第1話 決意

三井凪、中学3年生。家族関係は良好。学校生活にも取り立てて不満はない。


でも、何かが足りない。



「一人旅?」



夏休みに一人旅をしようと思う、と親友の市宮佑香いちみやゆうかに打ち明けたのは、5月の終わりのことだった。


「凪、勇気あるね。怖くないの?」

「怖いとかは、あんまり考えたことないけど…」

「ふうん。でもさ、若い女の子の一人旅って、絶対危ないでしょ!親はなんて言ってるの?」

「まだ、話してない…」

「えー、それ絶対、反対されるって」

「そうかな…」



お母さんには、なんとなく言いづらかった。だけど、これだけはどうしても実現したいと思った。一人旅をしたいなんて、今まで考えたこともなかった私が初めて決意したことだから。


私は、おばあちゃんに相談してみようかな、と思った。

おばあちゃんは自分の実家のある旭川に一人で住んでいる。おじいちゃんとは、ずっと昔に離婚したと聞いていた。だから、私はおじいちゃんに会ったことがなかった。


おばあちゃんも、お母さんも、離婚している。

だから、私も結婚したら離婚するのかな、と小さい頃から漠然と思っている。


お母さんは私が小学2年生に上がる時にお父さんと離婚をした。

それまで住んでいた街から車で4時間ほど離れた田舎町に引っ越したのは、小学2年生の夏休みのことだった。


遊ぶところは中心街にあるイオンくらいで、そこに行けば大体、同級生の誰かに会った。その分、自然に囲まれていて、良い環境だとお母さんは満足そうにしていた。


引っ越してからしばらくは、学校にもあまり馴染めなかった。


休み時間になる度にわいわいとグラウンドで楽しそうに遊ぶ同級生たち。

私は一人、静かに教室で絵を描いていた。


「ねえ、何、描いてるの?」


その時、話しかけてくれたのが佑香だった。

描いていたのは当時、大好きだったアニメのキャラクターだった。


「このアニメ、私も好き!」


それから、私たちはいつの間にか仲良くなった。

一人ぼっちだった世界に、鮮やかな色が付き始めた。


それからは、学校に行くことがとても楽しみになった。

学校ではいつも佑香と一緒に過ごした。


一クラスずつしかない小さな学校だったので、学年問わず、みんな仲が良かった。

内気な私がみんなの輪に入れるように、佑香が色々な遊びに連れ出してくれたおかげで、2学期の終わりにはすっかり学校にも慣れ、周りとも打ち解けていた。



「佑香には、感謝してもしきれないよ」

「何それ?」


佑香はアハハッと笑って、それから少し真剣な表情で言った。


「行けるといいね。えーっと…」

「波照間島」



波照間島。

日本の最南端に位置するその島が、私がずっと憧れ続けてきた場所だった。

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