第3話 リスポーンシステム


「この街の風景をお前は知っているのか?」


「そりゃね。

 ……私の故郷って言った所かな」


「魔界ってのはこんな感じなのか……?」


 かなりイメージと違うな。

 もっと、おどろどろしい場所なのかと思っていた。

 まぁ、ある意味驚きに満ちてはいたが。


「そういう訳じゃないんだけど……」


「煮え切らないな」


「まぁ、また今度説明するよ。

 色々ね」


 そう言って涙を拭うモモシスは、何故か嬉しそうだった。


 その後、色々と迷宮内を見て回って分かった事がある。


 まず、広さだ。

 この迷宮の第一階層の広さは直系2km程の正方形。

 高さは、あの槍の様な建造物、モモシスがビルと呼んでいた建物の最上階までは行けた。

 地下は不明。


 基本的に金属とガラスの街だが、多少緑も見える。

 あぁ、床とか壁に使われている材質はよく分からない。

 レンガを接着するセメント、モルタルにも似ているが、少し違う様な気もする。


 コンクリートとモモシスは言ったが、それが何かは彼女自身良く分かって居ないらしい。


「この金属って持ち出せないよな?」


「うん、迷宮の構造物はポータルの外に出す事はできないよ。

 できるのは、魔物の精神結晶と媒体の一部だけ」


 クソ、この鉄やガラスが持ち帰れれば、それだけで億万長者だったのに。


 しかし、迷宮とはそういう物だ。

 迷宮の外壁等は、崩して持ち帰っても出入口の門を潜ると消失する。

 それは、植物等も同じだ。


 迷宮から持ち帰る事ができるのは3品のみ。


 魔物の魔力が封じられた魔石という結晶。

 これはモモシスが精神結晶と呼んでいる物だ。


 それと、稀にドロップする魔物の身体一部の素材。

 そして、秘宝箱と呼ばれる特殊な箱の中身だけだ。


 迷宮では、自浄作用と呼ばれる現象が存在する。


 壁をぶっ壊そうが、草を燃やし尽くそうが、生物の状態以外は全て自然に元に戻る作用だ。


 だから、罠とかの設置物も一定時間で勝手に消える。

 悪魔視点でも、迷宮に罠を設置する場合は心象風景に罠という概念を植え付ける必要があるのだろう。


 だから、罠の存在する迷宮は少数だ。


「魔物は居るのか?」


「そんなには居ないよ。

 全部で10匹くらい」


「種族は?」


「スライムとゴブリン、スケルトンが3匹づつでしょ?

 あと、妖精が2人で小型の竜種が1匹」


 スライム、ゴブリン、スケルトンは雑魚代表のモンスターだ。

 でも、妖精は魔術式が使えるし、竜種なんてかなりレアな魔物だ。


「どうやって捕まえたんだ?」


「サキュバスは異性と契約しやすいから。

 その竜は、なんか匂いフェチらしくて週に一回私の髪の匂いを嗅がせるって事で契約してるの」


 随分と色欲に塗れた竜も居た物だ。

 というか、人間大のサキュバスに欲情したってどうしようもないだろ。


「契約ってのはどうやってやる?」


「アリウスにしたのと同じだよ。

 双方が条件を納得したら契約成立」


 悪魔の契約術式は魂に干渉する。

 そりゃ、人間の魂を喰らうのが悪魔という種族だしそんな事が出来ても不思議とは思わない。


 その術式で、魔物を縛って従わせている訳か。


「条件ってのは?」


「基本は魔力供給だね。

 魔物の食事って魔力の補給だから。

 食事不要ってだけで、結構な価値だよ。

 まぁ、上位の魔物はその竜種みたいに色々要求してくる事も多いけど」


「お前、魔力が足りなかったのはそのせいじゃ無いのか?」


「少しはね。

 でも、リスポーンシステムさえ使わなきゃそんなに魔力消費は無いよ」


「リスポーンシステム?」


 聞いた事の無い単語だ。

 迷宮の事は父さんから結構教わっているのに。

 人間視点と悪魔視点じゃ、結構知識に開きがあるらしい。


「そ、魔物を複製してダンジョンに配置する機能。

 魔物が倒されるたびに、新しい魔物と契約するなんて効率悪すぎるでしょ?

 だから、魔物の身体の一部を媒体にして身体を複製、精神結晶をその中に入れて一時的に精神をそれに移すの。

 複製だから死んでもオーケー。

 精神結晶に入れる魂は本人である必要ないから、ゴブリンの体にドラゴンの魂を入れるとかも一応できるよ」


 殆ど意味ないけど、とモモシスは説明を言い切った。


 確かに、迷宮は魔物で溢れかえっている。

 それは倒しても減る事は無い。

 その原因が、このシステムって訳だ。


「それの魔力消費はどれくらいだ?」


「複製する対象によるね。

 それが持ってる魔力量の10%。

 あ、でも複製で死んだらその魔物本人の魔力は殆ど0になるよ。

 だから再複製には最低半日は休ませないと無理。

 精神維持に必要な最低限の魔力以外は、精神結晶……魔石になるけど冒険者に持っていかれるでしょ?」


 俺は、その説明を受けて衝撃を受けた。

 頭に雷が落ちた様な閃き。


「……おい、ちょっと待て」


「なぁに?」


「それって、人間にも使わせられるのか?」


「え……まぁできるだろうけど。

 どうして?」


 その言葉を聞いて、俺はほくそ笑む。


 ピースは全て揃った。

 俺はそれを確信した。



 俺は悩んでいた。


 ダンジョン産業に手を出すのはいい。

 だが、冒険者が王都ではなく俺の領地の迷宮に態々やって来る理由は何だ?


 領民に迷宮を攻略させるのでは意味が無いのだ。

 何せ、悪魔と俺は手を組んでいる。

 モモシスに損失を被らせるやり方では意味が無い。


 俺とモモシス、両方が成長できる方法を探す必要があった。


 基本は外部から冒険者を招き、彼等を支援するサービスで儲けようと思っていた。


 だが、冒険者からすれば王都の方がサービスは充実して、こんな辺境に来るメリットは全く無い。


 けれど、リスポーンシステムがあれば違う。

 生き返るなら、練習場所としてこれ程適した場所も無い。


 悪魔の目的はダンジョンで人間を殺し、魂を食い、魔力を増やす事だ。


 リスポーンシステムを人間に使っても精神結晶という形で冒険者の魔力を徴収できる。


 冒険者が魔力を放出する技能、術式を使えばダンジョンが自浄作用で空気中の魔力を吸収し、それでも魔力はモモシスの物になる。


 確かに、殺す事に比べればそれらは些細な魔力徴収だ。


 けれど、定常的に魔力を得られるシステムの方が最終的な魔力徴収量は増える。


 では、どうして他の悪魔はリスポーンシステムを人間に使わないのか。


 簡単だ。


 ダンジョン自体が攻略される可能性が飛躍的に向上するからだ。

 知識は増え、ダンジョンの防衛内容も読まれ、攻略法が確立されていく事になるだろう。


 そうなってダンジョンが攻略され、悪魔本人が殺されれば本末転倒だ。


 だがしかし、俺は領主だ


 この領土に存在する全ての権利を持つ。

 それには、ダンジョン管理の権利も含まれる。


 モモシスのダンジョンを攻略しない事。

 というルールを定める権利がある訳だ。


「勝ったぞ、モモシス」


「え……説明聞いてたけど、全然意味わかんなかった」


「心配するな、俺が理解している。

 だから、お前は俺の言う事を聞いていればいい。

 そうすれば、本当にお前を魔王にしてやる」


「そう? それじゃあ期待しちゃおっかな」


 話半分に彼女は頷く。


 それじゃあ急ぐか。


 迷宮を作った今、モモシスの魔力全てを俺一人で補うのも限界がある。

 かと言って、領民の協力は仰げない。

 俺が悪魔と契約した等と、言える物か。


「王都から冒険者を呼ぶぞ。

 そうだな、できるだけ駆け出しがいい。

 仲間も少ない方がいいな……

 まぁ、死んでも生き返るんだから恨むんじゃないぞ」


「悪魔みたいな顔してる」


 お前が言うな。

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