003話 すれ違う想い
俺のやってるバイトはファミレスの厨房アシスタントだ。皿洗いとも言う。
ほぼ毎日19時から3時間、22時までみっちり働く。頑張りが認められて少し時給が増えて仕事の楽しさを知った気がする。
「ふ~、今日もやりきった」
「助かってるよ、安倍ちゃんがいないと食器が山積みで片付かないんだから他の大学生のバイトは情けない」
店長は中年男性でみんなちゃん付けする。全員子供みたいな存在だかららしい。毎日バイトといっても休みはもちろんある。忙しい祝祭日と週末は休まないけど、そこまでじゃない平日にシフトがちゃんと外れてる。
「ほんとですか?平日は少な目だし楽だから申し訳ないくらいですよ」
「安倍ちゃんは暇なら調理まで手伝うじゃん。他のやつなんて皿洗いしながらくっちゃべってるし、仕事舐めてるって」
この店長は相当優秀らしく、よく本部から賞を貰ってる。フレンドリーだけど、バイトの様子もよく見てるし、掃除や片付けはしっかりするし、仕事も早いのに丁寧だからほとんどエプロンが汚れない。社会人のお手本みたいな人だ。
「最近は仕事が楽しいですからね」
「イイね。それが出来たら一人前だなぁ。店長変わってくれるか?俺は休みたい」
「無理ですって、まだ俺の目標でいて下さいよ」
「こんな中年オヤジのなにがいいんだか、おっとそろそろ高校生には遅すぎる気をつけて帰れよ」
「あざっす、それじゃまた明日来ます」
「おう、また皿積んどくな、はよ帰れ」
俺は店の裏口から帰路に着く。ちなみに店長が居なかった日も無ければ帰ってるところも出社してるところも見たことがない。
俺はこのファミレスチェーンにだけは就職しないと思う。
「あれ?サボりの安倍じゃん。妹ほっぽって遊んでんの?」
なぜかファミレスの駐車場にクラスメイトの水岡希更がいる。
「学校には秘密だけどバイトかな。えっとこれあげるから黙っててくれない?」
店長がこっそりくれた賞味期限間近あと2時間もないパフェ用のイチゴパックを差し出す。学校にバイトがバレてもたぶんなんともないけども、というか母親は絶対に、もみ消すと思うけどやっぱり面倒は回避すべきだ。
「え?あっありがとう。えっと私もバイトくらいしてるし、何も言われなくても黙ってるから」
「へぇ、でも、絶対バレたくないから口止め料って事でよろしく」
「別にバレても違うとこでバイトしたらいいじゃん」
「えっとさ、妹が大きな手術してて、まだ手術代の借金もあるしさ、完治もしてなくてそれで少しでもバイト代貯めてるから少しでも働けない期間があるのは困るかなぁ。なんて」
ここのバイトが楽しくなってきたのもあるしね。
「えっ!!そうなんだ。あんた大変なんだ・・・あっそうだ。私の年の離れた従姉妹が事故死したんだよ。コンクリート塀に原付きで体当たりしてそれで、えっと」
少し沈黙したあと続ける。
「だからとにかく辛いのはあんただけじゃないから!!」
なんだろう怒ってる?なるべく当たり障りないこと言うかな。
「ご愁傷様でした」
「ああ、もう。そうじゃないから!!」
あれ?間違えたらしい。正解教えてくれないかな?
「ごめん」
「なんであんたが謝るのよ!あーもう、ムカつくわね」
もっと怒らせてしまった。どうしよう。てんしちゃん以外と女の子とたくさん話したこと少ないから困る。
「なんかごめん」
「もー謝るな!!それよりあんた帰りは?自転車?」
「自転車持ってないし歩き」
「けっこう遠いでしょ!なんで歩きなの!?バッカじゃない」
「通学で使えないし、高いしいらないかなって」
「どんだけ貧乏くさいの?ええい、もう送ったげるから感謝しなさい」
「どうやって?ニケツはちょっとやかな」
女の子の自転車の後ろに乗るのはくっつき過ぎて緊張するし無理かも。
「なに?私とニケツは嫌なの?」
「嫌じゃないんだけど無理かな、なんて思ったり」
「ああもつ!!ほんとにわがままね!!ニケツはしなくて大丈夫!家族と車で来てご飯食べてたから車なの!感謝して乗りなさいよ」
「勝手に決めて大丈夫?」
なんか怒ってるしやばくない?断った方がいいのかな?
「素直に感謝して乗ればいいでしょ!?バッカじゃないの?」
俺って馬鹿なの?常識はあるつもりだよ?でも良いみたいだし素直にお礼言おう。
「うん、まぁじゃありがとう」
「ふん、最初からそうすればいいの、ほらこっちよ」
白いミニバンに案内される。
「初めて軽とトラックとバス以外の車に乗るかも」
「あっ、えっとそのなによ。初めては嬉しいでしょ?」
「そんな事を女の子が好きでもない男の子に言うもんじゃないと思うよ」
なんかエロい事を高校二年生は想像しそうだよ?みたいな?
「はー!?なに言ってんの?ヘンタイ死ね死んでしまえ」
「えっ俺悪くなくない?」
「あーもう!!あんたが悪いに決まってるでしょ!!分かりなさいよ」
んー、JKは分からないなー。でも俺が悪いらしい。
「なんかごめん」
「もう早く乗りなさいよ。私は帰りたいの!!」
スライドドアから乗り込むと親御さんともう一人男の人がいる。水岡希更さんのお兄さんかな?それとも彼氏?
「失礼します。隣の安倍です。水岡さんから一緒に帰ろうと誘われたのですが、大丈夫ですか?」
「ああ、お隣の真治くんか。もう遅いし乗っていきなさい」
「あらら希更の彼氏はお隣さん?」
「お母さん!違うから!ただのクラスメートだから!!」
「きーちゃん怒るな、怒るなカルシウム不足じゃないの?」
「きーちゃん言うなし!カルシウム不足になったら骨粗鬆症で骨折しまくるから!」
素朴な疑問だし聞いてみよう。
「水岡さんって怒り易い人なの?」
「違う!アンタのせいよ!!」
俺じゃなくて家族のせいじゃね?空気を読んで言わないけどさ。
「ほら怒ってる」
「うがー!!あんたが怒らせてるの!!なんで肝心な事だけ分からないわけ?」
「きーちゃんはこんなんだけど本当は優しい娘なんだよ」
「バカ兄!!きーちゃんってクラスメートの前で呼ばないで!!あと何とも思ってないから!!」
「えっ、俺ってクラスメートでお隣なのに全く興味ないの?」
「あーなんでそうなるのよ!?バッカじゃない!分かれよバカ」
「えー、やっぱり俺悪くないよね?後付き合ってないよ?」
「別れようじゃない!!分かれよ!!って言ったの!!なんなんその聞き間違いは!!ケンカ売ってる?」
「ケンカしたことないから勝てないって、俺がボコられて帰ったらうちの妹が心配するし」
「あーも!!男なんだから見栄張りなさいよ!なんで女の子にボコられるの?ってそうじゃなくて、聞き間違うな」
「あっ、そっかごめん。水岡さんて面白い人だったんだね。知らなかったや」
「きー!!おかしいのはあんただから!!勝手に変人扱いしないで!!」
「あっ!そっか怒り易い人なのか」
「もうそれでいいわ。疲れたし」
「疲れたらレ○ドブル良いよ。まだ頑張れるようになるからさ」
「あんたねぇ、努力の仕方間違えてない?」
「そうなん?でも宿題終わらせるには飲まないと寝ちゃうし」
「はぁ、しかたないわね。今日はちゃんと寝なさいよ。明日の宿題は全部写したら余裕でしょ?」
「いいの?でもお礼に身体は無理だよ?妹ために置いときゃなきゃ」
「あんたの発言の方がヤバいエロさじゃない!!心配しなくても内臓なんて要求しないから。妹のドナーのためにも寝て元気な内臓にしなさい!!分かった!?」
「きーちゃんよく分かったな。これぞカップルの以心伝心?」
「バカ兄!きーちゃん言うなし!カップル違う!!」
「お金も親父が借金してるしないよ?」
「バイト代の使い道は聞いたから!まだ覚えてるから!変な話題を引っ張るな!なんで素直に感謝できないのよ!!!」
「こうやって怒られるから?あと親に宿題やってないのバレたら困るし」
バレても許されそうどころか、聞いたら全部答え教えてくれるし、頼んだら代わりにやってくれると思うけどさ。それどころかやらなくても許されると思うけど、それは学生としてだめじゃん。
「あーもう!分かったわよ!私のせいにしていいからとにかく寝て学校に来い!命令だから以上!!家に着いたしとっと帰れ!!」
「本当だ車だと早いなぁ。乗せていただきありがとうございました。今後もよろしくお願いします」
「いいよ、楽しそうな娘も見れたしね」
「お父さん!?楽しくないからね!!」
「えっ迷惑かけてごめん」
「そうじゃないから!!なんで空気読めないの?バカなの?バカなのね?寝不足なん?死ね!死ぬほど寝ろバカ」
「死ぬほどは寝たくないけど多めに寝るよ。おやすみなさい」
「ふん、知らない」
俺は家に入って親父が居たのでハッスル前に寝る事にする。ハッスル始めたら気になって寝られないのが高校二年生だから。
でも隣の水岡希更さん物凄く怒ってたし嫌われたかな?
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