001話 天使は悪魔?

 私立常和大学付属常和高校は0歳児保育からほ幼小中高大一貫教育の学園内の高校になる。

 

 俺は常和学園の保育園からずっとお世話になってる。

 

 そこに通う俺こと、安倍 真治あべしんじは高校二年生で普通の人よりちょっと家族が大変だけど、それだけだ。

 

 俺の家族の最初の苦労は産みの母親が気紛れで行った、単身海外旅行で現地の南米人と不倫した事だ。

 

 母親は不倫相手と結婚するために俺と妹、そして親父を置いて勝手に南米から遠距離離婚した。そのまま日本国籍まで捨ててしまい、今はアマゾンのジャングルで原住民として暮らしてるらしい。

 

 俺が小学三年、妹が小学校一年の時のことだ。

 

 俺自身記憶になんとなくしか産みの母親は記憶にない。とにかく自由人で親父によく注意されていた印象だ。

 

 自由を求めて、というか社会からの開放を求めて消えたと、今は理解している。それにしても、アマゾンとかECより先に出てくる単語じゃないぞ。なんでもいいけどそのくらい勝手な人だった。

 

 対して親父は真面目なトラックドライバーで週に一度家に居れば良い方だったけど、産みの母親がいなくなってから毎日帰ってくるようになった。でも収入が減って我が家は少し貧乏になった。

 

 生活週間が父子家庭で荒れたからか、親の離婚の心労か、山に親父と妹、俺の3人で遊びに行ったときに妹が倒れた。

 

 原因は不明の難病で、なんとか症候群らしい。ようは医者も何もよく分からない。それでも命を繋ぐため健康保険の効かない最先端手術を受けた。妹の手術は無事に成功して、かなり回復した。

 

 だけど今も妹は病弱で熱くらいはよく出す。でも緊急的な命の心配は少なくなってる。中学三年生となっても大事を取って休む日も多いけど同じ学園の常和中学にちゃんと通ってる。

 

 俺は親父の最先端手術費用の借金返済を手伝うために高校生になったらバイトを始めた。微々たるものだけど、内入れをすれば金利が減る。原因が不明だから妹に、次の手術が絶対にないとは言えないし、資金を僅かでも集めやすくる俺なりの努力だ。

 

 そしたら去年親父がコンパで意気投合した女の人と結婚した。26才で高校の先生だ。親父は41才、俺は高校二年生の16才おかしくないか?新しい母親は親父より俺の方が年齢が近い上に、この新年度からはもちろん俺の担任だ。

 

 あの母親なら絶対に俺を自分のクラスに捩じ込んでる。むしろクラス替えまでよく待ったとも思う。今は4月半ば母親になって5ヶ月でこの感想だ。

 

 親父は借金返済のために家庭を新しい母親に任せて、長距離の仕事をするようになった。何日も帰って来ない事もまた多くなった。さみしくはなったけど新しい母親のおかげでも辛くはない。

 

 新しい母親は高校では旧姓を使うから、親子なのはバレてない。ただし俺に明らかなる依怙贔屓をするから、バレるのは時間の問題だろう。

 

 むしろクラス皆が知ってるけど担任の謎の権限で黙らせてる可能性まである。教育者としてどうなのかと思うけど信憑性がありすぎる。

 

 そんな事より親父と担任の先生が夜ハッスルする声が聞こえる家庭の方が子供の教育には悪いか。でも兄弟が増えたら嬉しいかな。

 

 母親の収入のおかげでバイト代は俺の物になった。犯罪じゃないし、バイトは校則で禁止だけど許してくれた。

 

 というか母親は俺に激甘だからバイトが学校にバレても、なんとしても無かったことにするだろう。それでいいのか?教員免許剥奪されない?とにかく校則も母親の前には無力なんだ。

 

 俺はバイトの給料は念の為、妹の手術代の足しにしたくて全部貯金してある。無いにも等しいけど、金利が着いて増えてちょっとだけ嬉しい。

 

 そんなちょっと産みの母がアマゾンの原住民化してたり、妹が謎の難病だったり、新しい母親が担任で依怙贔屓過ぎたり、親父がたまにしか帰って来なくて、借金があって大変なだけのありふれた高校生だ。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 その日は朝寝坊をして遅刻する寸前で目が覚めてたせいで、俺は常和高へ走ってる。自転車通学の許可範囲からギリギリ内側で徒歩通学をしなければならないからだ。去年3月末につまり高校入学のとき隣に引っ越して来たのクラスメートの水岡 希更みずおか きさらは自転車通学が許可範囲なのは解せない。たぶん担任の先生に言ったら一瞬して自転車通学出来ると思うけどさ。

 

「あっれー?まだこんなとこに徒步組がいる〜。遅刻するっよー?」

 

 その水岡希更が後ろからやって来る。お隣だけど、そんなに近所付き合って無い地域だし、クラスが一緒になったのは今年度からだ。

 

 常和学園は持ち上がり式でクラス替えしないコースと学力や、運動などの成績で毎年クラス替えするコースがある。

 

 編入はあるけど、持ち上がりコースと実力式コースは絶対にコースを変えられない。

 

 なぜか俺はクラス替えのコースから持ち上がり式のクラスに移動した。常和学園のシステム的に絶対ありえない。可能にしたのは、俺の新しい母親しかない。若い担任の先生なのに権力強すぎない?

 

 そんなわけで去年から持ち上がりコースの水岡希更と同じクラスになった。

 

 バイトで忙しくて休み時間は寝てることも多いし、お隣になって一年だし仲が良いわけじゃない。

 

「うっさい乗せてくれよ」

 

 俺自身はコミュ障じゃないからこれくらいは言える。ただバイトで忙しいし、クラスは人間関係が保育園から固定されてる。つまり人間関係が完成されてて、入り込む時間が足りてないだけだ。ぼっちじゃないからな。

 

 特に女の子と話したことはほとんどなくて、挨拶以上はこんな感じで、一言二言話す程度だ。

 

「追いつけたら乗せたげるっとそりゃ~」

 

 ママチャリとは思えない速度で俺の横を水岡希更がすり抜けて車道へ下りて走ってる。

 

 そんなママチャリ水岡希更に、黒塗りの超高級外車が追いつき追走する。どうやら朝の混雑する時間帯に車道に出た水岡希更が邪魔みたいだ。

 

 黒塗りの超高級車に乗ってるのはクラスメートの兎田 友梨とだ ゆりクラスの文学少女で図書委員にして、文芸部だ。読んでるのがちょっとBLな腐女子だけど本人の名誉のために文学少女だ。でも有名なのは親がめっちゃ恐い警備会社の社長だと言う事だ。

 

 合法らしいけど、どんなときも黒スーツに黒サングラスのいかにも入墨がありそうな、ガタイのデカすぎる無口男が警備員で、和服の女性が事務処理社員なんだ。

 

 端的にヤクザとも言うけど違法じゃないし、悪い事もしてないらしく、見た目だけのファションヤクザらしい。なんだそれ。

 

 有名な話は夜の警備業務中に、不審者が黒スーツで黒サングラスの警備員を見付けて気絶することだ。更に不審者のSAN値が高くて耐えても、応援で来た黒スーツ黒サングラスの警備員や、和服女性にビビリきって警察に連れて行ってくれと泣きつくらしい。どんだけ恐ろしい警備会社なの?

 

 漏らすとか腰が抜けるとかは当たり前にあるらしいから、警備会社というか、傭兵とか警察よりも恐い集団だと言われてる。

 

 当然ながらクラスメイトの水岡希更と兎田友梨に置いて行かれた俺は走る。いらない考え事をして身体を誤魔化しても足と心肺は正直だ。

 

「ぜぇぜぇ、きっつぅ」

 

 常和学園まで約2キロ、担任の先生はもっと早く学校に行って準備してる。妹は早起きして先に学校に向かってる。そして俺は遅刻しても無かったことに、たぶんなるけど、いやなるからこそ遅刻出来ない!!

 

「分かってる!俺が悪いと!!」

 

 そして遅刻したら100%親にバレる。だって担任の先生が母親だから、そして100%揉み消す。だって母親が担任の先生だから。

 

 そんな母親に甘えたら俺はヒモになる気がする。というか義母が息子を自分のヒモにしてどうする。

 

「うぉぉ!!負けるな俺!進め!俺の足!上がってくれ俺の太もも!!」

 

 なんとか走りきり予鈴よりもギリギリ10秒早く二階の教室に入る。なぜか持ち上がりコースは専用校舎で学校外から見えにくい位置にある。そのせいで正門から遠くて辛い。

 

 心の中で校舎の位置への、文句と愚痴を呟きつつ息を整え荷物を机に整理整頓していて気が付く。

 

 義母の手作りお弁当がない。このままじゃ昼抜きだ。そして男子高校生にとって26才の女の人が作ったお弁当は特別だ。これは人生の大きな損失だ。

 

 親父のは特別でハートの人参とか入ってて、ラブってご飯に海苔で書いてあるのを知ってる。

 

 俺のは普通にざく切り人参の煮物とかご飯に板海苔だけど、ご飯が数段式でハートの海苔がご飯の間に何層も挟まれてるんだよ!!26才の義母よ!どんだけ義理の息子が好きなんだ。

 

 そしてその無駄な気配りありがとう。誰にもバレずに食べられる配慮まで出来る人なんだ。そんな素敵なお弁当を今日も食べたかった。

 

 俺は意気消沈しながら午前中を過ごした。そして昼休みになると購買で食べ物を買う金も持ってないし、帰宅部の俺は運動部派閥じゃないし、帰宅部主流のオタクでもない。バイトと家事の手伝いで忙しくて話しが合わないからだ。

 

 アニメとかマンガとかラノベとかの話しを、されても知らないから困る。サッカー部の奴とは少し貧乏トークで話しが合う。でもなんか憐れみとドン引きの合わさった目で見るのは解せん。貧乏さは大差ないだろ?

 

 そんなわけでクラスの級友と話しの合わない俺の友達は少ない。いや、まだ入り込めてない。そこで昼休み開始と同時に寝る事にする。

 

 他人の食事が羨ましくて余計に腹が減りそうだし、不貞寝の意味もある。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 私は安倍 典子あべ のりこあだ名はてんしちゃん。産みの母親のことはほとんど覚えてなくて、たぶん魔法を悪用して逃げたんじゃないかと思ってる。お兄ちゃんが自由人って言ってたし。

 

 私にとって家族はお父さんとお兄ちゃんの安倍真治だ。母親が消えて暫くして、山に遊びに行ったときにお兄ちゃんに向かって猪が突進してた。お兄ちゃんは猪に気がついて無かった。だから私は全力で魔法を使った。

 

 私の魔法は身体強化で効果は弱い。でも、もう一つの切り札である固有魔法がある。それは対消滅という最強魔法なの。

 

 これは物質に反物質状の魔力をぶつけて消滅させる。生き物でも無機物お構い無しで、猪を簡単に対消滅させた。でも魔力消費が凄まじく僅かでも使えば反動で私もダメージを受ける。

 

 猪は大きすぎて、反動で私は倒れて入院した。手術も受けたけど無事に助かったから後悔はない。


 固有魔法の強さから日本で4人目のSランク指定されてる。日本人のランクを決めるのは魔法使いを守り、自浄する日本の独自の魔法協会だ。

 

 犯罪を魔法使いが犯せば魔法協会が狩ることで、善良な魔法使いを風評被害から守ってる。

 

 また科学は魔法使いの天敵で、研究と称して生きたまま解剖されたり、実験として殺されたり、人権を無視した実験を受けたりと人間の尊厳を奪われた歴史がある。魔女狩りなんて最たるものだ。

 

 だから魔法使いがひっそりと暮らせるように、科学の好奇の目から隠れれる様に守るのが日本魔法協会だ。国や宗教との兼ね合いで国や地域によってパーワーバランスが違うけど、日本では魔法使いを守る相互扶助組織の魔法協会が最大勢力なの。

 

 そして常和学園は魔法協会が魔法使いの子供たちを守るために作った学園だ。

 

 まぁ、そんなことはどうでもいい。問題はお兄ちゃんを好きなあのお隣さんだ。お父さんとお兄ちゃんは私の絶対の味方だけど、他の人は信用ならない。

 

 だって兄と父以外の男は私の見た目に騙されて簡単に貢ぐ。女はもっと酷い。友達のフリして有る事無い事を言えばあっさり信じて虐めたりハブったりする。

 

 私に男が寄ってくるのが気に入らないとか言っても、ちょっと友達を奪い取り、ちょっとハブるだけで私に許しを請う。親友とか言っても次の日には、悪口を言ってイジメてる。そんな生き物を家族に出来ない。

 

 でも新しい母親は認めてる。同じ女として私の腹黒さ一瞬で見抜き私を評価して、『てんしちゃんは普通に人間社会で生きて行けるわ。だからこれから貴女を私と対等な女として扱うわ』と言いそのとおりに実行した。強いし誰も虐めないし絶対にブレない芯がある。あのお母さんなら信用出来る。

 

 正面から自身の意志を通せるから、虐める必要がないのだと思うけど。

 

 何よりお母さんは私の絶対の味方であるお兄ちゃんの絶対の味方だから。そんなわけでお隣さんの水岡希更を試すつもりだ。弱くて騙されたり、虐めたりする女は認めない。

 

 ちょうどお兄ちゃんのクラスは過去100年で最高の天才年代と呼ばれ、凄い魔法使いが集まってる。

 

 ま、そんな天才共を全員まとめて相手しても、対消滅で一撃必滅な私が最強だけど。Sランク指定を舐めないでよね。

 

 さて先ずは水岡希更にお兄ちゃんのクラスメートをぶつけて潰れるか勝つかを見守りましょう。弱い家族はいらないから潰れて欲しいけど、勝ち抜いたら私が直々に相手してあげるわ。もちろんその過程で誰かを裏切ったりイジメたりしても認めない。その時は地獄に落としてあげる。

 

 今日は、私の中学校の先生の言動にイラッとして、お返しにメガネの鼻当てを対消滅させたら、反動ダメージで熱が出て、家に帰ったらお兄ちゃんの特製お弁当が忘れられてた。これを届けるついでにショウタイムよ。今日はツイてる。

 

 早速お兄ちゃんのクラスに、向かいましょう。

 

「えっと2年3組ってここですか?」

 

 お兄ちゃんのクラスにまた登校して来た私は男子生徒に声をかける。先ずは体育会系のこいつを陥落させよう。お金の匂いはしないけど。

 

「そうだけど?常和中の生徒がなんの用?」

 

安倍 典子あべのりこです。みんなには聖典のてん、子孫のしで、天使ちゃんって呼ばれてます。えっとね、お兄ちゃんいますか?」

 

 コテンと首を傾げて要件を伝える。あっ惚れた。これだから男は信用ならないの。

 

「俺は虎井 遥輝とらい はるきえっとお兄ちゃん??もしかして、安倍ってことは安倍真治のこと?あいつこんなに可愛い妹がいたのかよ。紹介しろよって!!そうじゃない。俺はサッカー部なんだけど今度試合を見に来ない?」

 

 マジかぁ。がっつきすぎだし口下手過ぎて引くわー。そりゃお兄ちゃんは絶対に紹介しないよ。

 

 ま、ついでに虎ならぬ発情期の猫みたいなこいつの仲間も惚れさせておこう。無駄に力強くて便利そうだし、もしもの時は手術費用を少しでも寄付させれそうだし。お金は無さそうだけど。

 

「えっと、体調が良かったら観に行くから、皆さん誘ってね」

 

 近くにいる運動男子にも愛想を振り撒くと見事に見惚れてる!良し計画通り。

 

 体調良いことはないとは絶対に思うけどね。さて次はあの顔だけのイケメンかな?視線を合わせてにへらっと笑顔を向ける。

 

「奥のお兄ちゃん達も私の体調が良かったら遊ぼうね」

 

「「「ぐっは、ハァハァハァ、天使ちゃん!!俺達にお兄ちゃんだと!!本物のお兄ちゃんになりたい」」」

 

 マジか!!リアルにキモい!!でも運動部の発情期の猫達よりお金の臭いがするから我慢っと。寄付金♪寄付金♪これで借金しなくても手術出来る♪

 

「えへへ~、お兄ちゃんが増えましたね♪あっ、そっちのお姉ちゃんは何読んでるの?」

 

 特にあのリーダー格は知ってる兎田警備保障の社長令嬢だよ。お金持ちと政財界は人脈繋がないとね。女の子向けの笑顔を向ける。

 

「「「あぁ、なんて尊い百合百合したい」」」

 

 おいおい、こいつら頭を大丈夫?なんか貞操の危機感じるけど!?私に手を出したり、お兄ちゃんになにかしたら世界から消滅させるけどさ。お兄ちゃんのクラス心配になってきたよ。これは仲良くしない方がいいかな?

 

「ゆりゆり?よくわかんないけど仲良くしてね♪」

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