多くは倒せば澱んだ塵に帰すが、巨人族や大型魔獣、竜族やその亜種は腐敗し、悪臭を放つ。そこから蛆が湧き、そうして孵化した虫はより禍々しい、牙を持つ蟲として、人々の皮を食い破る。また、病原菌を媒介する。


 人間側の死体は農具で大穴に放り込まれ、燃える水にて火葬される。申し訳程度の祈りの言葉が捧げられた。はたして魔族に奪われた命の行き先は、彼らが獄卒を務める地獄へと連れていかれることだろう、と囁かれ恐れられている。


 魔族の巨体を燃やして回るのは、黒衣の魔術師であった。その風貌はやつれた姿、骸骨そのものである。背中のデウス・リベリオンのギルド旗の刺繍が無ければ敵側と見紛うてもおかしくない。


「ご苦労さん、アレフ。おー、よく燃えてんなあ」


 気安く語り掛けるこちらは、モノトーンのプラスチックスタイルを纏う青年。

 顔に滲む経験の浅さから少年と評してもいい。

 無造作な短髪を前髪だけ立たせている。

 

 先述が‘超越者アンリミテッド’の二つ名を持つデウス・リベリオン副リーダーのアレフ、その人で、こちらは同メンバー、‘永劫回帰エターナルリピート’ミチホシ・マツダ。

 彼ら転生者が同行するからこそ、人々は死体処理に勤しめる。


「ミチホシ。月見里やまなし 観月の様子は?」

「ミツキ・ヤマナシね。ここじゃ名前が先だぜ」

「どうもファーストネームで呼ぶのは苦手なのだよ」

「従属させた魔神‘フェニックス’で派手に燃やして回ってるさ。どうも俺が見てたらお守りされているみたいで、嫌みたいよ?」

「子どもだろう」

「二、三、探りを入れてみたが見た目と同じ小学生の高学年か中学生くらいの中身かな。リアタイで見ていた仮面オーダーは何? って聞いた答えから、のなんとなーく、だけど」


 ミチホシは、ぴし、と腰に手と、斜め上に手を上げて変身ヒーローのお馴染みのポーズを取った。


「こどおじと子ども同士、気が合いそうじゃないか」


 虚空の口顎が呵々と笑う。


「何度も言うけど、俺はリアル高校生男子っすよ」

「私と音楽の趣味が合うのも妙だからな」

「70年代ロックはサイキョーだからな! 歳は関係ねえよ! ナー、ナナー♪」


 ミチホシの鼻歌に合わせて、アレフも、肩をゆすった。


 轟、と閃光が上がる。


「おわりましたよー、先輩方~」


 彼らのもとに、少年が駆けてくる。こちらの世界の子爵の服にハーフパンツ、お気に入りのハンチングキャップを被っている。肩には炎を纏う火の鳥を乗せていた。


「おうミッキー、おつかれちゃん」

「魔神を支配下に置くギフトか」

「女の子限定ですけどね。フェニックス、ご挨拶して」


 火の鳥は肩から離れると、赤毛をおさげにした、白いドレスの清楚な令嬢に姿を変えた。


「詠炎候、フェネクスと申します。うたと再生の権能を与えられています」


 そういうと、丁寧な所作でお辞儀した。


「へーえ、従順なもんだな。デジポケモンスターみたいなものか。よろしく、フェネたん♪」

「フェニックス、でしょ? あと、それじゃ先輩方に危険が無いか、わかんないじゃん。服脱いで、四つん這いでやり直し。教えたとおりにやって」

「……はい」


 背のファスナーを下ろすと、フェネクスは言われたとおりに地面に犬の格好になった。


「おいおい……」


 ミチホシは眉をひそめた。


「フェニックス……み、ミツキ様に散々なぶられ、魔族を裏切った、ザコ悪魔、です……今は、ミツキ様の、ど、奴隷です」


 羞恥からか、涙を目に溜める。


「雌奴隷」

「……ミツキ様の、メス奴隷……です……」

「うん、よくできました」


 ミツキはフェネクスの首を掴むと、ほっぺたにチュウをした。


「あっ、はっ……あ、ああ」


 どさ、と横に倒れ、顔を紅潮させる。見て取れて、発情していた。


「あーあ。こうなっちゃうと、調教してあげないと戻らないんですけど、先輩方、します?」

「いや、やめとくよ……」


 引きつった顔でミチホシは首を横に振った。


「そうですか。じゃ、宿まで我慢だ、メス顔を皆に見られながら歩こうね」

「は……い……」


 息も絶え絶えで立ち上がると、服を纏う。


「辛かったら一人でしてもいいけど、パンツに手を入れたりはしないでね、メス臭くなるから」

「わかり、ました……」


 フェネクスは幽鬼のように、ミツキの後について歩いて行った。 


「トロトロ歩いてたら、現場のオジサンたちにおすそ分けしちゃうよ?」

「それは、許して」


 涙ながらに、ミツキの服を掴んだ。

 遠くになったのを確認して、ミチホシはごまかすように鼻に手を当てた。


「最近のガキは、ませてんなー、まっじ、若いもんの考えてることはわかんねえー」

「女性限定とはいえ、魔神を隷属させられるのは大きなアドバンテージだ」

「……あんたは不死者だもんなー、冷静でうらやましい。俺、ちょーっとビミョーな気分よ」


 ミチホシはばつ悪そうに赤面しつつ、ズボンの腹回りを伸ばした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る