009話 遭遇戦と友情??

 夕方から暗くなる黄昏時、部活や委員会活動も終わり下校する時刻だ。もちろん女子運動部の水岡更は早々に帰ってるし、帰宅部のお兄ちゃんになり隊はサブカルチャーの大海原で大遭難している。

 

 なお水岡希更は、絶対的エースというか各部活から大会時は臨時部員として、呼ばれまくるのである。だから所属部活はない。球技でも陸上でも水泳でもなんでこなし、大会で成果を残す天才なのだ。

 

 そんな夕暮れの時刻に部活を終えた、サッカー部の虎井遥輝と、図書委員で文学部の兎田友梨が校庭で鉢合わせする。

 

「あら?誰かと思えば負け犬ならぬ、負け猫の彼氏になり隊の虎井さんじゃないですか?サッカー部の活動お連れ様」

 

「何いってんの?図書委員で文学部のお友達になって百合百合し隊の兔田うさたさんもお疲れ様」

 

「あら?身体を動かすばかりで頭が足りてませんでしたね。虎はすっかり猫になるどころか頭がスカスカの馬鹿なんですね?兎田うさたではなく兎田とだ兎田警備保障とだけいびほしょうですよ?」

 

「社長令嬢は名前の間違いも流せないとか、大変そうなんだな」

 

「なんですって!貧乏人の分際で!!いいでしょう!!ここで実力を見せてやります!!貧乏人らしく、裸マントで逆立ちで下校させてやります。くらえ傀儡化」

 

 傀儡化の呪いは安倍晴人のマリオネット魔法よりは数段落ちる。なぜなら意識や記憶操作は不可能だし、受けてから解除もできる。一時的に身体操作権を奪う程度の効果だ。

 

 それでも兎田友梨が個人で使える呪いでは最強の部類である。

 

「相性が悪いんだよ、奥義!!式神変化!!精々キクラゲを支配するがいい」

 

 見た目と触感はキクラゲではある。ただしあくまで本質は紙だ。錬金術ではないので紙は紙なのである。

 

 ちなみにキクラゲはキノコである。そしてこれほど変化させるのは、式神魔法のそれこそ奥義だ。

 

「何よそれ!?そんなのあり!!食材じゃないの!魔法理論をなんだと思ってんの!?」

 

 傀儡の呪いにより地面に落ちたキクラゲを配下におくことに成功する、お姉ちゃんになり隊のリーダー兎田友梨である。もちろん動かないし紙なので食えないから全く役に立たない。結果お互いにMPの無駄でしかない。

 

「ラーメンのキクラゲを増量するために覚えれた!食えないだけだ!式神展開!!行け!」

 

 実に貧乏な高校生男子らしいふざけた理由だ。しかしなぜチャーシューにしなかった?

 

 たぶんチャーシューが紙で食えないと悲しいからだろう。紙のキクラゲなら我慢出来なくもない気がする。

 

 校庭の土からゴーレムのような式神を作り出す虎井遥輝。

 

「チッ結構な大物出しやがって!無機物系だからって呪い魔法は余裕なのよ。幻惑!からの崩壊!」

 

 ゴーレムの魔法耐性を幻惑で削り、崩壊を決める。これによりゴーレムは土に戻る。

 

「これで終わりよ!くらえ!切り札だ!!MP強制開散」

 

 呪いにより、ターゲットのMPを強制枯渇させる兎田友梨の大技だ。魔法使いに取ってMP切れは敗北を意味する。

 

「まだまだ!!盾になれ!式神変化!!キクラゲ!!」

 

 キクラゲ型の無意味な式神はMPを全開放されて、紙に戻る。

 

 どちらも無駄に無駄を重ねた無駄に消費の多い攻防だ。端的にいえばどっちもアホである。

 

「キクラゲってなんなのよ!!」

 

 だからキノコの1種である。

 

「ラーメンのメインだ!!10連!!式神生成」

 

 そこは麺じゃなかろうか?一応は拉麺って書くし麺料理だし。

 

「小賢しい!幻惑!混乱!からの傀儡!」

 

「かかったな!兎田梨佳!!これで終わりだ10連!!大型式神!!イケっ」

 

 土のゴレームぽい式神を10体作り出す。虎井遥輝は勝負を決めに来たようだ。

 

「まだそんなMPを残してたか!?式神達よ時間を稼げ!!」

 

「質は強さ!!這いつくばって許しを請うがいい!!」

 

 土のゴーレム相手に紙製の式神しかも操作を無理やり奪ったので、あっという間に壊滅する。 

 

「良くやった式神ども!!正真正銘の切り札だ!全体MP強制開散!!」

 

「なんだと!!たった一人でこれだけを呪うとは!?」

 

 魔力で動く式神は停止しゴーレムは土に戻る。

 

「ぜぇぜぇ、てんしちゃんのお友達になって百合百合するまでは、負けない!」

 

「フハハ、だがもうMPは残ってないだろ?てんしちゃんの彼氏になるのを指を咥えて見ていろ」

 

「ハッタリを魔力強制開散は虎井遥輝にも決まっているMPはお互い空よ!」

 

 やっている事のレベルは高い。しかし争う内容が酷い。とりあえず、てんしちゃんの意思を確認しろよ。

 

「「こうなれば残すは肉体言語!!」」

 

 カッコよく言っても、やるのはただのケンカ。そう殴り合いだ。ファンタジーどこに行った?

 

「女に体力で負けるわけがない」

 

 今朝、その女の子である水岡希更にボコられてたぞ?

 

「偉そうに!兎田警備保障の訓練くらいは受けてるのよ」

 

 今朝、女の子で訓練受けてない水岡希更に一撃で沈められたり、廊下で締められて落ちてたが?

 

「オラオラオラ」

 

 虎井遥輝は女の子相手なのに全力でラッシュする。今朝はラッシュさせて貰えなかったからかね?八つ当たりだろうか?

 

「これだから素人は雑魚なのよ」

 

 兎田友梨はガードしながら、狙いすましたカウンターを虎井遥輝の顎に放つ。

 

 なんでそんなボクサーみたいな事出来るのに廊下に落ちてたん?むしろ希更を褒めるべきか?

 

「ぐはっ、根性じゃー!!スポーツマンは限界を迎えてからが勝負なんだよ。なんだよ社長令嬢って!俺はな、遠征費どころか部活費も払うの大変なんだよ!!それなのに練習試合して一番強い勝てない相手は水岡希更だけのソロってって、おかしいだろうが!!サッカーはチームスポーツだ!!」

 

 脳を揺らされても手を緩めない虎井遥輝、部活で女の子にボコられてるから遠慮はないらしい。サッカーでなんで個人に負けるのか謎である。

 

「知るか!!親は選べないの!!あんなむさ苦しい奴ばっか飽きたのよ!あと水岡希更は体育でも手加減しないから、どうにもならないのよ!!何よ!!制限時間10分バスケなのに一人で389得点って!!」

 

 兎田友梨は、今度はクロスカウンターを芸術的に打ち込む!!どうやら運動能力で水岡希更は飛び抜けてるらしい。

 

「グホッ、金持ちが何言ってんだよ。毎日、毎日キャベツは飽きたんだよ!!」

 

 キャベツは安くて多くて栄養価もある、庶民の味方である野菜だ。

 

「強面のおっさんが無理に笑顔してるよりマシでしょ!!タ○ミネ○タ○より怖いのよ!!しかも微妙に魔法使いだから無駄に迫力あるのよ」

 

 お互いパンチの威力が落ちてくる。体力も無くなりかけているらしい

 

「チヤホヤされてる証拠じゃないか!!金持ちなんだから我慢しろ!!」

 

 貧乏なので金持ちに根性では負けたくない、虎井遥輝である。

 

「チヤホヤじゃないわよ!!毎日ドスの使い方を男達が黒服黒サングラスで訓練しながら、私には無理に笑うのよ?地獄より酷いわ!!」

 

 そんな男達に鍛えられた兎田友梨は殴られても急所と顔面はきっちりと防いで、僅かな隙きに鳩尾へクリティカルパンチを打ち込む。

 

「ふぐ、ドスだぁ?こっちはな毎日自分で包丁握って、キャベツ刻んで一人飯して弁当作ってんだぞ!ハァハァハァ」

 

 息も絶え絶えでさすがに、ラッシュをやめる虎井遥輝である。

 

「ゼェゼェゼェ、やるわね」

 

 さすがにMPを使い切ったままで、さらに文学少女なのに殴り合いをした、兎田友梨も限界らしい。技術があっても体力は増えないようだ。

 

「「今回はその苦労に免じて引き分けにしてやる。けど次は勝つ!!」」

 

 どうやら変な友情が生まれたが、欲望には素直なため争いは辞めないらしい。

 

 その争いの元凶は、兄の彼女になりたいチートぽい運動能力持ち主をクラスメートで試すためで、残念ながら勝ってもご褒美は無さそうではある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る