第2話


 別府隊長と俺との距離は、大凡おおよそ四〇〇メートル以上はあると思われたが、俺は直ぐに小銃のアと書かれている位置である安全装置を解除すると、タと書かれている単発撃ちにする。


 スコープを覗くも魔物との距離が離れすぎているから、的が小さすぎて当たるかどうか怪しかったが、このままでは隊長やおやっさんが殺されてしまう。そう思うと体が勝手に動きだし、俺はフォアグリップを確りと握ると、膝立ちニーリングの射撃体勢になり魔物をスコープで捉えると迷わずに引き金を引き絞っていた。


 フィールド・ダンジョン内で一発の銃声が別府隊長の居る場所届くより、発射された弾丸が的に当たる方が早く、人間に扮していた魔物は人間で言う所の心臓を撃ち抜かれて倒れ付してしまう。別府隊長は直ぐに状況を理解すると、おやっさんに指示をだしており、おやっさんは隊長の指示通りに地面に伏してしまう。


 別府隊長が魔物の安否を確認しようとしていたが、人間に扮していた擬態が解けたのか、隊長は直ぐに拳銃を構え魔物に向けていた。


 隊長とおやっさんが何か話しているが俺には聞こえるはずもない。仕方ないので俺は浜脇さんの遺体を持ち上げると二人が居る場所まで歩みを進めていた。




+-+-+-+




 俺が隊長達と合流したのは、それから直ぐの事だった。


「内竈、その人は誰なんだ?」


 隊長は拳銃を仕舞うと、俺が抱えている浜脇さんに掛けてあったポンチョをずらして顔を覗き込むと、驚愕の顔になって俺に訳を話せと目で訴えかけていた。


「そうか……内竈が消えてから一時間くらいしか経っていないが、そんな事が起こっていたのか、私も救助者の傷の手当や消えた内竈の捜索をするかを社長と話し合ってはいたが、それもこれも全て魔物の罠だったと……」


 俺は転移させられた場所で何が起こったのかを詳細に、別府隊長に話して聞かせたが、一部は省いて説明した。それはそうだろう。俺がゴリラを守りたいだと……冗談も休み休み言えってんだよ。


 もしも、この事が別府隊長にばれたら確実に小突かれるな。


「社長からの指示で、浜脇さんの遺体は回収して帰る事になった。地上に出たらダンジョン省の東京都下支部に搬送して欲しいとも言われたので、立川駐屯地に向うぞ」


「「了解」」


 俺たちはMRAP輸送防護車に遺体を載せる前に、浜脇さんの遺体を遺体袋に慎重に入れると、隊長の指示で一分間の黙祷を捧げた。ダンジョン内では危険な行為ではあるが、同じ仲間として俺達が出来る最後の手向けである。


 遺体をMRAPの後方ハッチから搬入すると、俺達は直ぐに地上に向けて帰還を始めだしていた。 




+-+-+-+




「隊長、前方に敵です」


 俺の言葉で後方に座っていた隊長が助手席に来ると、前方で佇む怪しげな人物に視線を向けると、直ぐに双眼鏡で覗き込み敵の確認を始めていた。


「ばかな……ありえん……」


「隊長、指示をお願いします」


 俺はそれだけ言うと、別府隊長の方を見やるが隊長は固まったままで、指示を出す気配もない。仕方ないので俺はおやっさんに指示を仰いだ。


「内竈、全速後退だ」


 銃座でMINIMI機関銃を構えていたおやっさんは、直ぐに後退の指示を出すと機関銃を撃ち始めていた。


「囲まれている。早く後退だ」


 Uターンをして後方に下がろうとしたが、後方も敵の大部隊に囲まれて逃げ道が無い状況に追い込まれてしまう。


「方円陣形で戦いながら、敵の囲みが薄くなった場所から逃げる」


「方円陣形って一台しか居ないのに方円?」


 俺が疑問を口にしたら、おやっさんはグルグル回って敵を踏み潰せと指示してきた。俺はMRAPのハンドルを右に切ると、円を描きながら回りだしている。そして、おやじさんは機関銃で敵を薙ぎ払っていたが、一向に敵の数が減らせずに居る所に敵の増援が押し寄せてきている。


 俺はもう駄目かと諦めかけていたが、再起動した別府隊長は後部上方ハッチを開けると、機関銃を撃ち始めだしているが時既に遅すぎていた。先程から敵の死体を踏み潰していたが、遂に恐れていた事が起きてしまう。


「隊長、スタックしました」


 おやっさんの声で状況を理解すると別府隊長は、俺達に指示を出し続けていた。


「諦めるな、敵を近づけさせなければ問題ない」


 そんな時だった。隊長が敵の攻撃で被弾してMRAPの上部ハッチから内部に落ちてきたのは、俺は直ぐに近づき傷を確認すると止血滞で二の腕の付け根をキツク締め上げた。


「内竈、撃ち捲くれ」


「了解」


    


 

+-+-+-+




 それから時間がどのくらい経過したのか、持ってきていた機関銃の弾も小銃の弾も拳銃の弾も全て使い果たしていた。全てと言ったがPMCにはジンクスがあり、ダンジョン認識票に一発だけ九mm弾が残っている。つまりこの最後の弾は自決用の弾であり、苦痛や助からない状況過での最後の救済措置なのだ。


 俺達は拳銃に最後の弾を積めると、最後に別府隊長を見るが隊長の顔はすまないとばかりに顔を歪めて綺麗な顔立ちを台無しにしていた。美人が台無しであるが、この状況過では仕方が無い。


 そんな美人の顔が台無しになっている時に、俺の頭の中で先程の出来事が蘇ってきていた。「汝、力が欲しいか?汝が力を望めば、力が汝の為に顕現するであろう」その言葉を思い出すと、俺は別府隊長とおやっさんの拳銃を奪い取り、上部ハッチから敵に向けて撃ち放ってしまう。


「内竈、何をするか」


 別府隊長は憤慨して俺に詰め寄るが、俺は心の中で秘めた思いを吐露していた。


「隊長、一目惚れなんです。好きなんです。だから死なないで下さい」


 別府隊長もおやっさんも、俺が何を言っているのか理解出来ないで居る間に、俺は心の中で思い続けていた。俺に力をくれ。俺一人で戦える力を寄こせ。


(スキルを獲得しました。詳しくはステータスオープンでご確認ください)


 俺だけに聞こえる声が頭の中に響き、それだけ言うと声は消えてしまう。


「ステータスオープン」


 そこに書かれていたのは……


 名前:内竈葉月 年齢:二五歳 性別:男性


 所属:別府テクニカル


 クラス:ワンマンアーミー  LV1 

 

 クラス情報:一人で活動する軍人・兵士、単独行動時に上方補正が発生する。レベルが上がるとクラススキルツリーでスキルが増える。

 

(LV1になったので、スキルの中から以上の物が選べるようになりました)


 パペットアーミー ・ 一人だけの軍隊 ・ 一騎当千  


 パペットアーミーってのはどんな効果があるんだ。


(小さな人形の軍隊が魔物と戦います。LV1では歩兵が十体,貴方の指揮下に入り戦います)


 一人だけの軍隊とは?


(重火器に特化したスキルをで、どんな重火器でも操作が可能です)


 最後の一騎当千とは?


(近接戦闘に特化したスキルです。刃物や鈍器で戦えます)


 悩む……非常に悩むが、一刻を争う事態なので、数が欲しい。


 俺は迷った末に選んだのは、これであった。





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