031話 変態を越えし超越者

 昨日の遅刻で熊尾龍太は担任の先生というか、義母にこってり絞られたらしい。

 

 俺以外にはちゃんと学校の先生してる。今朝は目覚まし時計は普通で遅刻の心配もなく歩いてきた。そして朝のホームルームである。

 

「今日のホームルームは、ゴールデンウィークの外出企画申請についてです。準備、雑用に警備そして、全費用は昨日の無断欠勤の罰として全て熊尾にやらせるので決まり。場所も弓槍ヶ岳で決定?」

 

 どうやら、熊尾龍太はあらゆる準備を全て義母に押し付けられたみたい。

 

「異論が無いなら決定します。許可は取るので熊尾何か連絡事項ある?」

 

 決定までの決断も早い。親バカなだけで仕事も家事も凄く出来るのに若い凄い人なんだ。

 

「流石にそこまですると我が神々の作品へ捧げる資金が無くなるというか、そもそもそこまでは言ってないです」

 

 熊尾龍太が反論する。

 

「なにか問題でも?」

 

「ぴぃ、いえ問題ないです((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」

 

 すげぇ、あの熊尾龍太ヘンタイを一瞬で沈黙させた!!やっぱりお義母さんって凄いなぁ。

 

「なら責任者として、集合場所と時間それに日程、個人の持ち物、色々と連絡事項をしっかりやりなさい」

 

 熊尾龍太が責任者らしい。たぶん今決まったと思うけど、誰も文句は言わない。お義母さんの人選なら問題ないと思う。

 

「出発は5月3日朝5時に常和学園校門前集合、バスで移動して軽く登山、バーベキューとキャンプファイヤーして、ロッジにて宿泊。翌日の朝ご飯は自炊してお昼から下山、バスで夜には常和学園校門前で解散。翌日は休みなので体力的にも、問題ない日程です。バーベキュー班分けとか宿泊部屋分け、登山ルート班分けは、行きのバスでくじ引きイベントで楽しみます」

 

「ちゃんと学校に日程表を提出しなさい。期限は明日朝まで分かった?」

 

「それは早すぎで間に・・・やります」

 

 無理は許されないらしい。熊尾龍太頑張れ。俺は今夜もバイトで忙しいからな。

 

 それから熊尾龍太は謎のカリスマを発揮してお兄ちゃんなり隊を総動員して、準備をやりきったようだった。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 やって来た5月3日の憲法記念日、朝4時半眠いながらも学校に来た。

 

 担任の先生というか、お義母さんは出かける間際に俺を起こして行った。お義母さんはいつ寝てるのだろう?

 

 全員参加なので熊尾龍太が点呼をやっている。

 

「安倍真治、良しとバスが来るまであまり離れないようにな。それにしても去年は好きにしろ的な芦谷先生が今年はチェックも厳しいし、見送りも来るなんてどうしたのだろうな?」

 

 あっそれ俺のせいだ。だって俺の用意は、全部してくれてて、下調べもめっちゃしてた。何しろ熊尾龍太作った資料丸暗記してもん。どんだけ息子を溺愛してるのだろうか?恥ずかしいから言わないけど。

 

「さぁ?俺は去年なんて知らないから分からないかな」

 

「それもそうか。じゃクラス旅行楽しもうぜ」

 

 変態じゃないイケメンな熊尾龍太にかなりの衝撃を受けつつもバスを待つのだった。

 

「あっいたいた、あんた誰とバス座るのよ?」

 

 希更さんが俺を見つけて話しかけてくる。

 

「あれ?そういえば座席表ないね?」

 

「長年クラス固定だから、だいたい決まってるのよ。でどうするの?」

 

「どうすると言われても眠いし、どこでもいいかな?」

 

「えっとねその、私の横は空いてるわよ?」

 

 希更さんと座るとボコられない?男嫌いだよね?言ったら殺されるかもだけど。どうしたものかと悩んでいるとお義母さん、というか担任の先生モードだから芦谷先生がやってくる。

 

「安倍くんと仲の良い水岡、上杉、真田、武田で1番後ろのベンチシート使いなさい。それで解決するでしょ?」

 

 お義母さん!?高校生の男女をしかも男女比おかしい状況で隣に座らせて高校教師的に大丈夫なの??希更さん怖いし、何もしないけどさ。

 

「芦谷先生?」

 

 希更さんがなんでなん?みたいな顔をしてる。

 

「あら?高校2年生になってせっかく転入してきた安倍くんなのに、最初の行事でぼっちだと次の行事でも同じになるでしょ?それじゃ担任としても困るから当たり前の対応です」

 

 お義母さん!!担任としてって言ってる!!まぁ考えるまでもなく親バカすぎるお義母さんは俺のぼっちな運動会とか文化祭とか遠足とか、絶対にならないように対策すると思うけどさ。

 

 それよりも俺だけ安倍なんだよね。他のクラスメートは呼び捨てなんだけど、これも依怙贔屓だよな??絶対に親子なのバレそうな気がする。

 

 バレたら真治って下の名前で呼ばれると思う。天使ちゃんも親父も自分も含めてみんな安倍だし。

 

「そうかもですけど、なんか変じゃないです?」

 

「なんで?」

 

 なんで!?先生が『なんで?』って真顔で聞き返すのはありなの?高校2年生の男子を長距離移動するバスなのに女の子で囲んだらだめでしょ?

 

「えっ、いやえっ?ん??」

 

 希更さんがドン引きしてる!!そんな口よりも手が出るほうが早い希更さんが、混乱してドン引きして完全に止まってる!!お義母さんよ、あのヘンタイ熊尾龍太を超えたというのか?

 

「セクハラは絶対に認めません。やるなら合意の上でやりなさい」

 

「「えっ!?」」

 

「学校の先生がそんな事言って良いのですか?」

 

 赤くなってフリーズしてる希更さんに変わって質問する。お義母さん貴女は何考えてるのさ?

 

「あら?本番前までは高校生のイチャイチャの範囲でしょ?一線越えるたら色々と面倒だけど、そこまで愚か者じゃないと信じてます」

 

「セクハラも何もしませんから」

 

 前半絶対にお義母さんモードだったよ!!あとダメじゃなくて、って半ば認めてるのでは??いくら親バカとはいえ、未成年の本番を揉み消したりはしないよね?

 

「真面目なのも大切な事だけど、少しの遊びも大人には必要です。高校生のうちに上手い手抜き加減を覚えなさい」

 

 良い事言ってる風だけど、俺には分かる。たぶんどうにかする。いやこの人絶対にどうにか揉み消す!!俺が何してもどんなヤバいトラブル起こしても、あらゆる手段と謎権力でどうにかする!!((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

 

「あのぉ芦谷先生、それはある程度黙認という事ですか?」

 

 希更さんがなんとか再起動してるけどもやっぱりドン引きらしい。

 

「社会人として必要なのは、コミュニケーション能力、ある程度以上の知識、そして応用力に柔軟な発想とアイディア、何より努力を常に怠らない事です。ですが超人でないのだから、メリハリが上手く無くては保ちません。これは学校の外の有志企画ですが、常和学園の生徒です。つまり社会人と違って学生の失敗はある程度許されます。色々とやって学びなさい、という事です」

 

「あっはい」

 

 小難しく言ってるけど要するに、何してもお義母さんがどうにかするから学生でも許されない事以外は何しても良いって事ですね。

 

 そして希更さんは煙に巻かれて分かって無さそうだ。希更さんは勉強が苦手だからね。

 

「社会人の方がモラルとか立場とか年齢差とか地位とか知って当然なので兎に角気を使うから今だけです」

 

 お義母さん!?確実に俺に言ってるよね?好き放題してこいって言っるよね?貴女は高校教師なの覚えてます?教員免許本当に持ってますか?

 

「大丈夫です。常識は学んできました」

 

 俺はそんな軟派じゃないし彼女居ないけど出来たら一途に大切にするつもりですし遊びな関係とかもちません。

 

「分かっています。次は大人の汚さや本音と建前、メリハリを学ぶところまで人が出来ているという事です」

 

 お義母さん息子をどうしたの?ヒモにして同級生と爛れた生活させたい感じ?愛されてるのは分かるけども甘すぎというか、人としてはなっちゃダメじゃん。

 

「善処します」

 

「よろしい」

 

 そうか!!俺に自制心や誘惑に負けないで努力出来るようにお義母さんはなってほしいのか!!厳しくするよりも確かに俺には向いてる教育方針だと思う。やっぱり高校教師って凄い。

  

 その後出発したバスを見送る芦谷先生は、心配そうに呟いた。

 

「好きなくせに、あの娘達奥手過ぎなのよ。早く皆で押し倒すくらいしないかしら?」

 

 親バカな義母は教育とか考えは無さそうだ。

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