第1話


「内竈、アクセル全開で突っ込め」


 ゴリラの怒号が俺目掛けて飛んできている。そして、目の前には青緑色の皮膚で人型の魔物であるゴブリンの群れが、俺達の乗る陸上自衛隊の払い下げされた輸送防護車・MRAPブッシュマスター装甲車の前を妨げる様に広がっていたからだ。


「おやっさんは銃座で援護射撃」


 別府隊長の指示が次から次へと飛び、俺と古市のおやっさんへと下されていた。そして、別府隊長は後部ハッチに移動すると5.56mm機関銃MINIMIを片手で持ち上げると、ハッチを開け放ち生き残りに向けて機関銃を掃射し始めだしていた。


 おやっさんとゴリラの機銃掃射で早々に決着が付き、倒したゴブリンのドロップ品を拾いに俺とゴリラが降りて行くと、ゴブリンからドロップしていたのはゴブリンの牙にゴブリンの爪にゴブリンの魔石だった。


 ドロップ品は政府に引き渡すと討伐証明になり、民間軍事会社PMCの実績になり政府からの支援金が振り込まれると言う寸法なのだ。だから、ダンジョンで魔物を討伐数が少ないPMCは政府からの支援金が減らされてしまう事なる。PMCとしては、それだけは何としても避けたいが為に別府社長神奈やゴリラは必死だったのだ。


 政府の査定は半年に一回のペースで入り、その時に魔物を討伐数が少ないPMCは最悪、PMCの特権を剥奪されてしまう恐れさえある。PMCの特権と言うのは、自衛隊のお古の装備の購入に始まり、ダンジョンの入場の優遇や、重火器の使用許可や、道路でスピード違反をしても緊急時なら見逃してもらえる等がある、それと高額の支援金も特権の一部になる。


 そして、政府はPMCの設立には元自衛官の将官級の人間でないと設立できない様にしてしまい、防衛省の天下り先になりつつある。だが、我が社は前社長が将官で合った為に設立がスムーズに行えた事もあるみたいだ。


 もしも、会社が倒産してしまえば、一からのスタートになり将官級の人材を探して役員にし、それから書類の山との格闘が待ち受けていたから、現社長の神奈さんは必死になって会社の存続に奔走したのだ。


 二〇二五年にダンジョンが世界中に出現してから、一〇年の月日が流れてしまったが、一〇年と言う歳月の中で別府テクニカルは急成長を遂げて、大手民間軍事会社の一角にまで上り積めていたが、その大手民間軍事会社の全ての会社が、別府テクニカルと同じで倒産の憂き目に合うか、既に倒産してしまった事で政府も緊急で対応を迫られているのが現在の状況である。


 そんな世知辛い世の中だが、もしもPMCに所属しないでダンジョンに挑む一般人ならば、兵員装甲車も重火器も支援金も何も無しで挑まなければならないのが、現在のダンジョン攻略なのだ。元自衛官が休日に小遣い稼ぎで入る場合もあるが、そんな元自衛官の装備はと言うと、棍棒と盾にアサルトバック一つでダンジョンに潜っているみたいである。


「内竈、呆けてないでドロップ品の回収は終わったのか」


 俺が一人で考えに耽っていると、ゴリラから声を掛けられ尻に蹴りを入れられてしまった。


 こっちで拾っていたドロップ品を手に持ちゴリラに見せると、ゴリラも満足したのだろう頷くとすぐにMRAPに戻って行く後ろ姿を眺めていた。


 そんな俺の耳に遠くで弾けるパンと言う音が聴こえてしまい、直ぐに無線で隊長に報告すると隊長は半信半疑でおやっさんにも声が聴こえたのか確認をしだすが、エンジンを掛けた状態のMRAPの上で全方位警戒をしていたおやっさんに聞くなと、俺は心の中でゴリラに突込みを入れていた。


 



+-+-+-+




 音がしたと思われる方角にMRAPを走らせながら全周警戒を続けながら走行をすると、またしてもパンと言う音が聴こえてきた、今度ははっきりと全員の耳で音を聴いていた為か、隊長の方を見遣ると隊長は直ぐに上部ハッチから半身を出すと、俺の頭を蹴りエンジンストップと叫ぶ。


「九時の方角に全速前進だ内竈、おやっさんは銃座に付いてくれ」


 俺は直ぐに隊長の指示に従い、ハンドルを左に切るとアクセルを踏み込み前進を開始させて進みだした。そして、五分もしない内に音の発生源を特定すると、そこには岩山の上に退避して助けを呼ぶ為に、信号拳銃を手に持った女性が居た。


 岩山の下には狼の魔物である、なんとかウルフって魔物が居た。俺はMRAPを狼の手前で停止させると、直ぐに後部上部ハッチから屋根に上り、20式小銃を狼に向けて発砲しはじめる。


 戦闘行為は、五分も経たないで終わり、戦闘が終わった場所には魔物の魔石やドロップ品が散乱していた。俺は隊長に言われる前に地上に飛び降りてから、ドロップ品の回収を始めたが、救助者の事も気になりチラリと救助者の方を見遣ると、どうも救助者は敬礼をしている所を見ると元自衛官である様だ。


 隊長が救助者を連れてくると俺やおやっさんに自己紹介を始めた。


「~~~~です」


 俺は救助した女性の名前を確かに聞いたのだが、名前が聞き取れなかった。そして、目の前がいきなり暗くなり浮遊感に襲われて、そのまま意識を失ってしまったのだ。


 そして、どれくらいの時間が経ったのかと腕時計に目を向けると、救助してから一時間以上の時間が経っている事に気が付く、俺は起き上がると周りを見渡してから装備の確認をして、小銃と拳銃にナイフがある事に安心を覚える。


 小銃に取り付けられたウエポンライトの電源を点けると、通路が見えたので通路まで進み、気配がしないかを確認する。通路の先をライトで照らすが先が長いのか先が見えないのだ。俺は仕方がないので安全を確かめながらゆっくりと歩を進めだす。


 どのくらいの距離を歩いたかのか解らない、それでも俺は歩くのを止める事なく歩きだしていた。何かに誘われているのか、何かに誘導されているのか、俺は自分の意思で歩いていた筈なのに、気が付けば勝手に足が前に前に進むんでいる。


 そして、通路の先が明るくなっている事に気が付き、ウエポンライトの電源を消し、そして、足音も殺しながら慎重に明かりがある通路の先に進み出す。


 その場所は、少し広くなった円形の広場になっていて、台座が広場の中央におかれており、台座の上には小さな四角い箱が置かれているだけだった。俺は慎重に慎重に近づき四角い箱の前まで来ると、台座や箱の周りを調べたがトラップらしい形跡は発見できなかった。


決意して箱を開け放つと、そこに合ったのは百科辞典を思い出す様な本が一冊だけ納められていた。俺は慎重に本を手に持つと中を開けるか悩んでいると、手が勝手に本を開け放つと、俺の頭の中に何者かが語りかけてきていた。


「汝、力を欲するか」


 俺は頭の中の声に戸惑いながら、どう答えようかと悩んでいると、またしても勝手に身体が動きだす。そして口が勝手に動くと声が漏れ出していた。


「俺は……俺は……力が欲しい……一人でも戦える力が……一人だけの軍隊が……そして……皐月さんを守りたい……」


 おい、おい、何言ってるの俺……ゴリラを守りたい?


「分かった。汝の望みを叶える力を授けよう」


 頭の中の声が告げると、俺の体が白く発光しだし、光に包まれたと思うと意識が急激に刈り取られていた。


 俺が意識を戻すと、そこは先程まで居た場所から少しだけ離れた場所で、そして、その場所には女性の死体が無造作に転がされていた。認識票と顔を見ると俺は驚き直ぐに認識票を確認したのだった。


 政府が発行したダンジョン認識票には、浜脇圭子はまわきけいこと書かれており名前の後ろにJの文字が読み取れた。このJの意味は元自衛官って事なのだが、それは誰でもが知っている。俺は自分のアサルトバックからポンチョを取り出すと浜脇さんの遺体に掛けていた。


 そして、俺の目に飛び込んで着たのは、別府隊長が水色の人型の魔物をMRAPに乗り込ませる場面であった。



 

  

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