第16話 ファースト・レッドエリア ー夜ー
村を抜けると、石造りの街道が続いていた。
長く続く荒れた街道、そのはるか先に、白亜の城が見える。
空には有翼の魔獣が飛び、時折互いを攻撃し合っていた。
墜落すると、落ちたあたりから歓喜の咆哮と、死を告げる断末魔が空を裂く。
「魔界、か……」
「なに、魔女も魔界の住人だとも。あまり気負うなよ。とにかく、向かってくるものは殺せ。友好的なものなどいない。最初の5匹あたり殺せば、奴らは引っ込む」
「袋叩きにされたら?」
首をかしげると、ソラはフィドルの胸板を叩いた。
「言っただろ、皆殺しだ。心配しなくても王都よりは治安がいい」
「そうか……」
フィドルは、覚悟を決めて柄に手をやった。
町に入るなり、小鬼5匹が屋根から飛び降りて来て強襲された。
大剣で一閃、2体の胴を着地の前に真っ二つにして、残りをなます切りにした。
信じられないほど、身体が動く。
背後からの大鬼の気配。振り返るついでに両断した。
転がった肉片に、餓鬼や妖犬が、一斉に群がる。
「私に返り血が飛んだぞ。私の勇者殿、まだまだだな。‘朝露の聖霊よ、この身の汚れを清め払え『
「せいぜい精進するよ……」
ベルとの闘いを体が覚えているかのように、剣技が冴えていた。
自分ではよく出来ていると思うが、きっとまだ足りない……
それにしても。
あまりに悍ましいバザールだった。
手足を削がれた首のない人間が食肉鉤に吊られ、鼠や害虫のから揚げが袋詰めで売られている。それを魔族の主婦? が値引き交渉し、店主がお手上げ、のポーズをとる。生首が並んでいて、額を割られそこに果物が詰められている。目玉は特別なのか、瓶にいれられぷかぷかと浮遊する。
意外と服飾の店は人の物と変わらず、着飾った女悪魔が執事のなりをした悪魔に媚びを売られているようだった。その女悪魔の足元には、鎖で繋がれ、目を潰され唸る人間がいた。
「気づくことはあるか? ああ、心配するな。連中の言葉がお前にわからないようにお前の言葉は連中にはわからん」
「気づくも何も……」
直視すらままならない。地獄というのはこういうところを言うのだろう。
ここでは人間は食料であり、商品素材であり、飼料であり、愛玩動物なのだ。
「女がいないだろう? 男よりも値打が高く見られているのだろうな。市場に並ぶことはないわけだ」
それだけで、より悍ましく痛ましい結末を迎えていることは容易に想像がついた。
「これから連中とコミュニケーションをとるわけだが、常々、この光景を覚えておいて欲しい。いいか、わかり合えるなどと思うな。言葉は通じるがまったく異なる生き物だ」
「それはわかる、つもりだ」
「加えて。
「ああ。肝に銘じるよ」
角を曲がると、そこには扉が宙に浮いていた。
「……は、あ?」
扉にはプレートが揺れていた。
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