第3話


 俺が選んだのは、パペットアーミーであった。


 俺がスキル名を声に出して呟くと、MRAPの車内で淡い光が迸りだし、その光が収まると俺の前に整列された身長が三〇cm程の人形が十体姿を現していた。


(ピッ、ピッピッ、ピッ)


 俺の頭の中にパペットの声らしい物が響き渡ると、俺にどうするかと問い掛けている様であった。


「現在の状況を説明する。敵に完全包囲されて脱出が不可能になってしまっている。だから貴官たちは敵を殲滅し活路を開いて貰いたい」


(ピッピッ、ピッ)


「おい内竈、この人形は何なんだ?」


 別府隊長に説明を求められたが、俺はその言葉に答えずに後部ハッチまで来るとパペット達に此処から外に出て迎撃を頼むとだけ言い放つと、パペットは頷く、それを見届けた俺は勢いよく後部ハッチを開くと、中に入ろうとした魔物にコンバットナイフで喉に一突き入れた後に、後方に蹴り飛ばしていた。


 魔物がハッチから離れると、パペットの手にしていた機関銃が火を噴出し始めた。パペットが手にしていたのは重機関銃でお馴染みのマ・デュースである。十体のパペットはマ・デュースを装備していて、パペットが掃射しはじめると一体目を貫通した弾が後ろに居た二体目も貫通する程の威力であった。


 バッタバッタと薙ぎ払われはじめる魔物を目にして、俺は夢でも見ているのではないかと思うほどであった。





+-+-+-+




 パペットアーミーが戦闘を開始して、十分もしないでMRAPに集っていた魔物は掃討されてしまっていた。そして、MRAPを守る陣形で布陣したパペットは、その威力を存分に発揮して暴れていた。


「内竈、その説明は本当か、そんな馬鹿な事が起こるなど信じられない」


 俺はパペットが戦っている間に、別府隊長とおやっさんに俺のクラススキルの説明をしていたのだが、隊長もおやっさんも半信半疑で俺の説明を聞いていたが、外の光景を目の辺りにして、やっと信じる気になった模様である。


「おい、内竈、ワシにもスキルを覚える事はできんかの?」


 おやっさんも、クラススキルが欲しいのか俺に詰め寄ってきたが、俺は首を横に振るしかなかった。偶然が重なっただけで、何故あの時に俺が転送されたのかも不明なのだが、その転送も魔物が罠に使っていたのだと話し合いの末に辿り着いたのだが、魔物はその場所で人を誘き寄せて殺していただけかもしれない。


 俺がクラススキルを覚えられたのは偶然の産物に過ぎないのだと説明すると、隊長とおやっさんは残念そうな顔になり、そして、俺に対して凄く羨ましそうな目で見つめていた。


 そんな時にでも頭の中に、さっきの声が響き渡っていた。


(LVが2から3に上がりました。LVが3から4にあがりました)


 ステータス画面を開くと、スキル欄の場所を俺は凝視していた。


 クラス:ワンマンアーミー  LV4


 スキル:パペットアーミー


 効果:指揮できるパペットの数が四十体、小隊を形成しながら陣形や戦術を扱える様なる。


 俺は直ぐに追加でパペットを呼び出すと、呼び出された順番に外に出て行くが、新たに呼び出したパペットが装備していたのは、MINIMI機関銃や20式小銃を手に持っていたが、中には96式40mm自動擲弾銃を持っている者もいた。そして、小銃を手にしたパペットの背には、84mm無反動砲(B)が背負われていたりする。


 もう笑うしかない。

 




+-+-+-+



「くそっ、人間風情が舐めおって、許さんぞ殺してやる」


 外からの絶叫がMRAPで戦況を見守っていた俺達にまで響き渡ってきていた。


「今の声は何なんだ?」


 別府隊長は状況が分からないでいた為に、すぐさま窓の外を覗き込こみ戦慄していた。俺も窓から外を見やると、そこに立っていたのは浜脇さんに化けていた魔物であった。 


 俺は外に出ると近くに居たパペットに指示をだし、雄叫びを上げている魔物を指差して命令を下す。残り僅かになっていた魔物は、既に戦意が無いのかMRAPから遠ざかって退却を始めていたが、指揮官である魔物は退く魔物を殺して捲し立てていたが、恐怖で従った兵士ほど使えないものは無いのを理解していなかった。


「小隊指揮官、あの馬鹿者に渇を入れてやれ」


 俺が命令をすると、パペット達は方陣を壊し、陣形を変えだし二列横隊なると、前進しながら叫んでいる魔物に対して、全火力を集中し始めていた。


 決着が付いたのは、全力射撃を開始して十分後であった。


 敵の魔物は上位種の様で、傷付いても再生を繰り返していたが、やがて再生も出来なくなり叫ぶのも止まったと思っていたら、喉にデカイ穴が開いていた。


 俺は20式小銃を持っているパペットを呼ぶと、背中に担いでいた84mm無反動砲(B)を借りて、魔物に向って無言で発射した。




+-+-+-+




 帰りの車内で話す者は居なかった。だが俺は不意に別府隊長に話しかけ始めていた。


「隊長は、何処の部隊に居たんですか」


「私は西部方面普通科連隊に居た」


「西部方面普通科連隊ですか……えっ、西部方面普通科連隊って第1水陸機動連隊じゃないですか」


「無駄話は此処までだ。立川駐屯地に着くぞ」


 俺達の乗るMRAPが立川駐屯地の横にあるダンジョン省東京都下支部に到着すると、直ぐに入り口の守衛に裏口に案内されてしまう。


「此方に、ご遺体を載せて貰えますか」


 職員が運んできた寝台に、浜脇さんの遺体を丁寧に載せ終わった俺達は、ダンジョン省の警務課の立会いの下に事情聴取が行われ、その事情聴取は三時間もの間続けられたのだった。


 事情聴取を終えた俺達は、車両の側で自販機で買ったコーヒーを飲んでいると、会社から駆けつけた社長と出くわして事情を説明し始めた。


「そんな事があったのね。苦労を掛けたわね内竈君、古市さんもご苦労様です」


 隊長は、まだ事情を聞かれていると社長に説明していると、通路の奥から初老の男性が俺達に近づいて着たのが見えた。


「すいません。別府テクニカルの方達でしょうか?」


 社長が返事をすると、初老の男性は自己紹介をし始め、浜脇さんの父親だと名乗ったのだった。


「どうか娘の最後を聞かせて貰えないでしょうか。言えないのは規則で知っていますが、どうしても娘の最後が知りたいのです。どうかお願いします」


 社長の神奈さんは困った顔をしているだけで、どうして良いのかと思案しているが、俺が第一発見者だから一番状況を理解しているのは俺なのだ。


 社長に俺が言いますと言うが、社長は良い返事をしなかったが、駄目だとも言わなかった。俺は自分が知る全てを話して浜脇さんの父親に聞かせた。


「そうでしたか……娘の敵を取ってくれて……ありがとう……ありがとうございます」


 浜脇さんの父親は、搾り出す様に感謝の言葉を述べると、崩れ落ちる様に地面に突っ伏して泣き崩れていた。


 俺は、これで良かったのか悪かったのか判断は付かないが、あの父親の必死な顔を見ていたら、どうしても話してあげたくなったのだ。浜脇さんには1人娘が居るそうで、その子は母親の死をまだ知らないでいる。


 時間が解決してくれるしか俺には出来ないが、強く生きて欲しいと心の中で祈るばかりであった。 


 クラス:ワンマンアーミー  LV5 

 

 クラス情報:一人で活動する軍人・兵士、単独行動時に上方補正が発生する。レベルが上がるとクラススキルツリーでスキルが増える。

 

(LV5になったので、小隊指揮官は50体のパペットを指揮できる様になりました)

 

 


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