002話 お義母さん貴女やばいって

 妹の声に眠りから覚醒する俺こと安倍真治。そしてここに妹が来れる理由を考える。休み時間では正式な許可がないと正門を通してくれなくて、中学校から出れない。逆に入るのは生徒手帳があれば高校でも自由なので、考えなくても早退して来てるしかない。

 

 俺の真面目な妹が早退する理由なんて、熱しかない。

 

「てんしちゃん!!何やってんの!!熱あるでしょ!!」

 

「大丈夫だよ。帰ったら下がったし、お家にお兄ちゃんのお弁当あったから、お兄ちゃんがお腹減って困ってるかなって思って持って来たよ。えへへ」

 

 なんだかクラスがてんしちゃんに釘付けだけど物珍しいだけだろう。てんしちゃんは物凄く可愛いくて、病弱さからくる儚さと可憐さからめちゃくちゃ外見いいしさ。

 

「ありがとう。でもダメでしょ!!熱あるんだから帰るよ」

 

「えーもう下がったよ。平気平気」

 

「ダーメ、ほら一緒に帰るよ」

 

 クラスをまるっと無視して帰るために荷物を持って、てんしちゃんとクラスを後にする。

 

「もー心配性なんだから、微熱だったしもう下がったから何ともないし、スマホも発作の薬も持ってるのに」

 

「ハイハイ、お兄ちゃんは心配性なの」

 

「もー学校サボっちゃダメなんだよ?」

 

「サボってない。付き添いだからいいの」

 

「良いのかなぁ?バイトは行くの?」

 

「あー、バイトは行かないとな」

 

「そっか、でも一緒に帰ってくれてありがとう♪」

 

 エヘヘと笑う妹がの姿に俺が守らないと何度目になるか忘れるほどの、決意を新たにしたのだった。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 その頃残された教室では派閥争いが勃発していた。なぜなら安倍典子は視線で兄のクラスにメッセージを残していたからだ。

 

「天使の様な存在に変な虫をつけるわけにはいかない!!同士よ立ち上がれ!!」

 

 そう鼓舞するのは帰宅部男子の派閥リーダー熊尾 龍太くまお りょうただ。サブカルチャーを愛するが成績優秀でクラストップ、スラッとした体型にイケメン。ただただ性癖が残念なのが致命傷だ。何よりてんしちゃん無言メッセージ、『クラスで一番強い派閥とだけ仲良くするよ。勝って証明してみせてね』を受けて欲望に忠実に行動開始する。

 

「駆逐せよ!!ウインドカッター。回復班は援護に回れ!!」

 

 帰宅部派閥改めお兄ちゃんになり隊は運動部男子派閥へ魔法攻撃を仕掛ける。

 

「チッ、式神生成、最低限の捨て駒で防ぎきったら数で押しつぶせ!!」

 

 運動部男子派閥から彼氏になり隊に変わったリーダーの虎井遥輝は式神を操る。


 運動部らしくチームワークを発揮し仲間に的確な反撃指示を出す。もちろん彼らも、無言のメッセージは理解しており付き合いたいし、あわよくば、てんしちゃんと合体したいから戦闘に応じる。

 

「最低な男達に穢されるなど許せますか?否!断じてい否!!女の子の心は女の子にしか分からない!!今こそ勝機!!さぁ5番をやりなさい」

 

 腐女子派閥から覚醒した、百合百合し隊のリーダー兎田友梨も漁夫の利を狙って横から戦闘に参加する。もちろん彼女達の脳内では裸に剥いた、てんしちゃんと遊ぶことでいっぱいだ。

 

「「「トイレに行きたくなってしまえ!!」」」

 

 百合百合し隊のテロ行為がクラスの男子に襲いかかる。

 

「甘い!熊尾龍太は四属性と回復の使い手ぞ!回復班半数は呪いの回復に回れ!アンチカース」

 

 素晴らしいカリスマを魅せる、お兄ちゃんになり隊の熊尾龍太。こいつらが一番まともなのが残念すぎる。

 

「数の有利は絶対だ!!式神追加!!死にかけの式神に呪いを肩代わりさせろ!全力で押しつぶせ」

 

 個々の力を合わせ圧倒的な暴力を繰り出す、彼氏になり隊。

 

「呪いは数を選ばない!!飽和攻撃開始!!5番で破滅を迎えさせなさい」

 

 エゲツない社会的破滅を狙うテロ行為を強める、百合百合し隊。

 

「バッカじゃないの?そう思わない?」

 

「引くわーこんな事に魔法使うなんて引くわー」「危ないなー」「これだから飛び道具ばかりの奴らは嫌なのよ」

 

 運動部女子派閥のリーダー水岡希更はドン引きしていた。てんしちゃんに相手にされてないし当然といえば当然だろう。

 

「はぁ、安倍真治が帰っちゃた」

 

 水岡希更は今日も安倍真治と仲良くなるきっかけを失ったと無意識にため息をつく。本人的には恋心はなくて、友達になりたいだけだ。もっとも傍からみると恋する乙女でしかない。

 

「何をやってるか!!パラライズ!!」

 

 戦いで発せられる魔力を感知して駆け込んできた担任、芦谷 陽子あしや ようこの状態異常魔法によりクラスが一瞬にして制圧される。

 

「「「あがががが」」」

 

「安倍真治に魔法がバレたらどうなる知らんわけじゃないだろな?」

 

 麻痺しながらも死ぬ気で頷く3派閥のクラスメート達だった。

 

 芦谷陽子は安倍真治の母親で担任であるが、魔法協会からSランク指定されている魔法使いだ。だからこそ優秀な、クラスを任されており、融通も効かせられる。それで義理の息子を無理やり捩じ込んだ。

 

 魔法使いは血縁一族に現れやすい。そして父親と妹、さらに後妻の自分までSランク。ようは日本で最強ランク3人が家族で一人だけ魔法使いとして、無能。そして父親の方針で今まで真治は魔法を知らない。

 

 絶対に思春期の男は悩むから陽子も魔法を隠している。なら自分の魔法科クラスに入れるなと言う話だが、息子の世話をしたかったから仕方ない。

 

 結果としてクラスを脅して隠し通させている。一応言い訳として安倍家だからバレてもいいし、社会に出て魔法を隠す練習だとしている。表向きは。

 

「万が一バレて安倍くんが悩んでみろ、確実に毒状態にして脳がどろどろな廃人にしてア・ゲ・ル。そこらへん分かってる?」

 

 クラスを見回すと担任の芦谷陽子はここで気が付く。

 

「あれ?安倍くんはどこに?」

 

「先生、さっき妹が来て忘れてたお弁当受け取ってそのまま早退しました」

 

 水岡希更が端的に説明する。

 

「あらそう。なら無駄に争いを止めたかぁ。そうね。あんた達バレない様に争う練習でもしなさい。もちろんクラス全員よ」

 

 安倍典子のした事を見抜き、クラスの変人具合さから正確に事態を理解する。教師としての能力も対話スキルも高い割りと完璧系なキャリアウーマンだ。

 

「先生は怪我人出ないように止めるから、私からもしっかり隠れなさい。でも安倍くんにバレたら廃人コースよ。分かったら実行しなさい」 

 

 教育者としてはスパルタ方針なのだ。谷というか火山の火口に叩き落とす。しかも爆弾を投げ込んでそのまま蓋をする。


 ただし安倍真治は除かれている。そして最愛の息子のためなら教え子もぶっ殺す。そんなちょっと頭のネジが吹っ飛んでる親バカが、唯一欠点な芦谷陽子だ。

 

「そんな理不尽な」

 

 巻き込まれた水岡希更の呟きは無視された。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 妹のために早退して、ゆっくりと26才の女性の手作り弁当を堪能した。今日はご飯に隠されたハート海苔をマジマジと見れて幸せだ。

 

 夕方になりバイトにもうすぐ向かわないといけない。正直に言えばてんしちゃんは心配だし、家に一人残すのも心配だ。寂しい想いもさせてるだろう。

 

「てんしちゃん一人で大丈夫?」

 

「友達とレインしたりネット小説読んだりしてるから平気だよ?それよりも友達はお兄ちゃんの方がいないよね?レイン通知って全く来てないよね?」

 

 公式アカウントから通知くらいくるから。それにまだ主治医の先生から激しい運動の許可は下りてないくらいには、てんしちゃんは回復してない。体育もドクターストップで出来ないしクラスに馴染めてるのだろうか?

 

「お兄ちゃんでもレインの通知くらいは来るからね。それよりも体育も出来ない、てんしちゃんはクラスに馴染めてる?」

 

「えっ?部活してなくてバイトばっかりしてるのにお小遣いなくて、バイトしすぎて、テレビも見ない上に、疲れで学校の休み時間は寝てるお兄ちゃんよりは上手くいってるよ?」

 

 情報源が担任の先生である母親だけに、見栄で嘘もつけない。

 

「大丈夫だよ。お兄ちゃんもクラスメートと話しくらいするからね。ちょっと持ち上がりコースに編入されてまだ友達出来てないだけだから。てんしちゃんは悪い男に気を付けるんだよ」

 

「んー大丈夫だよ。お兄ちゃんはフツ面だから分からないかもだけど、私は超絶カワイイからいくらでも何人でも貢いでくれるし。持ち上がりコースだからクラスメート変わらないし入院してもお兄ちゃんよりマシだよ」 

 

 反撃された。確かにあだ名のてんしちゃんに負けない可憐さと病弱な儚さで超絶カワイイのは認めよう。

 

 でも貢ぐもなにも病院生活が長くて世間知らずなのだから、悪い男を知らないのだろう。飢えた狼からはやっぱりお兄ちゃんが守らないといけない。

 

「とにかくお兄ちゃんに困ったら相談するんだよ!それじゃバイト行ってくるから」

 

「は~い、ありがと♪お兄ちゃん気を付けてね」

 

 こうして俺はてんしちゃんを心配しながらバイトに歩いて向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る