番外編1. サミュの恋愛事情(後編)

「へえ、エマの何を聞いていたんだ?」


 言ってしまったものは仕方ない。にやりと笑うイザークと、観念して溜息を吐くサミュ。


「エマさんに恋人はいないのか聞いていました……」


 がっくりと、少し言いにくそうに、サミュはイザークにも告げる。


「エマの?」


 イザークはそういったことには疎い。どうなんだ?という表情でエレノアを見てきた。


「そういう話は聞かないですけど。でも、何でそんなこと聞きたいの、サミュ?」


 サミュは、う、と顔を赤らめた。


「そうか、サミュ、エマに惚れたのか?」

「ええ?! そうなの? サミュ!」

「うっ、なっ、あっ……」


 イザークに言い当てられ、サミュは増々顔を赤くし、言い淀む。いつも人懐っこくて明るいサミュがめずらしい。


「あーー、そうですよ! 僕はエマさんのことが好きなんです!」


 観念し、サミュが吐き出すように言葉を放つ。イザークは、「そうか、」と嬉しそうに笑っている。いつもからかわれる側なので、立場が逆転して嬉しいのだろう。


「えっ、いつからなの?」


 エレノアは単純に興味津々でサミュに詰め寄る。


「エレノア」


 近い、とばかりにエレノアはイザークにサミュから引き剥がされてしまう。と、同時にイザークの胸の中にすっぽりと収められてしまった。


 そんなやり取りも見飽きたサミュは、半目になりながらも答える。


「エマさん、エレノア様とよく騎士団に来てるでしょう? 話しているうちに、気付けば……」

「え? え? どこが好きになったの? エマ、美人だもんね〜」


 サミュの言葉に、エレノアは嬉しくなり前のめりに質問してしまう。


「エマさんは確かに美人ですが、裏表なくはっきり物を言うところとか、あと、やっぱり優しいところに惹かれたというか……」

「わかる!!」


 顔だけではない、エマの良い所に惹かれた、というサミュの言葉に嬉しくなり、エレノアは顔を輝かせた。


「エレノアに優しくされたときは惚れてないんだろうな?」


 腕の中のエレノアをぎゅう、と抱き締めながらイザークがサミュを睨む。


「ちょ、ザーク様……」


 慌ててエレノアが言葉を挟むと、サミュも呆れ顔で答える。


「エレノア様は僕にとっては女神ですから。触れてはいけない神ですから。恋愛対象とは違います。今は素敵な友人だと思ってますけどね」

「サミュ……!」


 イザークに念入りに説明しながらも、サミュはエレノアにウインクしながら友人だと言ってくれた。エレノアは嬉しくて笑みを溢す。


 イザークはそれすらも面白くなさそうに、ぶすっとした顔をしていたが、エレノアは後ろから抱きしめられていて気付かない。


「結婚されても相変わらず狭量ですね」


 すると後ろからエマの声がした。


「エマ!」


 イザークに未だ抱きしめられているエレノアは、顔だけを後ろにやり、エマを見た。


「またエレノア様に愛想をつかされても知りませんよ」


 スタスタと歩きながらエマが横にやって来る。


 エマの言葉にイザークは「う」と言葉に詰まり、エレノアをきつく抱き締めた。


「エマ、今日はジョージさんに呼ばれてカーメレン公爵家に行ったんじゃないの?」


 イザークに抱き締められながらもエレノアはエマの方に顔を向けた。


「はい。用事が終わりましたので、エレノア様をお迎えにあがりました」


 いつもはクールなエマも、エレノアに向ける表情は優しい。エレノアは「そうなんだ」と迎えに来てくれたエマに嬉しくなる。


「ジョージが呼び出すなんて珍しいな。何かあったのか?」

「お見合いの話でした」

「「ええええええ?!」」


 エレノアとサミュは驚いて声を出した。声は出さなかったが、イザークも驚いている。目を見開き、エマを凝視した。


「断りましたけど」 


 驚く三人とは対照的にエマの表情は変わらない。


「そっか……」


 エマの言葉に、サミュが安堵した表情を見せた。


「ジョージが勧めるなら、良い縁談だったんじゃないか?」


 イザークはホッとするサミュにニヤニヤしながらエマに問う。サミュは、ギョッとした顔で焦っている。


「私には気になる方がいますので」

「えっ?! どんな奴ですか?!」


 しれっと答えるエマに、エレノアもイザークも驚いたが、二人よりもサミュがいち早く反応した。


「この前、食事に誘ってくれた方です」

「えっ、あ、それって……」


 妖しくもにっこりと美しく微笑むエマに、サミュは翻弄されっぱなしだ。いつの間にかエマを食事に誘っていたらしい。エマの言葉に、顔を真っ赤にしながらも目を輝かせている。


「ね、サミュとエマ、うまくいきそうで良かったですね?」


 エレノアがイザークにこっそり耳打ちすると、イザークも嬉しそうに笑った。


「騎士団の団長と隊長が揃って惚れた相手に翻弄されるなんてな」

「え?」


 イザークの言葉に意味がわからず首を傾げたエレノアだったが、「何でもない」とすぐに抱き締められてしまった。


 イザークの腕越しにエマとサミュを見れば、サミュは真っ赤になりながらも嬉しそうに話している。


 そんなサミュを見て、幸せそうに微笑むエマをエレノアは見逃さなかった。


(良かったね、エマ!)


 大好きな二人の幸せに、エレノアの胸も温かくなった。


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