015話 忘れてないよ!!

 希更が両手に花なデートを決めて、お兄ちゃんになり隊の熊尾龍太は天使ちゃんからミッションをアイコンタクトで与えられた。

 

 ここで焦った兎田友梨は、もう一人出遅れている虎井遥輝を放課後部活終わりのファミレスに、呼び出していた。

 

「女を待たせるとか、そんなのだからモテないのよ」

 

 しばらく待ったので、夕食時は過ぎて貸し切り状態である。

 

「兎田にモテたいと思ってないから」

 

 兎田友梨からメニュー表を受け取ると、財布の中身を確認して、値段で探し始める虎井遥輝に仕方ないなぁみたいな顔をする兎田友梨である。

 

「ポテトフライで」

 

「そう、私は先に決めてるから。呼び出したしドリンクバーくらい奢るってあげるから感謝しなさい」

 

「ありがとございます」

 

「そんなに笑顔だとキモいわ」

 

 虎井遥輝が心外何だけどと言いたいが、ボタンで呼び出せれたウェイターの男が、やってくる。

 

「フライドポテトにドリンクバー、トリプルハンバーグ定食大盛りとスーパー増量チョコレートパフェにドリンクバーで」

 

「はい、フライドポテトとドリンクバー、トリプルハンバーグ定食の大盛りとスーパー増量チョコレートパフェにドリンクバーですね?」

 

「はいお願いします」

 

 ウェイターが去ると虎井遥輝が口を開く。

 

「慣れてんなぁ。それにしてもそんなに兎田って食べたっけ?」

 

「ファミレスは注文しにくいわ。安い店にめったに来ないし。たまに来た安い店だから食べたくなったのよ。多すぎたらあげる」

 

「なんかムカつく。もったいないから食べるけどさ」

 

 口ぶりとは違い割りと嬉しそうな虎井遥輝である。

 

「さてと、問題は私達がお兄ちゃんになり隊とお義姉ちゃんになり隊に、出し抜かれてることよ」

 

 それは個人としても派閥としても困る。

 

「天使ちゃんとしては、水岡と安倍が仲良くなって欲しくないみたいだろ?安倍とは仲良い方だし、悪口の手前くらいの情報入れるか?」

 

 そこにパフェ以外のメニューが運ばれてくる。

 

「そこのネタは食べながら、考えましょうか、これはハンバーグ2つあげるわ」

 

 問答無用で兎田友梨がフライドポテトに、ご飯の大半とハンバーグ2つを乗せる。

 

「あっ・・・すまん。ありがとうな」

 

「「いただきます」」

 

 肉と米に埋まったフライドポテトというプレートを嬉しそうに食べ始めた虎井遥輝を、アホやという感じで兎田友梨は眺めながら自分も食べ始める。

 

「それで安倍くんに吹き込むネタは何にするのよ?」

 

 ハンバーグにがっつきつつ、虎井遥輝が思案する。

 

「魔法系は、話せないとなると暴力しかなくないか?テニスで股間ショットで男を殺ったらしいし」

 

「そんなの安倍くんも知ってるでしょ?こう男がドン引きする女の子のなにかないの?」

 

「いや、股間ショットは男にしたらあかん」

 

「ふーん、それで上手くいく?女子の中では目立つし、水岡の性格は知ってるでしょ?」

 

 実際にクラスメートには遠慮なくボコる希更なので、安倍真治も見ている。

 

 それに今朝は熊尾龍太を事故ったまま放置して遅刻させたいたし。なお熊尾龍太は情け容赦ない芦屋陽子あしやようこに遅刻歴はもちろん、お仕置きというか雑用を大量に押し付けられていた。

 

「まぁな。水岡は裏表はないし悪口とか陰口とかはどこかの誰かと違ってしないからな」

 

「何よ?ハンバーグあげたのにその言い草は?ケンカなら今度は本気で倒すわ」

 

「別に兎田が言うなんて言って無いし。自覚はあって良かったけどな」

 

「こいつマジ許さん」

 

 食事中の虎井遥輝へ兎田友梨のビンタが突き進む。しかしひょいと躱すとハンバーグとフライドポテトに白米を食べ進める。

 

「こらこら、せっかくのやまとなでしこが台無しじゃん。普通にしてたら可愛いのにな」

 

「なら口を慎みなさい。口は災いの元よ」

 

 少々照れて目線を外す兎田友梨である。

 

 暫しの沈黙の食事が続き、スイーツのスーパー増量チョコレートパフェが運ばれてくる。総重量1キロという中々の重さである。

 

「これはあげないわ」

 

 特大サイズのパフェを食べ始める兎田友梨は、かなりの甘党なのだろう。

 

「俺のパフェじゃないし好きに食えよ」

 

「どうしてもって言うなら考えるけど?それとも、間接キス狙い??」

 

「パフェはそこまで食べたくないし、間接キスってそのスプーン使わしてくれるのか?」

 

「ちょっ!?そんなことするわけないじゃない!!変態じゃないのよ」

 

「恋人か夫婦なら普通じゃね?」

 

「あんたと恋人になりたくないわ」

 

「天使ちゃんが狙いだし、893さんはお断りだ」

 

「暴力団違うから!!合法なの。こんなやつと組もうとした私がバカだったわ」

 

「水岡の邪魔はしてやるから安心しな。当日はチケットないし、どうにもならんけど」

 

「当日は水岡を呪って止めてやるから、役に立たないバカなザコとは違うのよ」

 

「そのバカなザコの底力見せてやるぜ。紙ナプキン式神化!!起動」

 

 虎井遥輝の魔法により大量にある紙ナプキンが兵隊となる。ちなみに大量パフェはすべて兎田友梨があっという間にたいらげた。

 

「本当に馬鹿なの?ここは公共の場よ?まぁお客なぜかいないけどっと、三半規管シェイクトルネード」

 

 目を回らせて、食べたものを吐かせるヤバい呪いを発動時させる。

 

「盾になれ紙ナプキン式神」

 

「ぐぬぬぬ、魔法の才能はムダに高いわね」

 

 魔力でコントロールするように事前準備するのだが、そんなことをしなくても大量に操れるのが虎井遥輝の非常識な才能である。

 

 しかしながら目が回った式神は暴走してファミレスを荒らしていく。そして兎田友梨も虎井遥輝も立ち上がり本格的な戦闘へ移行する。

 

「隙あり!!汗をかきなさい」

 

 兎田友梨も才能としては異様に発動が早くて、高威力な呪いを連発するという非常識ぷりである。さらにフックで虎井遥輝の肝臓を狙う。

 

 洗練された格闘技術によるフェイントが織り交ぜられた一撃は、虎井遥輝の反射速度を上回り初撃は兎田友梨が決める。呪いは防御したので、虎井遥輝は呪い防御を優先したようだ。

 

「ぐふっ、魔法と格闘攻撃を同時にするのも才能がムダに高いだろが!!舞って切り裂け紙ナプキン!!」

 

 手裏剣のように紙ナプキンが飛び回るが、本物の刃物ような切れ味をまじで持っている。

 

「危な!鈍らになれ!!」

 

 メニューなどの備品を切り裂き飛び回る紙ナプキンを即興的な呪いで無効化する。


 切れ味こそ失われるが、そこはムダに才能のある虎井遥輝の式神なので、備品をボロボロにしながら飛び回る。


「お客さん〜!!ワンオペファミレスなのです(´;ω;`)片付けする店長の俺のためにやめて下さい!!」


 管理職なので、残業代の出ない悲しい大人の声は届く事はなく、高校生は戦闘を継続する。


「そんな呪いありかよ!?それでも手数で押し切る」


 ファミレスに紙ナプキンは凄い枚数がある。そして的確な一撃であっても、男女差もあり格闘技術の差を根性で埋めるつもりらしい。


「式神に集中しすぎてボディーガラ空きなのよ!!全体MP強制開散!!」


 兎田友梨の拳を使った、フェイントから必殺技が決まる。


「チッ、今度こそ根性じゃ」


「式神が全滅したら諦めなさいよ」


 いつかのように、虎井遥輝が女の子でしかも社長令嬢へラッシュをかける。


「先にレバー決めてるから今度は勝つ!!」


「お・きゃ・く・さ・ん!!ここはファミレス!!ケンカは外でするんですよ!続けたら警察呼びますよ」


 ここで初めてワンオペ店長に気が付く、兎田友梨と虎井遥輝である。


「「あっ、やっべぇ」」


そこに兎田友梨の送り迎えとして待機していた黒塗り外車から、黒サングラスに黒スーツのガタイ良すぎる担当社員がやって来る。


「兎田友警備保障の亀島千忍かめしませんにんと申します。本日は社長の御息女と級友がご迷惑をおかけしました。お片付けをお手伝いしますし、必要なら損害賠償を請求して下さい」


「・・・いえ、常和学園の高校生はアルバイトで頑張ってくれてますし、次から気を付けてくれればそれで十分です」


 SAN値をゴリゴリ削られた店長は早く帰って欲しいと願ったのだった。何しろ犯罪者がビビる警備保障会社のエース、兎田友梨付きである。つまり恐さもエース級なのだ。


 こうして安倍真治が知らないところでバイト先の店長は、涙ながらに独りで片付けをすることになったのだった。

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