第4話
あれから数日が経ったある日のこと。
ダンジョン省から我が社に送られてきた書類に、今回の事件は魔物が引き起こした事件として片付けられたと、文面に記されていた。そして、我が社は事件に関与してはいない事が証明されたと記されてもいた。
そして、今回のダンジョンアタックで役所に納品した魔石の数やドロップアイテムの目録も書かれている。
そして注目する所は、スキル本の使用済みに目が釘付けになったことだ。
今まででもスキル本がダンジョンで発見されたケースがあり、それを持って帰ってきた者もいれば、ダンジョン内で使用した者もいる。ダンジョンで使用した者は役所でスキルを登録する決まりになっているからだ。
その連絡も一緒に送ってきていたから、俺みたいな平社員でも書類を読むことができたのである。
日時は、2日後の13:00時からと書かれていたので、その日に合わせてスケジュールが組まれていた。2日後の午後までは会社の敷地で訓練をするとスケジュールボードには書かれている。
俺は訓練がまだ続くと思うと、眉間に皺がよってしまい顔が仏頂面になってしまっていた。
「なんだ内竈、その嬉しそうな顔は、そんなに嬉しいなら明日は残業して訓練をしても良いんだがな?」
「隊長と一緒に居られるなら残業も喜んでいたします」
「お、お前、何を言っておるか……おやっさんと2人きりで残業をするんだ」
俺の後ろでお茶を啜っていたおやっさんが、俺を睨む視線を感じた。そして、おやっさんの視線に(ワシを巻き込むな)と言う気配をガンガン送ってきていた。
「あの、別府隊長、ワシは孫を見舞いに行くから残業は勘弁して貰いたいんじゃがの……」
「うむ、そうか、それなら仕方がない……私が残業に付き合う事は出来ないから、残業は無しにする」
そう言うと、隊長は事務所を後にして去ってしまった。
あの戦いの最中に俺の気持ちを伝えた事は無かったとばかりに、隊長は俺と接する事を避けている節があった。
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私は何で部下を避けている。
何でこうなったんだ。
「皐月ちゃん、何で私の部屋に来てブツブツ言ってるのかな?」
そう今居る場所は、会社の社長室になる。部屋のソファーに座り考え事をしていたら、姉の神奈に尋ねられたのだが、今の状況を説明するか迷っていた。
あの事件の報告書は出したが、自決する場面で内竈の告白は記してはいない。だから姉の神奈には、私と内竈の事は知られてはいない。
それを話すかどうか……私は迷っている。
だが、意を決して話すしかないと思い、姉に事情を話しはじめると……
「社長命令です。皐月ちゃんは内竈君と結婚を前提としてお付き合いしなさい」
何を……神奈姉さんは何をいっているんだ……
私が呆然としていると姉は、淡々と会社の事を話しはじめていた。
「父さんが残した会社には、負債はないけど、未来も無いの、一族経営で廻しているから、まだ会社が残っている様なものなの。此処までは分かるわよね?」
私はコクリと頷くと姉の話は続けられた。
「先の暴走掃討戦で、我が社のエースであった夫も亡くなり、この先にエースを務める人を育てるとしても、そうとうな時間が必要なのよ。でも、内竈君は運が味方したのかスキル持ちになったのよ。それを一族に取り込まない手はないの……分かってくれるわよね……」
「もしも、皐月ちゃんが断るなら、妹に頼むしかないの……あの子はやっと成人したばっかりだけど、家族の事を大事にする子だから……」
弥生は、まだ学生だよ姉さん、それなのに結婚させるなんって……
「そうね。弥生ちゃんは大学生だもんね……可哀想だよね皐月ちゃん……」
弥生には、幸せになって貰いたい……姉さん分かったわ。
私の言葉を聞いた姉は、肘を机に立てて両手を組み合わせていた。顔は手で隠れていて表情が読み取りにくかったが、口角の端が少しだけ上がっていたのかも知れない。
私の姉は優しいが、目的の為には手段を選ばない時がある。
そう現状を鑑みると、今の姉には手段を選んでなどいられない状況なのだ。
私は、姉の腹黒い策略に嵌まってしまい、部下の内竈を一族に向い入れる為の尖兵になってしまったのだ。
弥生は末の妹で三女になるが、年が少しだけ離れているから、私と姉は妹を猫可愛がりしてしまい、妹は少しだけ我侭に育ってしまってはいたが、根は素直な良い子だった。
そんな弥生を内竈なんかに嫁に出せる訳がない……妹を犠牲にするならば私が犠牲になる。
私は決心が付くと、素早く部屋を退出し、廊下を歩き出していた。
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