第6話 集い

美晴さんが作ってくれた夕食を、私たちも一緒に食べることになった。

地元で捕れたというお魚のお刺身は見たことない色だったけれど、とても新鮮で美味しかったし、天ぷらもとてもおいしかった。


私たちは食事をしながら、世界中を旅して回っているという達兄の話を聞いて過ごしたり、民宿のおじいさんの弾く三線の音色に癒やされたりしながら過ごした。


民宿の主、寡黙なおじいさんはみんなから「しげおじい」と呼ばれていた。

真っ白な顎髭を伸ばしたその姿はまるで仙人のようだった。重おじいは、みんなの話をただ黙って聞いていた。時々、お酒を口にしては、思い出したように三線を弾いたりしながら。


「美晴さんは、どのくらいここにいるんですか?」

「今日でちょうど1週間かな。毎年、ここに泊まりに来ていて、これが3年目。今回は仕事も辞めたし、1ヶ月くらいいようかなと思ってるの」

「そうなんですね」

「凪ちゃんは?」

「私は今、学校が夏休みなんです。2週間の予定でいます」

「いいなあ、夏休み」


みんなでわいわい過ごす時間はとても楽しく、あっという間に過ぎていった。


「あれ?新しい人…?」


賑やかな空間に、見慣れない姿がまた一人。


「優大も飲もうよ!」

「うん」


優大と呼ばれたグレーのスウェット姿でメガネをかけたその人は、美晴さんの隣りに座った。ボサボサの髪に伸びた無精髭。お世辞にも身綺麗とは言い難い容姿のその人は、この島に何をしに来たのだろうか。


浅田優大あさだゆうだい、24歳、新潟です」

「よろしくお願いします」

「優大は元引きこもりで、この島でも引きこもってばっかりなんだよな!」


達兄がおもしろがって言う。優大さんは困ったような顔で笑っていた。


これが、今、この民宿に泊まっているすべての人らしい。みんな、それぞれ別の場所から一人旅でやってきたけど、独りじゃない。そんな気がした。


「重おじい、いるー?」


民宿の戸がガラガラと開き、地元の人たちが数人やってきた。泡盛の瓶を手にしたその人たちはこの島で漁師をしているという。


「あれ?若い子がいるね。何歳?」

「15歳です」

「じゃあ、海里かいりと一緒だね」

「カイリ?」

「うちの息子さ。中学3年なのよ。ほら、海里。挨拶しなさい」


海里と呼ばれた男の子は、部屋の隅の方で体育座りをしていた。


「…」

「ごめんね。最近、反抗期でよ」


海里くんの父・与那嶺栄勝よなみねえいしょうさんは豪快な人だった。お酒の飲み方も豪快なら、話す内容も豪快。部屋の隅で黙ったままの海里くんとは対象的に見えた。


海里くんは結局、一言も話さないまま、静かに帰っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る