第4話 最初の冒険者


「こんにちわ!」


 屋敷に到着するなり、そう大きな声で挨拶したのは俺よりも少し年下の少年だった。


 俺は18。

 だけど、こいつは16か5くらいに視える。


 朱色の短髪で、腰にはナイフが見える。

 それとは別に太腿にも小さい鞘が固定されていて、短剣の二刀流で戦う事を想定している様だ。


 元気良く挨拶してくれている。

 別に賢そうには見えない。

 まぁ、ちょうどいいか。


「僕はハル・クライといいます。

 よろしくお願いします!」


「あぁ、良くいらしてくれました。

 私はこの地の領主をしているアリウス・フェイ・ラートハルトです」


 1週間程前。

 王都に存るギルドに依頼書を出した。

 この少年は、それを見てはるばるやってきてくれたのだ。


 大きいとは言えない屋敷へ彼を招き入れ、客間に案内する。


 客間にあるソファに彼を座らせると、扉がノックされた。

 現れたのは黒髪の使用人だ。


 無論、俺の両親にも俺にも使用人を雇う様な無駄金は無い。

 彼女はモモシスの分身体だ。


 迷宮魔法を起動した悪魔は、自身の迷宮からかなり限定的にしか外に出る事ができなくなる。


 よって、外出には特別な方法を使う。

 リスポーンシステムを利用するのだ。


 自分の肉体をコピー。

 魂をその器へ移して外出する訳だ。


 何故、桃色の髪のモモシスが黒髪の女に変身したのか?

 知らないし興味もない。


 胸とか尻も少し小ぶりになった。

 なんというか、清楚な雰囲気が醸し出されている。


「うわぁ……!」


 それに少年、ハルが見とれている。


「こほん」


 咳払いすると、見とれていた視線が慌てる様に俺に移る。


「早速ですがご依頼の話をしても宜しいでしょうか?」


「も、勿論です」


「それでは……」


 そう言って、俺は話始める。

 ストーリーは簡単だ。


 領地内に迷宮が発生した。

 その調査を冒険者に依頼したい。

 けれど、金がないからランクの低い冒険者しか雇えなかった。


 普通、こんな依頼を受けてくれるような冒険者は少ない。


 依頼料が少ない。

 遠出が必要。

 そして、危険度未確認のダンジョン調査だ。


 そんな依頼を受ける奴は無い。

 それこそ駆け出しの馬鹿くらいしか。


 一月は待つつもりだったのだ。

 けれど、この少年は俺が依頼を出して2日程で受注してくれた。


 本当の馬鹿か。

 それとも何か都合があるのか……


 だが、どちらにせよ関係ない。


 何事も最初が肝心だ。

 必ず、成功させる。


 お前には、主人公って物になって貰う。


「なるほど、それはこの街からも近いんですか?」


「えぇ、街の外周から300m程の場所ですね」


「それは危ないですね。

 分かりました、僕が調査してきます!」


「長旅お疲れでしょう。

 よければ、この屋敷で良ければ一泊してからでも」


 本音ではリソースは余り使いたくない。

 しかし必要経費だ。

 一応、食事の準備もしている。


「いえ、この村の皆さんも怖がってると思いますから」


 ――直ぐにでも。


 少年は、何かを思い出す様にそう言った。


「ありがとうございます。

 それでは、案内いたしましょう」


 何を急いでいるのか知らないが、早く行ってくれる事に越した事もない。


「ハル様」


 俺とハルの為に扉を開ていたモモシスが、通り過ぎようとするハルへ声をかける。


「はい?」


「どうか、よろしくお願いいたします」


「はい、任せて下さい!」


 美女に願われ、奇跡を起こし、大成を為す。

 それが、英雄を目指す者の願望だ。


 それに酔ってくれるのなら、俺にとっては尚の事ありがたい。



 移動し、彼の背中に声をかける。


「私は、ダンジョンの外で待っています。

 どうかご武運を」


「えぇ、行ってきます」


 彼は鳥居を抜けて歩いて行く。


 10分程待って、俺も中へ入った。

 中には、先日も見た奇怪な摩天楼が広がっている。


 既にハルの姿は無い。

 俺の前では本体モモシスが、腰から生えた二対の黒翼で浮遊していた。


「調子はどうだ?」


「うん、スライムは全滅。

 ゴブリンは1匹やられたね。

 あ、今2匹目と戦いだしたみたい」


 10分で、結構探索してるじゃないか。


「ていうか、本当にいいの?」


「何がだ?」


「いやだって、アリウスって戦士とかじゃ無いよね」


 そうだ。

 俺は所詮貴族のボンボン。

 戦は無縁で殺し合いなんてした事もない。

 喧嘩の経験すら殆ど無い。


 でも、親父からは一式の戦闘技能を叩き込まれている。


 だから、ここが俺の最初の踏ん張りどころだ。


「構わない。

 この先、どうせ誰も殺さず、黒い事を何もせずに領地を発展させていく事など不可能だ。

 俺は、最初から諦めている。

 俺と俺の領民以外の幸福なんざ必要ない」


 全てを求めるても叶わない。

 無理だと分かっている。


 身を持って体験した。

 得る為には、何かを犠牲にしなければならない。


 だから、最初に捨てる物は誰もが持っいて、けれど無意味で、簡単に捨てる事ができる物。


 良心と慢心プライドだ。


「分かったよ」


 モモシスが、俺に触れる。

 そこから大量の魔力が、頭と心臓に流れて来る。


迷宮魔法ダンジョンスペル精神結晶ソウルドライブ


 俺の魂が抽出され、結晶化されていく。

 それがモンスターに注入される。


 眼球が無いから光が捉えられない。

 嗅覚も触覚も味覚も聴覚も無い。


 だが、それを補って余りある魔力感知能力がこいつにはある。


「どうかな、スケルトンになった気分は?」


「カカカ(まぁ、悪くない)」


 口が無いから喋れない。


 精神を結晶化、複製体の中へ入れる魔法。

 それは、俺がスケルトンの身体を操るという事も可能とする。


 変身した理由はただ一つ。

 この迷宮を挑んでも安全な迷宮だと証明する為。


 それには、最初に死ぬ生贄が必要だ。


 けれど、モモシスの契約している魔物だけで冒険者に挑むのは無謀だ。

 駆け出しでも低位の魔物程度なら戦える。


 けれど、そんな物に俺が頼る等在り得ない。

 だから、大事な事は自分でする。


 ハル・クライ……お前には、この迷宮で死んでも生き返る事ができるという事実を、宣伝して貰う。


「カカカ(それじゃあモンスターらしく、侵入者を虐殺してみるか)」

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