第9話
「撤退、撤退しろ!」
別府隊長の怒号が戦闘行為を続けている最中に響き渡っていた。
「内竈、何をしている早く乗車しないか」
俺は小銃を撃ち続けながらも無線から聴こえる隊長の声が、右から入り左から出て行ってしまっていた。そうしないと敵のボスと取り巻きを足止めする事も出来ない状況に陥ってしまっていたからだ。
「隊長、運転席に付いて下さい。このままでは分断されてしまいます」
「あっ、あぁ……」
おやっさんの呼び掛けに辛うじて反応を示した別府隊長は、助手席から運転席へと場所を変えエンジンを始動させはじめた。
そうしている間にも、ボスの取り巻きが俺の退路を絶とうと分断を試みていたが、生き残っていたパペットが分断をさせまいと奮起し戦っていた。
だが、パペットはボスの遠距離攻撃の前に、呆気なく沈み残された俺は別府隊長に無線で撤退してくれと叫び戦闘行為を継続させていた。
「内竈、早く戻ってこい」
「隊長もう駄目だ。このままでは内竈が作った撤退の機会さえも潰れてしまいます。内竈の気持ちを無駄にしてはいけません」
おやっさんの顔を見やれば、しかめっ面になって感情を押し殺しているのが見て取れた。おやっさんも心を鬼にして発した言葉だと覚ると、俺を見捨てて逃げたいだけではないと思えた。
「援軍を連れて戻ってくる。それまで死ぬな、分かったな」
俺は別府隊長に無線で「了解」とだけ短く返すと、別府隊長が運転する
+-+-+-+
何故にこんな事態に陥ったのか……それはボスの装甲が固くてパペットの攻撃がボスに通じなかった事が起因だったからである。
もしも戦車砲を搭載した車両が居れば……タラレバの話は事ここに至っては意味を成さない。だが、悔しいが考えてしまう。もしも、戦車があれば……っと。
俺がボスの取り巻きからの攻撃を回避していると、その取り巻きの中の一体の攻撃が俺の体の芯に当たってしまった。俺は胃の中の物を吐き出してしまい、口元は汚れ、そして、体からは血が滴り落ちている。
ボス部屋と言っても部屋で戦っている訳ではなかった。
ボスが居る場所に行き着く途中に門があり、門を潜り進むと高所の開けた広場があり、その横は崖になっている場所だった。崖の下は激流で流れが速い川になっていた事も幸いしたのかも知れない。
俺は崖の淵まで追い込まれていた所に、ボスの取り巻きからの波状攻撃を凌いでいた訳だが、そう時間も経たない内に俺はジリジリと敵に戦う場所を制限されてしまう。
そして……
俺は出血のし過ぎで意識を手放してしまい崖から転落してしまっていた。
+-+-+-+
あの高さの崖から落ちたにも係わらず俺は命を取り留めていた。
気が付くと俺を介抱していたのは、ナース姿をしたパペットであった。
取り巻きの攻撃で負傷した胸部の傷も治療されており、包帯が巻かれている状態を見やると俺は、またしても意識を失ってしまっていた。
あの戦闘から何時間、いや何日経過したのかさえ分からずにいたが、ふっ、と戦闘服に仕舞っていたスマホの事を思い出したのだった。そうか……あの戦闘から丸3日も経っているのか……電波は圏外でスマホは使えなかった。
俺はステータスオープン心の中で呟くと、目の前には透明なプレートが表示されていて、その中に書かれていた事柄を俺は読み始めた。
名前:内竈葉月 年齢:25歳 性別:男性
所属:--------------------
クラス:ワンマンアーミー LV7
クラス情報:一人で活動する軍人・兵士、単独行動時に上方補正が発生する。レベルが上がるとクラススキルツリーでスキルが増える。
スキル:パペットアーミー ・ パペット機械化部隊 ・ パペット衛生部隊
気が付けばワンマンアーミーのLVが7に上がっていた。そして、パペット衛生部隊と言う項目が追加されていた。俺の命が永らえたのは衛生部隊を覚えたお陰である事は明白だな。
そして、所属が別府テクニカルから伏字になっていたのが気に掛かった。
もしかして、会社は俺が戦死したと判断してしまい……えっ、俺は生きてますけど……なんでやねん!
社長、隊長、おやっさん、俺は生きてます……生きてますから!
俺の叫びがダンジョン内に虚しく木霊していた。
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