第一章 神の御子

第3話 デウス・リベリオン

「よく集まってくれた」


デウス・リベリオン 最高幹部会。

円卓を囲み、リーダーの黒の騎士ことキリュウは口火を切った。


「改めて聞こう、デウス・リベリオンの目的はなんだ?」

「魔神を、倒すこと」

 

 曇った表情でベルは答えた。


「その通りだな。――魔神フェネクスの撃退、ご苦労だった。シクス・インディゴの村の者たちは、残念だったが」

「そのことでの糾弾ですか? この場は」

「なによー文句あんのベル」


 ‘選定の女神’フレイヤは頬を膨らませ、不満を口にした。


「要は、魔神さえ殺したんだから。どうでもいいでしょ、いちいちNPCを気にしていては、こちらが危ない」


 横柄に足を組み、皆に同意を求めて見回した。


「ずいぶん増長したものね」


 扇子で口元を隠し、‘暗躍令嬢’カトレア・クローネは眉を顰めた。


「は?」

「一番の新入りが、少しばかりチヤホヤされたからと、調子に乗っておりませんこと? 転生前によほどおモテにならなかったんですわね」

「なんだと」

「どうせ転生でイケメン化した手合いでしょう。元の顔を拝んでみたいものですわ!」

「だまれよ、非戦闘タイプの恩恵ギフトだからって、高みの見物を決め込んでるくせに」


 ベルはその手をパン、と合わせた。横に、刀を抜く所作。

 黒い炎を刀身に秘めた魔法剣が、威迫するように唸りを上げ、顕現する。


「言っとくけど、俺は強いですよ」

「うわー、怖いなあ!」


 子どもの姿、‘後宮楽園ハムパラ’ミツキ・ヤマナシは隣のルル=ドラ-ジ・ウェイク――同じく、かわいらしい子どもの姿――に、縋りついた。


「抜く気か」

「咎人の魔導剣……!」

「おいおい正気かよその剣は、神殺しの剣! シャレになんねーぞ!」


 会は騒然となった。当のカトレアは涼しい顔で一笑した。

 扇子をたたみつつ、ベルを蔑んだ目で見据える。

「良い度胸だな新参者が」


 遮ったのは‘一人軍隊’エカテリナ・イオナカ。

 いつの間にかその手には長銃が握られ、正確にベルの額に照準を合わせていた。


「あまりイキがるな。殺すぞ」


 血の通わない、機械の声だった。

 長い沈黙の後、ベルは、へらっと笑った。


「ふん……アッハッハ、じょーだんですよっ、じょ-だん♪」

 

手を合わせると、転生者たちにすら畏れられるその剣は手の中に消えた。


「……」


 無言の圧に、耐えられず、ベルは大きな身振りを交える。


「ヤダなーみんな、まじになっちゃって」


 ふむ、と議長のキリュウは嘆息した。


「……ともかく。この世界の住人は俺たちが守るべきもの。力なきものに傲慢不遜な態度は許さない。以後気を付けてくれ。わかったな、ベル」

「はーい、はい。じゃ、俺はこれで」


 ベルが立ち上がった拍子に、椅子が乱暴な音を立てて転がった。


「どこへ行くの? 話はまだ済んでない!」


 フレイヤが席に戻るよう促した。


「フィアンセの伯爵令嬢が来ているんです。異世界人とのコミュニケーションが、大切なんでしょ? 心配しなくても問題は起こしません」

「地位のある方だ、軽々しく手を出すなよ」

 

 キリュウが釘を刺すように、鋭く言った。


「やだやだ。この時代感じゃ、元の世界の倫理なんざ通じませんよ? 骸骨のアレフやスライムのルルはともかく、下の世話どうしてるんですか? 先輩方は」

「トイレぐらい、一人でできるわよ!」

「フレイヤ、トイレの話とはちょっと違うわ……」


 はてさて、とカトレアは表情を見せないように、扇子で顔を隠した。

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