第11話
あの日、そう日本にダンジョンが出現した「血塗られた殺戮の日曜日」
俺はまだ15歳で学生だった。
俺には両親と妹がいた……その日まで幸せな家族だった。
全ての悪夢は……俺の周りで、いや、……日本中……世界中の人々は戦慄し恐怖し、そして絶望した。
平和な日本の一般家庭に銃器なんってない。
ましてや武器となる物など、ほとんど無い。
そんな状況で、人々は蹂躙され殺されて行き、俺の家族もまた例外ではなかった。
あの時に……妹と最後に交わした言葉を俺は無意識に思い出していた。
「お兄ちゃん……お父さんとお母さんが……」
解ったから、もう喋るな助けを呼んでいるから……
(お掛けになった電話番号は、込み合っている為に繋がり難くなっております。お掛け直し下さい)
何で、110番が込み合っているんだよ。(ふざけるな!)
この時の俺は何も知らなかった。
日本中で、いや、世界中で虐殺が起こっていた事を知りもしなかった。
「お兄ちゃん、お父さんとお母さんは……私を庇ってくれたの……」
そこまで言うと妹の
学校の部活で、俺はその日は他校との親善試合をしに出かけていたが、水月や両親は実家で寛いでいるはずであった。
それなのに、こんな……こんな悪夢みたいな事が起こるとか、どんなクソゲーだよ。ふざけんな、ばかやろう!
父さん、母さんごめん、水月を病院に連れて行くよ。
だから、このままにするけど……親不孝でごめん……
俺は両親にシーツを掛けると、水月を担ぎ上げ外に駆け出して、近くにある救急病院に向っていたが、病院に着くまでに人と魔物でごった返しており、道には車やバイク、そして、訳も分からない生き物の死骸に人の死体も地面に転がっている。
そんな状況なのに、人々は怪我をした家族や友人に肩を貸し、病院に殺到していたが、病院の方角からは叫び声や悲鳴が、どんどん俺の居る方に伝播して来ていた。
直ぐに何が起こったのかを俺は知る事になった。
俺の目の前には、棍棒を持った豚顔の大男が皮鎧に身を包み、俺の目の前に居た人の頭を叩き割ったからだ。
目の前の人は頭を棍棒で殴打された事で、横に居た人を撒き込み近くにあった外壁に打ち付けられていた。
俺は、外壁に打ち付けられた人を見やると、その人は動く事も叫ぶ事もなく事切れていた。
俺は、脚を動かす事が出来なかった。
ただただ、恐怖で足が竦み頭の中が真っ白になるとは、こう言う事なのかと思った。
次は俺の番だと覚悟した瞬間だったか、俺の背後から走って近づく人の気配を感じたのは。
「少年、伏せろ。聞こえたら伏せろ」
そして、銃声が鳴り響き、豚顔は動かなくなり俺は一命を取り留めていた。
安堵する暇もなく、担いでいた水月を肩越しに見やるも、水月の顔が見えなかった。
手は俺の前で、だらりと垂れ下がり、水月の体が凄く重く感じられた。
俺は何度も何度も、妹の名前を呼んだが、返事は無かった……
妹は……俺の背中で息を引き取っていた。
俺は、何も出来ないで、その場に座り込んでしまっていた。
そして、何もかもが憎かった。
俺から全てを奪っていった。
両親も妹も全てだ。
俺が大人になったら、こいつらは俺が殲滅してやる。
こんな昔の記憶を見ると言う事は、これは夢なのか……
自衛隊に入ったが、戦闘部隊には配属されなかった。
死に急ぐ奴は、他の隊員の邪魔にしかならない。
これが理由で俺は戦闘部隊に配属されなかった。
だが、施設科は工兵だ。
銃も持てるし、色々な事も出来る。
俺は一匹でも多くの化け物共をこの世から葬ってやると、あの日に誓った。
だが、日々過ごして行くに連れて、段々と意識が薄れて行き、処世術だけが一人前になって、化け物を殺す事を忘れてしまっていた気がする。
でも俺は思い出した。
俺が化け物を殺す理由を思い出した。
人は大事な人を亡くすと、まずは声を忘れ、その次は顔を忘れ、酷い時には名前すらも忘れてしまう。
それは何故か、人の心は強くないからだ。
それを覚えていると、心が持たなくなり廃人になるか、自殺するか、どちらにしても、良い結果に繋がらないのは確かである。
俺の心も、辛い記憶を俺は無意識に封印していたのだろう。
だが、俺は化け物共を殺す理由を思い出してしまった。
もう容赦はしない。
殺された家族の為、殺された友人の為、殺された人々の為に俺が化け物共を殺し尽くしてやる。
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