第7話 ターゲット 神の御子③
フロアはしん、と静まっていた。
舌打ちを一つすると、ベルはフィドルを突き飛ばし、解放した。
ひい、と半裸の女の子が小さく悲鳴を上げる。
「『
ベルは拳をあげると、そう呟いた。
空気に波紋が広がったように見えた。
すると、フロアの客たち、踊り子たちが案山子のように棒立ちになる。
「『
続けてそういうと、何が起こったのだろうか、客たちに軽い混乱が起きた。
「え、私、なんで!? っやだ、なんで裸なの!?」
狼狽える女の子。
「さっきまでのこと……記憶を失わせた……!? なんて魔法だ!」
「支配人さーん、友人が来たから、今日はここまでにしますね♪」
陽気な笑顔で、ベルは悲鳴を聞いて駆け付けたであろう身なりの良い男にそう告げた。
「これは……こ、こら! お前達、なにをしている! 服を!」
「アハハ、怒らないで上げてください、僕を励ましてくれようとしたんです、どうか、寛容なご対応をお願いしますねっ」
「も、申し訳ありません、転生者様!」
支配人に、用心棒。一斉に、店の者が頭を下げた。
「わ、私達、本当に、どうかしていました、許してください!」
目に涙を浮かべて、女の子たちも謝る。
「いいんです、いいんですって! そんなに謝らないで!」
恐縮するように、まあまあ、と、大げさに手ぶりをするベル。
「なんだなんだ?」
「踊り子が転生者様に裸で迫ったらしい」
「なんだそりゃ不埒な!」
「恥知らず! 破廉恥!」
「それにしても、さっすが転生者様だな! なんてお優しい」
自然と拍手が起きる。
「アハハ、どの踊り子さんも眩しくて、おおいに英気を養えました。皆様お騒がせしました、どうか変わらず、お楽しみくださいね!」
舞台役者が演舞を終えたような気取った所作で、ベルはお辞儀した。
「ああ……まことにまことに、ありがとうございます。そら、お前達、席に戻って」
「だってー、ベル様がステキすぎるからー」
「しかたないよね?」
そして、いそいそと、何事もなかったように衣装を戻した。
「なんてヤツだ。きっと、いままでもこうやって、悪行を重ねてきたんだな」
睨みつけるフィドルに気付くと、ベルはにやりと笑った。
「アッハ。……バカ丸出しだな」
嫌悪すべき、獣性に満ちた暗い顔をベルは見せた。
「それじゃ、いこうか。村人くん。お茶だっけ?」
友人にするように、ベルはフィドルの肩を抱いた。
その指先は肉に食い込みジワリと血を滲ませた。
すっかり通りに人気は無くなっている。街灯が寂しく野良犬を照らしていた。
「おい、どこまで歩かせる気だ!」
「も、もう少しだ! 黙ってついてこい!」
気丈にふるまうも、フィドルの声の端々は震えていた。
やがて、魔女の待つ宿に到着した。
「ここにお前の雇い主がいるのか?」
「え?」
「はっ! 『
丸くくり抜かれたように宿がえぐれ、そのまま粉塵と共に崩れ落ちた。
「なんてことを!」
「いちいち騒ぐなクソ雑魚。歩きながら『人除け』使っておいたから、モブはいねえよ」
腹にパンチが見舞われ、体勢が崩れたところを脳天に踵を落とされた。
地べたに倒れたところに、顔を踏みつけられた。
「さあて、いじめの時間だぜ。何もかも、話せ。誰に入れ知恵された? 転生者の一人でもついているのか? それとも魔族が絡んでいるのか?」
「ぐ、ぐああああああ……!」
踏みつける足に圧がかかってくる。
「汚ねえ悲鳴だなー……おら、おら、どうだ、痛いか?」
犬の糞でもこそぎ取るように靴をねじる。
その時、風に乗って女の、歌? 細い声が聞こえてきた。
『消えてゆく 平らな空
揺らぎ狭間の 一世の夢
銀戸の扇の 漏れ光』
「……なんだ? 呪文か……?」
フィドルの頭を蹴飛ばすと、月明かりに照らされたベルの顔は喜壮を見せていた。
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