036話 それぞれの登山

 熊尾龍太がきーちゃんによって生死の狭間を彷徨わさせれている頃ほかのルートでも目的地へ向けて移動していた。

 

「真ちゃん、もう脚上がらないよ〜」

 

「山にまっすぐ一直線な階段作るって天才かと思ったけどこれはない」

 

「足痩せには効きそうって私の太腿は完璧よ!!」

 

 上杉雪菜、真田愛美、武田唯の三人はまっすぐに伸びている階段を登っている。他にもいるが、終わりないように見える上り階段に心を折られかけていて会話はあまりない。

 

「ゆきゆき、真ちゃんはここにはいない」

 

「マー、そんなこと言わないでぇ、でも到着したら真ちゃんが出迎えてくれるはず」

 

「ゆきゆき、私達が出迎えないときさらに真ちゃんが決めちゃうかもね」

 

「ゆなちー!その可能性は考えてなかったぞよ!?」

 

「確かに苦労を共にしたら連帯感や達成感を共有するしそのまま付き合うってある」

 

「マーが言うと、確定ぽいじゃん!!くっ私のおっぱい癒やし戦力で勝てるかな?」

 

「ゆきゆき、秘策がある。私達が先についてご飯用意してあげる。ゲキムズコースは着くのが遅いから腹ペコ。真ちゃんの胃袋狙い撃ち作戦」

 

「なるほど!!カレーやな」

 

「ゆなちー、カレーとか美味しいけど思い出として弱い」

 

「そうだよ!!長旅の苦労を吹き飛ばす食べ物!!やっぱ肉だよね?バーベキューやろうぜ」

 

「ゆきゆき、今から旨い肉の用意出来る?」

 

「うー、素材勝負はならきさらに負けるか」

 

「ならマーは何作れば良いと思う?」

 

 武田唯が上杉愛美に質問する。

 

「迷うけど、消費したエネルギーとタンパク質、そして汗として失った水分ミネラルを補給出来る、女の子に作ってもらえる特別、それは」


「「それは!?」」

 

「豚丼」

 

「マー?ボケたの?乙女力ないぞ?」

 

「JKが作るご飯じゃないって(笑)男の手抜き料理じゃん」

 

 あれ?と目を逸らせつつマーは言葉を続ける。

 

「こほん、スベった冗談は捨てよう」

 

「マー本気で豚丼作るつもりだったよね?」

 

「ジョークにしても(笑)マーさては恋で頭が茹で上がってるでしょ?」

 

「そんなことはない。本当はポークガノン○ルフ」

 

「マー!?任○堂に謝れ!!それとラスボスを豚にするなんて、ファンに謝れよ!!」

 

 上杉雪菜が真田愛美へ全力でツッコむ。普段なら水岡希更の役割なのだが、不在なので仕方ない。


 あら?そんなはずはとマーが首を傾げる。

 

「ビーフストロガノフの間違いだよね?こりゃマーの気遣いは恋で茹で上がってて使い物にならないわぁ」

 

 武田唯が訂正するが、何をどう間違えたらロシア料理が、ゼ○ダのラスボスが豚化することになるのだろうか?

 

「フッ、分かってない。こういうちょっと抜けてるとこがモテる秘訣」

 

「誰にモテるの?真ちゃんは居ないよ?」

 

 武田唯の鋭い指摘に、あらら?どうしましょう?とちょっと困る表情の真田愛美である。

 

「ヤバい、マーかわいいわぁ。ゆきゆきが癒やしてあげるパフパフしちゃう

 

「ゆきゆき、それは癒やし違う。敗北感しかない。しかも夜食で増乳とか女の敵」

 

 真田愛美は抵抗するが上杉雪菜によって力技で、胸へ顔を埋められジタバタしている。


「ゆきゆきって両刀使いよな?」

 

 武田唯の質問に上杉雪菜は、少し悩んで回答する。

 

「うーん、どうなんだろ?やっぱ性別よりも相手を癒やしたいパフパフさせたいか、やな」

 

「ぷはぁー、これは癒やしじゃない!ゼェゼェ。右も左も前も上も下も、ゼェゼェ。全部が谷間の中だと呼吸出来なくて死ぬ。ゼェゼェ」

 

 真田愛美は女子としての敗北感と山岳階段上り中に呼吸出来なくて死にかけてる。

 

「マー、階段上がれる?まだまだあるよ?」

 

「真ちゃんにご飯を作るために頑張る」

 

「真ちゃんは、ポークガノン○ルフ食べれるかな?そんな料理ないけどさ」

 

 あぅ〜、と真田愛美は困りつつ、安倍真治の胃袋を掴むための夕食を考えては誂われるのであった。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 もう一組は普通な登山道である。歩いているのは兎田友梨と虎井遥輝その他くじ引きでこのルートを引いたクラスメートだ。

 

「お腹減って来たわ。あのキノコとか美味しそうね」

 

「野良茸は絶対に食うなよ。毒キノコか見分けるのは専門家でも難しいからな」

 

 何気ない兎田友梨の言葉に虎井遥輝が応える。

 

「あら?そうなのキノコ狩りとかで縦に裂けたらとか傘の形とか色々と見分け方あるんでしょ?」

 

「そんなもん全部嘘だ。未だに未知の毒キノコなのか、食える種類と見た目だけはそっくりな別種な毒キノコがあるのかさえ分かってない。見分け方は唯一つ。食って毒じゃ無い事を確認するだけだぞ」

 

 茸の専門家でさえ、見た目や色また僅かな色や形の違いがあると食べられるかさえ分からないのが茸なのだ。つまりは店で確実に安全な茸として売られているもの以外は危険そして見分けるのはほぼ不可能という事だ。


「あれ?もし毒キノコだったらどうするの?」

 

「ん?決まってるだろ。病院に搬送されて治療受けて助かるとラッキーだな」

 

 つまり運悪く強毒性なら死ぬしかない。弱毒や治療が上手くいけば助かるというギャンブルである。

 

「うげぇ、キノコ狩りとか怖いわぁ。それじゃ何を山で取ればいいの?」


 とにかく野生の茸は食べてはならない。これは常識である。加熱しても何しても毒は毒なのである。

 

「山菜とか筍とかさ色々とあるだろう?あぁジビエも気をつけろよ。寄生虫とか病原菌とか、ありうるから加熱殺菌はしっかりとな。そもそも勝手に猟ったり採ったりすると、何らかの法令違反に先ずはなるけどな」

 

「無駄に詳しいわね?頭悪いのにおかしいでしょ?」

 

 あんにスポーツバカなのになぜ知識があるのかと、それよりも学力つけろよと挑発する兎田友梨である。

 

「金が無くて食えなくてもな、法に触れてまで食い物を手に入れたりはしないんだよ。山菜とか筍なら山の所有者に許可貰えば大丈夫だからな。狩猟は免許いるし、猟っていい動物も決まってる」

 

 挑発をさらりと躱す虎井遥輝はどこか諦めのような、遠い目をする。

 

「へぇ~、そのプライド役に立ったの?」

 

「犯罪者になるくらいなら、貧乏な方がマシだろ?やっぱ金持ちには法令遵守してたらなれないのか?」

 

 しれっと反撃する虎井遥輝である。とりあえず知識はあっても食えた事は無さそうである。この二人はいつも喧嘩しているがなんだかんだと仲が良いのではなかろうか?


「ふん、法令違反はしないわよ。法律はねギリギリをせめて順守すればいいの。あんまりグレーゾーンやりすぎても後で黒い噂がたつし限度はわきまえてるのが真の金持ちよ」

 

 企業は営利組織であり金儲けが目的なのだ。だから使える節税はするし貰える補助金や値上げはする。もちろん労基法ギリギリまで社員は使い倒す。これでも良心的な企業だろう。

 

 とにかく黒字で利益を出さなければ、倒産してしまう。長年会社を維持しているだけでも実は凄い事なのだ。

 

「そうカリカリしなさんな。この山は個人所有で山菜採りはしていいと聞いたからな。一番贅沢な採れたてをついたら食わせてやるから腹ペコになってろ」

 

「なっ、仕方ないわね。不味かったら承知しないわよ」

 

 予想外の返しにちょっと調子が狂う兎田友梨である。実際のところ空腹と疲れでイライラしてたのが、かなり楽になり残りを楽しみに進めそうではある。

 

「食ったことないし美味いかどうかは知らないけどな。とりあえず毒草と見分けだけ出来るはずだし、天ぷらにすればなとかなるだろ」

 

 そりゃ貧乏な虎井遥輝に山を所有者してて山菜を採らせてくれる友人など居ないのである。


「それ本当に大丈夫なの?毒草とか嫌なんだけど」

 

「茸よりは見分けやすいからな。難しい奴は避けるし洗って加熱して安心安全な初心者用の春の味覚な山菜あるから」

 

「ふーん、ならいいわ」

 

 足取り軽く兎田友梨は登山を楽しむのであった。

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