第5話 民宿西浜

しばらく話しながら歩いた私たちは、民宿西浜に到着した。

民宿西浜は、インターネットのサイトで見るよりもボロかった。


ここに泊まるのか…。小夜さんも、同じことを考えているのか無言だった。

私たちが黙って立っていると、入り口から腰の曲がったおじいさんがゆっくりと出てきた。


「宿泊の人たち?」

「はい、そうです」

「ここに、名前と連絡先、書いて」


そう言って、ノートとペンを渡してくれた。


私は個室、小夜さんは大部屋に宿泊することになっていた。

荷物を置くために分かれた私たちは、あとでニシ浜に行ってみようと約束していた。


お互いに少し休憩した後、私たちは一緒に歩いてニシ浜へと向かった。


「うわあ…綺麗」


ニシ浜に着くと、目の前にどこまでも続く青い海が広がっていた。

隣にいる小夜さんも感激しているのが見て取れる。


私たちはお互いに携帯電話で写真をたくさん撮り合った。


しばらく海を眺めていたが、少し海に入ってみようということになり、

履いていたスニーカーと靴下を脱いで、裸足で砂浜を歩いてみることにした。


砂浜を歩くと、サクサクという軽快な音がした。

砂浜に打ち寄せる波に手を伸ばすと、ほんのり冷たかった。


ここが波照間島…感慨にふける私たち。



「着いたぞ!波照間ー!!」


その時、後ろからとんでもない大声がして私たちは思わず動きが止まった。

慌てて振り返ると、大きなバックパックを背負った背の高い男が仁王立ちしていた。誰…?っていうか、いきなり、何事?


「なあ、写真、撮ってもらってもいい?」


男は、突然、私に向かって話しかけてきた。手にはインスタントカメラを持っている。私はそれを受け取り、男と海の写真を撮った。両手を天高く突き上げるポーズで、男は写真に収まった。


「ありがとう!」


男は嬉しそうにカメラを受け取り、歩いていってしまった。


「大丈夫?びっくりしたね…」

「はい…」


私たちは、しばらく海で過ごした後、民宿へと戻った。


民宿では別の宿泊者が夕飯の支度の真っ只中だった。基本はそれぞれ自分たちで夕食を準備するという決まりだった。その代わり、台所と備え付けの道具、米に関してはどれも自由に使っていいことになっていた。


「おかえりなさい」


宿泊者の女性が私たちに向かって微笑む。


「はじめまして。あたしは奥村美晴おくむらみはるです。28歳、東京からです」

「白野小夜、19歳です。私は埼玉から」

「三井凪、15歳です。北海道から来ました」


それぞれ、挨拶をする。


「2人とも若いね!凪ちゃん…って呼んでいいかな?北海道から来たんだね」

「はい!」


美晴さんが料理を作るその奥のテーブルで、どんぶりいっぱいに盛られた白米を勢いよくかき込む大男の姿が見える。あの人は、さっきの…。


「あの人は…?」

「ああ、達兄?あの人はね、ここの常連」


常連という言葉を聞いて、少しホッとした。良かった。ただの変な人か…。


「達兄!この子たち、今日ここに来た新しい子たち。ちゃんと挨拶してよ?」

藤川達人ふじかわたつひと、32歳。神奈川」


私たちもさっきと同じように挨拶を繰り返す。私が挨拶を終える頃には、達兄と呼ばれるその人は再びテーブルの上の白米に夢中だった。

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