第二章 魔の領域への導き

第12話 デウス・リベリオン 2

「よく集まってくれた」


 そこは講堂。デウス・リベリオン 最高幹部会。


「改めて聞こう。デウス・リベリオンの目的はなんだ?」


 リーダーのキリュウは、一同に再び、都度、意見を求めた。


「ハーイ」


 元気にフレイヤが手を上げた。


「知恵を持った魔族……それを統率する『魔神』、人類は魔族の王である『魔王』の脅威にさらされているわ。『デウス・リベリオン』は魔王を倒しこの世界に平和をもたらすのだ!」


 最期は演技臭く、メンバー全員に目配せする。


「うん、そのとおりだな、フレイヤ」

「……」

「なによー文句あんの、ミチホシ。暗いよ?」


 会話を振られた’永劫回帰’ミチホシ・マツダは険しい顔で頷く。


「いや。シックス・インディゴの。あの村のことを考えてた」

「うん……あれは、つらかったね」


 ‘異世界レストラン’アレイスタは、ミチホシに同情するような目線をやる。


「あのような辺境に魔神が現れるのは想定外のことだ」


 ’超越者’アレフが続けた。


「フフフ」


 そこに、‘暗躍令嬢’ことカトレアが含み笑いを重ねた。


「何がおかしい」


 キリュウが問う。


「いえ。何とも白々しいもの、と思いまして」


 その返事にキリュウは無表情で答えた。それからミチホシに視線をやる。


「あれからベルは?」

「夜遊びなどするようなヤツじゃあねえんだけどな。最後に見かけられたのは、この、クラブだってさ」


 ミチホシは調査資料をキリュウに回した。


「……」


 キリュウは無言で書類に目を通す。


「今日も城塞都市サード・イエローの伯爵令嬢が問い合わせに来ていた。追い返したが」

「エカテリナー、そこはもうちょっと親身になってあげてよお」


 フレイヤがよよ、と嘘泣きをする。


「次来たときは、ボクを呼んでくださいね?」


 一回り小さな少年、‘後宮楽園’ミツキ・ヤマナシが挙手した。


「あなたはダメよ」


 カトレアがくぎを刺した。


「ええー、なんでですかあ」

「‘相手が女の子’だからよ。犬猫ではあるまいし、ご令嬢をみすみす危険には晒せません」

「ひっどおーい! 助けてルル=ドラ-ジ! カトレアがいじめるっ!」

「……」


 同い年くらいの少女、‘原初の水’ルル=ドラ-ジはミツキに頬擦りをされるままにしている。


「カトレア。君のギフト、『攻略ノート』で行方を探ることはできないか?」


 キリュウが問うた。


「まあ、ベルは生きてはいますわ。ご心配なく」


 目を細めてカトレアは答えた。


「そのノートとやら、一度、拝見したいものだな」


 骸骨の顔で表情は読み取れない。しかしアレフの声には猜疑心があった。


「おあいにくさま。わたくし以外の誰かが見てしまうと、未来が変わってしまう可能性がありますので悪しからず。もちろん、ギルド存続にかかわる問題には都度、口出しさせていただきますが」

「では聞かせてもらえまいか。シクス・インディゴの魔族強襲、君には見えていたのかね?」

「いいえ。攻略範疇外ですので。せいぜい危機を前に、お三方に向かってもらったほうが良い、というところまでですわ」


 しれ、と答える。


「カトちゃあん、そう出し惜しみすんなよおー」

「マツダさん、その呼び方はやめてくださる?」

「えー、じゃあカトレア・クローネだから……クロちゃん?」

「余計悪くなっておりましてよ?」

「そりゃわざとだもん。へへへ、カトレアたん、かーわいー♪」

「ほほほ……」


 カトレアは怒りを押し殺す表情でミチホシに非難の目を向けた。


「よさないか、二人とも」


 キリュウが窘めると、素直に二人は従った。


「魔族の脅威には、我々は一枚岩でなくてはならない」

「そうよ、そうよ!」


 フレイヤが同調する。


「それじゃ、ボクはちょっと失礼しますね」


 ミツキが立ち上がった。


「どこへ行くの? 話はまだ」

「催してきちゃって」

「もう! 緊張感足りないよキミたちー! トイレなら済ましておいてよねー!」

「今度も、お手洗いじゃないと思いますよ、フレイヤ」


 意味深に言うとカトレアは扇子で口元を隠した。


「……伯爵令嬢?」


 ミツキが後ろを通り過ぎるときにカトレアは小声で問うた。


「ベルさんが無事なのを伝えて、慰めてあげないとですよー」


 何とも無邪気な笑顔だった。


(あらあら……わたくしは、忠告しましてよ?)


 扇子の影で、悪魔の影が揺れた。

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